第69話 ゴルディオンに挑戦
■ マリオン。地球からここに落っこちた。本名、鈴木真理雄。
■ 〝あいつ〟無限炉の中で会った存在。真理雄に魔法を伝授した。
■ ネム。獣族の女の子、ものすごい美少女。白くて縞々。虎よ虎。
■ ミルテアさん。大地母神ステルアの司祭様。ハーフエルフ。ものすごい巨乳。
■ ご老公。フレデリカさん。前キルシュ公爵。思い切りのいい老婦人。ネムを孫のようにかわいがっている。
■ ロッテン師・フレデリカさんの侍従長。なぜかマリオンの師匠。割と脳筋
■ カンゴーム。昔フレデリカさんたちとパーティーを組んでいたドワーフ。ドワーフらしく気難しい。
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第69話 ゴルディオンに挑戦
「つまり融点や沸点が違う複数の金属を混ぜて合金を作るには……圧力か…」
翌日、カンゴームさんに教わったことをベースにゴルディオンの成型を試してみることにした。
現物はたくさんあるのだ。要は形を変えられればいい。
働きすぎ! という気がしなくもないが、思い出したくないことがあるときは忙しく立ち働くのがいいと思う。
何を思い出したくないかというと…まあ、女の子の体の中だね。
なんというか外科医の人とか産婦人科の人とかすごいわ。マジで。
ああいうのを日常的に見てまともな日常生活を送れるってマジすごいわ。
ああいうのを見ちゃうと女の子をエッチな目で見るのが難しくなってしまう。という話だ。
ネムとの幸せな夫婦生活のために要リハビリである。
で、まったく違うことをやろうということでネムを連れてピクニック…がてら魔境でゴルディオンの練成にチャレンジしてみることにした。
こうしてみると俺の『師匠の逸話』は実に役に立つ。
ネムとの生活のためにある程度目立っても実力を示すという方針を選択したが、その時に言い訳として役に立つのが【俺の師匠が世に知られることのなかった来訪者である】という誤解だ。
俺が無茶な魔法などを使っても【師匠がすごい】ということでみんなが納得してくれるという部分がある。“あいつ”は今や隠れた大賢者(笑)だ。
もちろんなんでもかんでもというのはまずいと思うので、ある程度の実力、つまり普段使いすると便利なところは大っぴらにしつつ、本当にまずいところは内緒にしないといけない。とは思っている。
つまり切り札だね。
とりあえずこのゴルディオン練成はどちらに入るのか。その前に一回やってみよう。と思ったのだけれど想像以上に難しかった。
現物は切り刻んだ大量の隔壁という形で『しまうぞう君』の中にあるので要は形を変えればいい。
そんな風に考えていたんだがこれがとんでもない。
「マリオン様、それじゃ狩りに行ってきますね」
「はーい、行ってらっしゃい」
結構離れたところまで飛んできたからこのあたりはあまり人はいないだろう。
それでいて奥深くではないので危険な魔物も少ないし、いいピクニックである。
で、ここに来て一発、ゴルディオンを生成してみようと理不尽ナイフで小さく切り出し、魔法で加熱してみた。
結果は見事な失敗。
結構頑張ったんだけどねえ…
魔鋼やミスリルが完全に液化しても、全く解けない金属とかもあってうまく混ざらなくなってしまったのだ。分離してしまったのだ。
しかもその金属粒子を解かそうと火力を上げたら今度は他が蒸発してしまうし。
もちろん金属粒子を吸い込まないようにガッチリ防御しましたよ。力場で。
で、ネムはいい嫁だなあと思うのが、この仕事の間、つまらないだろうにちゃんと控えて待っていたくれたんだよね。
なんというか頭が下がる。
逆の立場だったら俺は黙って待っていられるだろうか?
自信がない。
さて、そんなわけで冒頭のセリフに戻るわけだ。
「確か水に際限なく圧力をかけると分子や原子が動けなくなって氷状になるという話を聞いたことがあるんだけどな…」
それを応用してどうでしょうか? ということだ。
つまり金属が気化するような環境でもそれを逃がさずに押し固めてしまう。そのまま冷やすと安定するのではないか?
ということだ。
単なる思い付きだが重力を操る力を持った俺なら行けんじゃね? という話なんだよね。
必要そうな大きさのゴルディオンの塊を出し、それを力場で固定する。
「まずは重力遮断かな」
金属の生成は無重力がいい。とテレビでもやっていた。
テレビでやっていたむつかしいことをなんとなくやっちゃえるのが魔法のすごいところだと思う。
「高圧になると物質は加熱するはずだから…」
あとはひたすら圧力をかける。
でもそれだけだと寂しいから魔力を活性化してちょっと放り込む。あとはひたすら超重力、超重力、加熱、加熱。
「まあ、実験だからな」
失敗してもいいのさ。
どうしてもだめならカンゴームさんにやってもらう。
なぜって最初の失敗の時にオリハルコンが若干量手元に残ったからだ。
オリハルコンを渡せばまさか嫌とは言うまい。すでに言質は取ってあるのだ。
そんなことを考えているうちに力場――この場合は重力結界だろうか――の中は放り込んだ俺の魔力を起爆剤に加熱が進み、いびつだったブロックが解け崩れて球形になってて来た。
「おっ、うまくいくか?」
失敗してもいいのだ。(こう言い聞かせないと欲がでて本当に失敗する)失敗していいのだ。何度も繰り返す。
結界の中の金属粒子は中心に向けて高重力が発生しているために自然と対流が起きて本当に混ざり合う。
だがさすがにしぶといオリハルコン。
オリハルコンが解けるまで実に二時間も加圧し続ける羽目になった。
魔法の便利なところは魔力というエネルギーを触媒にして物理現象に直接干渉できることだ。
物質を直接加熱することもできる。しかも際限なく(いや、限界はあると思うけどね)。
やがてすべてが解けてきれいに混ざるというところまで持ってこれた。
そしたら今度は砲弾の規格に合わせて直径五センチの円柱状に結界を変形させる。
円柱状の結界の中で対流し渦を巻く金属たち。
ここで生きてるのが無重力。
重力があると比重で分離してしまう。あと対流を維持するのも大事。
これできれいに混ざり合う。はず!
「あとはこれを冷やせばいいんだよな」
ならば使うのは冷却の魔法。分子運動を低下させて対象を冷やす魔法だ。
しかし、やったはいいが考えなしだったと思う。
これ冷やすこととか焼き入れとか、普通に考えたら無理だよ。
結界の中は超高圧の空間だ。これを解いたら一気にプラズマ化して爆発しちゃうだろうし、水なんかに沈めたらここら一帯水蒸気爆発だ。
思い付きで行動したけど、俺ってひょっとしてバカ? みたいな気になるよ。
まあ思い付きで行動しても普通の人ならそんなに大ごとにはならないんだけど、今の俺の能力だとシャレにならないということだな。
うん、気を付けよう。
魔力視で観測しながら少しずつ冷やして行ったのだけど、冷やして安定するまでに4時間ぐらいかかってしまった。
マジしんどい。
最後、数百度まで温度が下がったところで焼き入れとして近くの川に投入。じゅおおおっっっ! とすごい音がして、さすがに冷えた。
これで完成。(面倒になったともいう)
「いやー、驚いた。意外と何とかなったよ」
かくして数発分の砲弾が取れるゴルディオン棒が完成した。
後はこれを理不尽ナイフで…
「はっ、なんてことだ…」
ゴルディオンの塊があったんだよ。そして正確に円柱でなくてもよかったんだよ、六角柱とかでも…
だったら最初から塊を切り出せばよかったのではないだろうか…
驚愕の事実だった。
なんて間抜けな…泣けてくる…
「マリオン様。お疲れさまでした」
声をかけられて顔を上げる。
ネムがいた。
ずっと待っていてくれたのだ。
ネムの用意した食事は冷たくなってしまっていた…そして手を付けた形跡がなかった。
「ネム…ねぇむぅ…ごめん、ありがどう…」
ああこの愛しさ…そして燃え上がる熱情。
俺はネムを思いきり抱き締めた。
◆・◆・◆
リハビリは無事成功した。というかこの圧倒的な愛の前に
俺はネムを幸せに(いろいろな意味で)するために努力しようと心に誓った。
◆・◆・◆
後日のことだが俺をさらなる衝撃が襲うことになる。
フレデリカさんの収納の持ち主だった『ケケラーネス氏』は古代の錬金術師だったことが判明。
移された荷物の中に手記のようなものがあり、その中にゴルディオンの加工方法が記されていたのだ。
やり方としては大体方向性は間違ってなかったな。力押しだったけど。
ただ焼き入れはいい加減すぎた。これでは強度が出ないようだ。正しい焼き入れの方法もわかったので次回はもっと上手にできるだろう。
とはいっても俺のいい加減な焼き入れゴルディオンもそう悪くはない。結構丈夫。
はっきり言うとカンゴームさんたちがありがたがっているものより高性能というね。これがまた泣ける。カンゴームさんたちがね。まあ言わないけど。
いいこともあったがとにかく空回りしまくった一日だった…ということだ。
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遅れました。ごめんね。でもなんとか連休に間に合った?
今回は69~72話までです。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
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