第68話 閑話 その後の幼女 悪意

第68話 閑話 その後の幼女 悪意


 ◆・◆・◆ side 三バカ?


「さて、どうしたもんかな?」


「そうだなー。どうしたもんだろうー」


「あにが?」


 バキッ!

 ボクッ!


 と音がして一人の魔族が地に倒れた。


「なんでこいつはこんなに馬鹿なんだ?」


「馬鹿だからだろうー?」


 一見意味が通じないが、この場合は的確な指摘だった。

 だって殴られたのは間違いなく馬鹿だからだ。


 魔族というのは力が強くなるとより完全に人間に化けられるようになる。『人化』のスキルは魔族の必須条件のようなものだ。

 だが未熟者であればそうもいかない。魔物の特徴が残るのが普通だ。


 殴り倒された魔族は馬の頭に鹿の角を持った『馬鹿』だった。

 名前の通りかなり頭が足りない。

 頭が馬鹿(←二つの意味で)。体が人間、下半身は獣という魔族だ。


 だからと言ってほかの二人が賢いとは限らない。


「まあいい。話をつづけるぞ」


「そうだなー」


 呼びかけられた魔族は話し合いのために歩み寄り、そして…


「何の話だっけ?」


 三歩目でポロリと忘れた。

 その魔族は鶏の頭をしていた。

 鶏の頭、鶏の体。そして手と足が人間(風)だった。


「また、おめえはちょっと歩くとすぐ忘れるんだ!」


「えー? 何をー?」


「がーーーーっ!」


 いつもの光景だがわめいた一人はそのすきにそこら辺にある食べ物をかき集め、仲間二人が馬鹿なのをいいことに自分の口に詰め込んでいる。

 そいつは俗にいうオークだった。


 こいつだけが割とまともな思考をしているが基本的に食うことしか考えていない。


 この三人はラウニーの持つ魔力の結晶を狙っているが、これが食べられるものでなかったら興味を示さなかったに違いない。


 そして足りない二人にとってはどうでもいいことだった。


「だからどうやってあの魔石を奪い取るかという話だろうが!」


「ああー、そうだったー、そうだった」

「そうだっけ?」


「そうなんだよ!」


 こういうやり取りをしていて全く疲れないのだから豚頭も所詮は同類である。


「じゃあ、普通に取りに行けば?」


「そんなことしたらティファリーゼにどつかれるだろうか!」


「あいつ強いんだっけかー」


「強いんだよ、あいつは陸王亀竜だぞ、もともと魔物としての強さが違うんだ」


「でもガキだろ? 俺達みたいに長く生きてない」


「それでも強いんだよ」


 より正確に言うと割と長く生きてきたこの三人は長く生きていても弱いというべきだろう。


「だったらティファリーゼがいないときに襲えばー?」


「あいつはいつもラウニーにべったりだろうが」


「えー、そうだっけー?」


「そうなんだよ」


 この三人ではどんなに簡単な問題も解決しないと思われた。

 だがここで救いの神が現れる。


「だったらティファリーゼが離れるように仕向ければいいだろちゅ?」


 それはネズミの魔族だった。直立してズボンんかをはいたネズミ。ただ夢の国には似つかわしくないデザインだ。

 ドブが似合う。


 そしてどうしていいかわからずに首をひねる三人。


「ふむふむ、ではちゅーが知恵を貸してやろうちゅー」


 そう言ってネズミはにやりと笑った。


 ◆・◆・◆ side ティファリーゼ 


「どうしたの。珍しいなんてもんじゃないよね?」


 私は目の前に転がされたイノシシを見て首をひねった。

 確かにいい感じのイノシシだ。


「お…おすそ分け…」


 馬鹿がおすそ分けなんていうからびっくりした。

 鳥と豚も頷いている。


 何より信じられないのは豚だわ。

 この豚は頭は悪くないと思うのだけれど、とにかく食い意地が張っていて、人の食べ物を奪うことはあっても分けたりはしない生き物だ。

 それがおすそ分け?


「あー、いまちょっと腹の調子がわるくてな…」


 これもまた青天の霹靂だわ。

 歩くごみ処理場と呼ばれた豚が…


 でもそういうと豚…というと豚がかわいそうか。オークは一人そそくさと森の中に消えていった。


 あとの二人は残って愛想笑いを浮かべている。


 うーん、どうも怪しい気が…


「きゃいあ、いうー」


 私のそんな心配をよそにラウニーが早速イノシシかぶりついている。もちろん歯が立たないのだけど…仕方ないか…


「せっかくのもらい物だからちゃんといただきましょうか」


「あい!」


 あんたたちも食べてく?


「こけ?」

「い…いいの」


「まあ、お肉をもらった分ぐらいはね。ラウニーもいいって言ってるし。でも調味料が少ないからあんまりいっぱいはダメよ」


「う…うん」


「ありがとうだぜ」


「あんたらいいひと」


 そしてその日はささやかに焼肉パーティー。

 しかしそれに味を占めたのか三日と開けずに二人は肉を運んでくるようになった。


 お肉をもらったラウニーがまた気前よく食事に誘うから焼肉のタレがどんどんなくなっていく。

 数日後。気が付けは焼肉のたれは完全に底をついていた。


「うぷ~っ」


 泣きそうなラウニー。めっちゃ可愛い。

 じゃなくて!


「なくなっちゃうのわかってたよね」


「あい~っ」


 それでも分けてあげないという選択肢はなかったのだろう。

 本当にいい子だわ。


 魔族って粗暴な馬鹿が多いけど、そうでない子もいるのよね。

 私は割と強い種族だからそういう子を守ってあげないと…と思うわね。


「ちょと探しに行ってみようかしら」


「にゅ?」


 ツボの底に少したれが残っているし、これを見せればわかる人もいるかもしれない。目的は一番近くにある人間の町ね。


 でもどうしようかしら。ラウニーは人間に化けられないから連れていけないわ。

 でも置いていくのは心配だし…

 頼めるような仲間もいない…


「うーん」

「うーん?」


 腕を組んで悩む私の横でラウニーが腕を組んでまねをしていますね。むっちゃくちゃかわいいわ。

 いえいえ、そうでなくて。


「わたいらが留守番しているよ」


 そんな時に声をかけてくれたのはニーニセアとロッキの二人。


「わたいらがラウニーを見ているからちょっと行っといでよ」


 うーん、確かに…あの時、あの人間にあったところからすぐのところに町があったはず。おそらくそこの町で作られたものよね。そこまで行けばそんなに手間はかからないかもしれないわ…


「そうね、ちょっと行ってみようかしら」


 この二人がいれば大丈夫でしょう。

 私はさっといって、さっと帰ってくることに決めた。


 ◆・◆・◆ side オークの魔族


「うまく言ったな…」


「なあ、わしの言った通りになっただろ? あのタレがなくなれば絶対に手に入れるために町に行くに違いないのだちゅー。

そうすれば当然人間に完全に化けられる亀の姉ちゃんしか考えられんのだちゅうー」


 計画通りだ。だがまさに断腸の思いだった。

 俺が仕留めた肉を、俺が仕留めた肉を。俺が食うべき肉を! あいつらに差し出して、しかも襤褸が出ないようにという理由で俺は同席できない。

 こいつらはうまい焼き肉を食いまくっていたというのに…


「何を血の涙を流しているちゅー? ああ、うれし涙かちゅー?」


「違う。悔し涙だ!」


 だがこれであの魔力の塊を食うことができる。そうでなかったら、あれがおいしそうでなかったら誰が肉を差し出したりするものか?


「さあ、行くぞ」


「えー? どこにー?」


「何しにいくだ?」


 こっ…この馬鹿どもが!


 あのガキの所だ!


「ああ、ラウニーちゃんか」


「そうだな、用がなくても行って悪いことはないよな」


 こいつら本当にわかっているのか?


 俺は馬鹿どもの顔を見た。

 分かってねえな。

 まあいい。これで俺は勝ち組だ!

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