第70話 ワイバーン討伐作戦・ワンダバはないよ
第70話 ワイバーン討伐作戦・ワンダバはないよ
作戦は即日実行に移された。
砲弾に関しては自分で練成したというよりも切り出したことにした方が平和だろうと思ったので、理不尽ナイフでゴルディオンの塊から切り出して見せて事なきを得る。
俺がいろいろ
ゴルデイオンを簡単に切り取ったナイフは驚かれたが。
ちなみに『理不尽ナイフ』というネーミングは好評だった。(笑)
そうして魔法で練成した砲弾二発と切り出した砲弾三発で計五発の砲弾を用意したところで作戦が実行されたのだ。
これがドラマであれば何かドラマティックな音楽が場面を盛り上げるところだ。だが現実にはそんなことはなく静かに作戦はスタートした。
文明に毒されているとこういうのがね。寂しい?
さて、作戦は三段階に分かれている。
まず、第一段階はワイバーンのおびき出し。
だがこれはほとんど問題ない。
ワイバーンは匂いで卵を追跡している。
どうもこの町にはその形跡があちこちにあるらしく、ワイバーンは三日と開けずにベクトンに飛来している。
そのたびに町の投射攻撃で追い払っているが、実のところ追い払えるのは卵のにおいがあちこちに分散しているからだろうとフレデリカさんたちは言う。
つまり飛来しては来るものの迷いがあって踏み込んでこない。
それが無理をせずに撤退するという行動につながっているようなのだ。
しかしそれはおびき出す必要がないということである。
第二段階はワイバーンの誘導。
街中であんな大砲をぶちかますと危ないので北の魔境の一角にワイバーンを誘導するということになる。
そのためには普段魔境は冒険者たちの探索の場なのだが、緊急事態として一時立ち入り禁止とされている。
仕方がないことなのだが冒険者も生活が懸かっているために反発もあったらしい。
なのでその対策として冒険者たちに作戦のサポートという形でたくさんのクエストが出されている。
それでもルールを守らない奴はいるだろうと予測はされているらしい。
巡り巡って自分が極大の不利益をこうむるのだが、目先の利益に目がくらんで他人を巻き込んで破滅するやつはどこにでもいるということだ。
もっともこの世界ではその手のやつらはつかまって二度とそんなことができない場所に永久就職させられるそうな。
詳しくは知らない。
第三段階は打ち落とし。
魔力投射砲を使ってワイバーンを地面にたたき落とす。
ワイバーンは確かに強力な魔物だが、それだってドラゴンほどではない…らしい。
ドラゴンというと“あいつ”を思い出すが、もし敵があんなのだったらやってられない。逃げるよマジで。
叩き落した後はタコ殴りだ。
ワイバーンは一対一で戦えるような魔物ではないが、空を飛んでいるときは軍隊ですら苦戦するが、地にあればタコ殴りで勝てる。
というレベルの魔物らしい。
みんなでタコ殴りにすれば勝てると踏んでいる。
ああ、ちなみに今回は騎士団主導になる。
なぜならば町の防衛だから。
これが出戦というか出かけて討伐ということになると冒険者ギルドが中心になるんだって。
さて、どうなることやら。
ちなみに大砲を打つのは俺だ。
騎士のお仕着せを着ているので素性は隠されている。公爵家に所属する一騎士ということになるみたい。
◆・◆・◆ とある騎士の決意。
自分はキルシュ公爵家に仕える騎士だ。
キルシュ公爵領には公爵様旗下の正規十三騎士団というのがあるが、そのうち第二、第六がこのベクトンに存在している。
自分は第六騎士団の末席に名を連ねるものだ。
先日からベクトン上空に『ワイバーン』が飛来するようになった。
ワイバーンの巣から卵を盗んだやつがいたらしい。
しかも食べたらしい。
ワイバーンって毒竜だよ?
火の息を吐き、牙と爪と尻尾には強い毒を持っている魔物だ。
その変態は案の定毒にあてられて生死の境をさまよっているようだ。
なんでそんなことを? と思うが、たぶんドラゴン伝説の所為だろう。
ドラゴンの肉を食うと力があふれ、血を浴びると不死身になる。などという言い伝えが昔からあるのだ。
しかしドラゴンなどめったなことでは手に入らない。
いやいや、下位のドラゴンならそうでもないのだが、伝説になるような上位のドラゴンなどは無理というもの。
だからワイバーン? 知能が足りないのじゃないかな?
だかそれはいい。自業自得だ。
問題はワイバーンというのが子煩悩な魔物で、卵や子供を強く保護する生き物だということだろう。
卵を追いかけてワイバーンがやってきたというわけだ。
騎士団は必死にワイバーンを追い返しているが空を飛んでいる魔物というのは厄介だ。
魔法や弓矢も高空までは届かない。
届いたとしてもその時にはほとんど威力を失ってしまっている。
地上に近ければやりようがあるから何とかなっているが、度重なる襲撃で町の人にも被害が出ている。追い払うにも限界がある。
だが昨日、急遽志願者募集の布告があった。
内容はワイバーンの卵を、正確にはその殻の一部を背負ってワイバーンを誘導して決戦の地に導くというもの。
とても危険な任務だ。
ワイバーンの飛行速度は俺たちが移動に使う鳥型騎獣、トムラプトルよりずっと早い。しかも小回りだってものすごく効く。
まともにやればまずやられる。
だから卵の殻を背負った騎士が四人。つまり一人二人やられても誘導ができるようにということだ。
さらにワイバーンを攻撃し、卵を運ぶ騎士を援護する騎士が十六人。
これは一度にではなく順次ジャマーとして参戦する。
この布陣で全員がやられる前に目的地にたどり着かないといけない。という作戦だ。
この募集に伴い、一つの条件が提示された。
『志願者はその結果にかかわらず一階級の昇進を認める』
戦死は慣例として二階級の特進が約束されているので戦死すれば実質三階級の特進だ。
階級が三つも上がるともらえる遺族年金が格段に上がる。
俺みたいな平でも、遺族の生活は約束されるだろう。
年老いた母と、母の面倒を見る妹。
さらに個別の願いがあれば善処するという布告もあり、俺は…俺は…母の保護と妹の仕事を願い出た。
そう、俺は志願したのだ。
母は御上がやっている施薬院という施設で死ぬまで面倒見てもらえるし、妹も公務員として安定した仕事につけるようだ。
これだけの条件があれば後顧の憂いもない。
それに一時金として結構な額のお金ももらえた。
家族が自分のために使ってくれればいい。
俺みたいな志願者ばかりが二十人集まって作戦開始の時を待っている。
騎士として公爵家のために命を懸けると誓いを立てた以上、戦って死ぬのは俺のお役目だ。
命令として死んで来いといわれれば拒否はできない。それが騎士というものだ。
だが、それでも志願を募り、好条件を提示してくれるここはいいとこなんだと思う。
それに。
「これ以上俺たちの生まれた町を好き勝手にされてたまるかよ」
「おう、そうだそうだ」
生まれ故郷を守りたいという気持ちに曇りもない。
そして願わくば。残っていく人たちが、穏やかに、幸せに暮らしていってくれるように…
「よーし、騎乗!」
よし、作戦開始だ。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
キルシュ公爵は第一から第十三までの騎士団を保有していて、主要な都市に騎士団が割り振られています。
フレデリカさんの直属が第二と第六ですね。
ほかにも要人警護を主任務とするのが第十三騎士団で、シオンさんカンナさんはここの所属。これは場所ではなく要人に割り振られているのでベクトンにも存在しているということです。
一番規模がでかいのが第十二騎士団で、これは補給、衛生を担当していて、すべての騎士団のサポートのために分散しています。
だからと言って半端者というわけではなく、工兵として騎士が動くときなどはここがリーダーになります。
なのでベクトンには『第二騎士団・全軍』『第六騎士団・全軍』『第十二騎士団・一部』『第十三騎士団・一部』が存在することになりますね。
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