第64話 公爵家の宝物

 第64話 公爵家の宝物


「…というわけなのです」


 と、ロッテン師は話を締めくくった。

 まあ、だいたい状況は分かった…

 だが分かったのは多分俺達だけなのでもう一度整理してみよう。


 現在俺たちは行政府のそばにあるキルシュ城にきている。

 フレデリカさんの居城で、お屋敷ではなく間違いなく城と呼ばれるものだ。


 それもそのはず。この町が戦場になったとき、町の人を逃がすために最後の砦となる戦城だそうだ。


 フレデリカさんが住んでいる建物自邸はしゃれた洋風の城なのだが大きな敷地を囲む城壁は分厚く、ちょっとやそっとじゃ壊せそうもない。

 それなりの広さを持った塔なども立っていて、立体的に仕切られた庭では立派な騎乗鳥竜ラプトルに乗った騎士たちが訓練だろう駆けまわっている。


 城門をくぐり、庭園をまっすぐ進んだり坂道を登ったりしてたどり着いた建物の扉をくぐるとそこは『あなたの知らない世界』だった。

 いや、ネムは動じてないから『私の知らない世界』かな。

 なんというか上品で高級で、庶民な俺なんか歩くのもおっかない。


 まあこの国の文化として和風の文化も入っているので相変わらず和洋折衷でシュールな部分もあるので少し救われるけどね。

 ひょっとしたら明治のころのお屋敷とってこんな感じだったのだろうか。


 俺たちは訪れるなりフレデリカさんたちに出迎えられ、応接間に通されてロッテン師から状況の説明を受けたわけだ。


 その話によると裏ギルド拠点襲撃の結果状況が悪化した…いや、違うか、悪化していたことが判明した。ということらしい。


 なんと盗まれたワイバーン卵。美食家を自称するあんぽんたんの胃袋に収まっていたのだ。

 

 拠点でとらえた構成員には徹底的な尋問が行われた。

 尋問という名の拷問が行われた。


 もう有罪は確定しているのだから一切の容赦のない拷問が行われた。


 しかもこの世界、回復魔法なんてものまであるので肉体の破壊を効率的に行って治してまた拷問してということができるのだ。

 どのような拷問が行われたのか、ぜひ聞かずに済ませたいものだ。


 まあ、その結果事実が判明した。

 その貴族はブルトム伯爵という貴族で、キルシュ公爵の部下ではない人間だった。


 この国が貴族社会で、しかし貴族領を独立国とする合衆国の様相を呈していることは以前に説明した。

 その中で力を持っているのが国王。そしてキルシュ公爵を含めた三公爵なのだそうだ。


 もちろん一番は国王だ。


 その下に公爵がいて、仲良く喧嘩してるというのが現在の状況らしい。


 そしてブルトム伯爵というのはここから一番離れた位置にあるオルキデア公爵の派閥の貴族で美食家として有名な人物らしい。


「美食家ですか? それでワイバーンの卵?」


 なんかいやーんな感じである。そういう俺に。


「なに美食というのは突き詰めればゲテモノ食いのことですからね」


 とロッテン師は言ってのけた。それは料理の味を追求する人たちに対する暴言のような気がする。


 まあそれはさておき、ワイバーンの卵の行方を突き止めたとき、それはその美食家伯爵のおなかの中になっていたわけだ。


「全く困ったことをしてくれました」


 そういうとロッテン師は割られた卵の殻を見せてくれた。

 なんか濡れてるし、生卵で食べたのかな?

 地球では日本人以外は決して食べないといわれた生卵。こちらではそうでもないのかもしれないな。


「そのブルトム伯爵は現在食中毒で生死の境をさまよってます」


 ワイバーンは毒竜の別名を持っているらしい。卵にもその影響はあるようだ。

 その伯爵はなかなかのチャレンジャーである。


 とここまでが説明の内容。

 後はこれからどうするかだね。


「しかし卵の殻があり、ワイバーンが匂いを追ってっているのであれば、おびき寄せはできるのではないですか?

 そこを討伐すればいいのでは?」


「ええ、そうなんですけどね、卵が割れていることに気が付いたらワイバーンは狂乱状態で報復に走りますよ。大変にやりずらくなるんです。それであなたに協力を要請したというわけなのですよ」


 しかしなぜここで俺が出てくるのかわからない。


 ネムに関しては…まあ状況が危ないから目の届くところに置いておこうという意図が見えるけど、ついでに俺が招かれたのは分かるけど、どうもそれだけじゃないよね。


「あらあら、よくわかったわね」


 なんとなく他人の纏っている魔力の感触で思いの方向性みたいなものは分かるんだよね。

 って、フレデリカさん、いつの間に!


「ちょっとマリオン君に見てほしいものがあるの。

 これは昔から我が家に伝わるものでね…」


 と案内されたのが宝物庫と呼ばれる場所だった。


「宝物庫…」


「倉庫かしら」


「倉庫ならもう少し片付いているだろう」


 と俺とネムがそんな会話をしてしまうような場所。


「はっきりガラクタ置き場といってくれていいですよ」


「師よ、世の中にはわかっていても口にしてはいけないことってあると思う」


「そうですね、でもそこは何というか気心というものもありますから」


「おほほほほほほほっ」


 フレデリカさんは片づけのできない女なのかもしれない。


 しかし異世界の宝物庫、興味があるよね。


「ここには長い間にため込まれたがらくた…じゃなくて宝具とかが収められているの。私考えたのよ。ひょっとしたらこの中に何か役に立つものがあるかもしれないって…」


 ああ、なるほど、俺ってば実績がありましたよね。


 ◆・◆・◆


 というわけなのだが…


「うーん、本当にガラクタばかり」


 触ってもうんともすんても言わないものがほとんどだ。

 キルシュ公爵家が長年にわたって集め、研究し、それでもなおよくわからなかった発掘品。今おれの目の前に無造作に転がているのがそれだ。


 実のところ俺たちがここに向かう一日のタイムラグの間に一度ワイバーンが町を襲撃したらしい。

 おそらく確認のためだろう。

 様子を窺うように飛び、地上からの投槍機などの攻撃を受け、飛び去ったという。

 だが撃退したというには相手に被害を与えられず、やはり自然に帰っていったというべきなんだそうだ。


 つまり空を飛ぶ魔物に対して地上でしか動けない人間はいかにも分が悪い。


 その報告を聞いてフレデリカさんが思い出したのがこの宝物庫ガラクタのヤマと宝具を使える俺のこと。

 つまりこの中になにかいいものがないか調べてもらおうということだ。


 ちゃんと依頼料は出るそうです。

 いや、これは大事なんだよ、俺もすでに嫁のいる身だしね。稼がないと。


 で今ガラクタのヤマを片付けている。

 何かを探そうというときは片付けながらが一番効率がいいのだ。


 前述の通りほとんどは役に立たないものだが、中には面白いものもある。


「何かあった?」


「はい、えっと。遠見の鏡ですかね」


 それは結構でっかい壁掛けの鏡だった。

 俺が触ると今まで死んでいた魔道具に魔力が流れて機能が復活する。


 最初の起動にはおれの魔力回路が必要なようだ。やっぱり古代文明って魔力回路前提で作られているよな…


 機能が復活すると使い方も把握できる。


「これはいわば目を飛ばす魔道具ですかね」


 現代風に言うと魔法で構築されたドローンをコントロールし、遠方の画像を得る魔道具だ。この鏡はそのモニター兼制御装置となる。

 構造は単純。鏡部分の下に前進、後退。上昇、降下のレバーがあり、進行方向を決めるダイヤルというかハンドルがある。


 起動ボタンを押すと陽炎のような揺らぎがガラス面から出てきて、俺の顔がアップになった。

 まあ、正面にいたしね。鏡にはパノラマみたいな画面が移っていて、陽炎の球が移動すると画面が変わる。


 部屋から出て、廊下を進んで上の階に…


「あらあら面白そう、やらせてやらせて」


 というわけでフレデリカさんプレゼンツ、キルシュ城探検が開幕した。

 壁をすり抜けて部屋の中に侵入。


 ありゃ、どこだこの部屋、微妙にロッテン師のデコに青筋が。


 あっ、メイドさんがいる。

 画像はそのままメイドさんに近づき…そこはスカートの中です。


 あっこら、そこで方向転換するな。上向くな。なんで穿いてないの! 暗視機能付きではっきり見えちゃったよ!


「みちゃだめ」


 うん、ネムに目隠しされちゃった。まあそれでも見えるんだけどね。


 次は行ったのはお風呂だった。

 しかも女風呂。職員用かな。何人かが入っている。うわっ、すっごいオッパイ。プルプルじゃなくてゆっさゆっさだ。

 おしりもぷりぷり…わー、もう少し。


「そこまで、没収します。これは一級危険物指定させていただきます」


 ロッテン師がココでスイッチオフ。いい仕事だ。

 ちなみに映った画像は俺のしまうぞう君に転送されました。

 うん、あれはなかなかいい女だった。顔が映らなかったのが残念だ。


 ・

 ・・

 ・・・


「えっと、次はマッピング装置ですね?」


 それはタブレットに似ていた。

 黒い石の板だ。

 もちろん魔力稼働、動力が入ると画面に地図が表示される。周辺を観測してマップを作っていくみたいだ。

 もともとはカーナビのように地図データーが入っていて、目的地や現在位置を知ることのできるもののようだが、マップがないところだと自分で地図を構築するらしい。うん、優れもの。

 観測範囲は半径五メートルぐらいかな。ちょっと大変そう。


「これはマーカーをつけておけばその人がどこにいるのもわかるみたいですね」


「ほう、それは…」


 ロッテン師が手を出した所をフレデリカさんがかっさらった。


「これも危険物ですね、人の行動など監視とかしてはいけないのですよ。封印します」


 うーむ、二人の主従の攻防っぽくなってきたな。

 まあいいや。

 おっ、この長い棒は何だ?


 ・

 ・・

 ・・・


「あっ、フレデリカさん、ロッテン師、大当たりだ」


 それは言ってみれば魔力力場式投射砲つまりレールガンの魔力バージョンだった。

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