第65話 銃があっても弾がない

 第65話 銃があっても弾がない



「つまり投石機のように質量弾を射出するものなのね?」


 レールガンの説明に対するみんなの理解がこんな感じだった。

 投石機を引き合いに出されると頷けない部分があるけれど、他によいたとえがないのも確かだよね。

 弓矢はあるが矢を飛ばすのとは明らかに違うし…だったら投石器の方が近いかもしれない。


 俺はガラクタ置き場で見つけた魔力投射砲レールガンをいじりながらフレデリカさんたちと話をしている。


 ちなみに当日じゃなくて翌日だよ。あの日はもう結構時間が行っていたから一晩公爵家に泊めてもらって翌日試射のために出てきたのだ。

 場所は北の魔境で、斑の森と呼ばれるエリアの『黒の草原』と言われるあたりだそうだ。


 このレールガン、三mほどもある角ばった筒状の物体だ。前から三分の一ぐらいのところにドーナツ状のパーツがあって、それにグリップやコントロールユニットが付いている。

 円盤を長い棒で貫いたような形だ。


 古代王国の特徴なのだろうか、機械部分に電子マニュアルのようなものが付いていて、起動させるといろいろとデーターが読み取れる。

 砲弾の規格などもデーターとして入っていて、それによると砲弾は五センチぐらいの太さの柱状の物体を使う。

 なぜそういう言い回しになるかというとこの形状は円柱でも六角柱でも三角柱でもよいからだ。

 砲弾を保持するのは力場だし、射出も力場。砲身も力場だ。

 物理的な砲身に見えるものは力場を発生させるための魔道具、というか魔法陣でしかない。


 なので試しに石と鋼鉄で砲弾を作って試し打ちをすることにしたのだ。


 果たしてその威力やいかに。


「じゃあ、行きますよ~」


 考えてみれば数千年も動いてない大砲を撃つなんて怖いことこの上ないんだが、レールガンの自己診断だとコンディショングリーンだし、それにほかに撃つやつがいない。

 撃てるという意味でも、歪曲フィールドを持っていて防御力がバカ高いという意味でも俺が適任ではあるな。


 でもちょっとドキドキするよ。


 俺はシステムを起動し片膝をつき、バズーカのようにレールガンを担いで少し離れたところにある木を狙った。


 システムを起動させておくとこのレールガン。自分で浮いたような状態になって、取り回しがやりやすくなるのだ。

 引き金に指をかける。


 その瞬間砲身が三つに分かれた。


 この三本の棒の中に力場フィールド砲身バレルが形成されるのだ。

 そしてドーナツについている砲弾の保持機能から砲弾が取り込まれ最後尾に送られる。


 そして砲身に光が走る。

 細かい文様で出来たひかりの魔法陣。


 キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!

 シュドーーーーン!!


 二つの音が重なってその瞬間砲身から光の矢が撃ちだされた。

 パット光って数十メートル飛び、そして木を粉砕して燃え尽きる。


「射程が短すぎる」


「どうなったの? 当たったのは分かるけど…」


「あー、砲弾の速度が速すぎて燃え尽きてしまったみたいですね…これだと射程は50m…いや、もうちょっと近くないと有効な打撃は与えられないかも」


「それではワイバーンに対して有効な武器とは言えませんね」


「ええ、師匠の言う通り…今度は石の砲弾で試してみます」


 石ならば鉄よりも熱には強いはずだ。

 そして…


 キィィィィィィィィン!

 シュドーーーーン!!

 パシャーーーン!


「「「「・・・・・・」」」」


「えっと今度は石が衝撃に耐えられなくって砕けてしまったみたいですね…」


 細かくなった段階でさすがに燃えてしまった。燃え尽きなかった細かい石で狙った木はスポンジみたいに穴だらけ…


「熱には強いですけど粘りがなく細かくなると燃えやすい…

 鋼鉄よりも射程が短いですね」


「だめね」

「だめですね」


「強力な武器なのに弾がない」


「これが使えれば地上からワイバーンを打ち落とすこともできるでしょうに…全く残念です」


「ねえマリオン君、どんなものなら使えるかしら?」


 とそんなことを聞いてくる。

 俺は専門家じゃないんだけどなあ…って、そうか、他の人は俺以上に知らないのか。


「魔法とか飛ばせませんかね?」


 とこれはロッテン師。

 この世界は魔法が発達しているからロケット砲だの爆弾だのの変わりは魔法で足りるのだ。なので化学的な兵器などはほとんどない。

 兵器と呼べるようなものは古代に作られたものだけだろう。


 つまり砲弾的なものも魔法で何とかするのがこの世界。ロッテン師の発想はごく自然なものだ。

 だがこのレールガンは魔法を撃ちだせるようにはできていいない。これは実体をもつ質量体を高速投射するアイテムなのだ。

 だが投射された後の空気摩擦とかに対する対策はなされていない。

 これが使われたころはもっと熱に強い砲弾を作る物質があったのだ。

 例えば…


「ゴルディオンとかどうですかね? あれならこれの球になると思うんですが…」


 うん、いい考えだ。


「うーん、ゴルディオンかあ…あれはたしかに耐熱性がたかいし、とても丈夫だけど…」


「希少だとは聞いていますが…」


「まあ、ミスリルやオリハルコンに比べればまだましなんですがね、その加工方法がドワーフの秘伝になっているんですよね…

 しかも物が少ないので使ってくれようというドワーフはまずいないです」


「といってもやらないわけにもいかないわよね…仕方ないからカンゴームに相談してみましょう」


 フレデリカさんはそういってため息をついた。


 ◆・◆・◆


「あほぬかせ、そんなつまらんものに貴重なゴルディオンを使えるか」


 で、そのカンゴームさんが鼻息荒く憤慨している。

 なるほどため息の訳はこれなわけだ。


 そのカンゴーム氏はドワーフでコロボックルだった。


 いや、自分で言っててわけわからんがこの世界のドワーフはがっしりした体格をしているけど身長は低く小柄だ。しかもきている服がなぜかアイヌ風の服。

 特にカンゴーム氏はガッチリアイヌ風だからコロボックルにしか見えない。


 以前見た若いドワーフは洋風とか混じっていたのでやはり押し寄せる時代の波というやつなのかもしれない。


 で、そのカンゴーム氏。ゴルディオンで砲弾を作ってくれませんか? というフレデリカさんのお願いに対して、いきなり断ったりはしなかった。


 だが形状として円柱形の、撃ちだしたらそれっきりよーという説明で切れた。


 多分ドワーフ的には純金で出来たスコップでどぶ攫いをさせられる感じなんだろう。すごくもったいないという感じなんだと思う。

 まあわからなくもない。


「そこを何とか…ワイバーンと戦うのにどうしても必要なのよー」


「この爺には何言っても無駄だと思いますがね」


「何じゃと!」


「こら、アンセルムまぜっかえさない」


 この三人昔パーティーを組んでいた仲間だったらしい。今もって気安い関係で、思ったことは何でも言う。


『ほかのドワーフに頼むというのはダメなんですか?』


 と小さな声で聞いて見たらだめだといわれた。


「ご老公の頼みですからね、言えばやってくれると思いますよ。でもドワーフが忸怩たる思いを抱いていることも確かでしょう。

 それでもやむを得ないとドワーフ全体が納得してくれればよし、納得してくれないとドワーフ大移動なんてことになりかねませんから。

 彼らにとって気が向くかどうかはとても重要なんですよ」


 やりたくない仕事でも生活のため、しがらみのため、やることはある。でもそれで生まれたストレスが消化できないと今度は逃走という行為に走るらしい。

 自分から逃げるらしい。は

 そうするとそれがなぜか種族的に伝播する。


 なんて面倒くさい。


「まあ、普通に付き合う分には問題ないんですけどね…」


 まあ、譲れない一線があるということだろう。だから平気で嫌と言えるカンゴームさんの存在は貴重で、説得できれば問題がなくなる。

 だがその説得はかなり難航しているようだ。


「そもそもゴルディオンってどうやって加工するんです? 優れた武器作ろうというのではないのかだから人間がやってもいいのでは?」


 ちょっと小声で提案した見た。


「馬鹿言うでねえ」


 あっ、怒られた。それも“くわっ!!”という感じで起こられた。


「ゴルディオンの加工なんぞ人族にできるわけがねえ、あれはドワーフが長年研究して編み出した固有の配合で成り立ってるんだ。

 それは一人一人の秘伝じゃし、門外不出のものだ。教えられるわけないんじゃ」


「あー、いえ、配合をどうこうというのではなく、今あるゴルディオンを成型するとかで対応できないかなあ…と思ったんですけど…」


「アホンダラ!」


 わーもっと怒られた。


「それはつまりわしらが精魂込めて作ったゴルディオンの武器をつぶすということではないか。そんな暴挙が許されようはずもねえ!」


「あら、でもいい考えよ」


「お前まで何をゆっとるんじゃ。そもそこいつは誰じゃ」


「だって、ゴルディオンの武器だって永遠ではないわよ、ミスリルだってそう、いつかは壊れて使えなくなるわ。

 うちの倉庫にもいくつかあるわよ、そういうのを再利用して砲弾をいくつか作れないかしら…

 あと、この子はマリオン君ね。

 この娘がラッカの孫娘で、それの婿よ」


「おお、ラッカの所の婿か。うむ、まあラッカに免じて許してやろう。

 しかしじゃ、それとこれとは話が別じゃよ。

 わしらにとってゴルディオンは特別な合金じゃ。あれはドワーフのとして一人前の鍛冶士たりえた証のようなものじゃ。

 それを使い捨てにするというのは…何とも…」


 なるほど感情的に納得できないわけだ。

 これではほかのドワーフに頼むのも無理だね。


「まあ、言っただけでは納得ができまい。ゴルディオンの加工を見せてやる。ちょうど今仕事を頼まれておるからな」


 明日、夜明け前にここに来るがいい。というお誘いを受けた。

 何たる幸運。

 ゴルディオンの加工方法がわかるかもしれない。




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