第62話 (今度はちゃんと)ベクトン到着。

 第62話 (今度はちゃんと)ベクトン到着。



「もうすぐ到着ですよですよ。あ・な・た」


 耳元でそんなことを言われてぞくぞくっとしてしまった。

 ブルブルッとして顔を向けるとネムがにっこりとほほ笑んでいる。


「今度は勝ちましょうね」


「うん、そうだな」


 ネムの気遣いに感謝。


 ワイバーンとの戦闘から丸一日。俺達は魔動車でベクトンの町に帰ってきた。

 あまり急がなかったのには逃げた裏ギルドの人間にあまりあわただしいところを見せて警戒されるのを恐れたからだ。


 第一捕まえた冒険者崩れも引き連れている。

 鹵獲した馬車に縛り上げて放り込みそれを魔動車でけん引する形だ。


 彼らは当然文句を言いたかったと思う。だが急いで帰れば犯人の移送などやっていられないので首を切ってお持ちかえるすることになると教えられたらおとなしくなった。


 ちなみに主犯格の裏ギルドの冒険者は恐ろしいことに両肩を外したうえで縛られてころがっている。

 あれから一日、放置されているので馬車の中はなかなかひどいことになっていると思うが、私は知らない。見たことも聞いたこともない。と逃避することにした。


 だってほかの人たちは気にしてないんだよね。

 犯罪者がどんな目にあっても基本スルーだ。

 いやー、加害者にやさしい国ニッポンとか言われた国で育ち、犯罪者はもっと厳しく罰するべき。と考えていた俺でもドン引きである。

 うん、見なかったことにする。


 さて、ワイバーンとの戦闘は、なんというかお粗末なものになった。


 確かにネムを抱いてい、空中戦なんて難しいのは分かっていて挑んだのだが、結果は惨憺たるものだった。

 やはり強力な魔物というのは魔力の場に守られているのが普通らしく、ライフルのビーム攻撃はほとんど効かなかった。


 まあ、それでもそれなりの打撃は与えたと思うけどね。痛打と呼べるほどではなく、しとめるには到底及ばなかった。

 風塵蛇槍とか魔光神槍があるじゃないかというかもしれないがあれも決定打にはならなかった。


 ワイバーンの飛行能力はかなり高かったのだ。


 まずワイバーン相手の空中戦は本当に大空での空中戦だった。大空をどこまでも高速で飛行されると風塵蛇槍はほとんど役に立たなかった。

 どうもこの魔法は格闘戦に向いている。


 では魔光神槍はというとこれはワイバーンに十分追い付けるスピードがあったのたがこれは逆に小回りに弱い。

 誘導も限界があるのだ。

 しかもワイバーンのやつものすごく小回りがききやがった。


 ひらりひらりと交わされせてしまった…ちくせう…


 木刀を使っての接近戦ならもう少しどうにかなったかもしれないけどこれはネムを抱いていたしね。


 一応追いかけたのだが結果、ネムが振り回されてグロッキーになってしまったので撤退を余儀なくされた。


 まあそれなりに穴はあけてやったから引き分けだな。

 うん、引き分け。そのうえでの戦力的後方前進なのだ。

 なんか空中戦で負けたのが悔しい。


 というので何とかリベンジマッチを企図している俺だった。


 とそんなことをしているうちに魔動車がブレーキを踏んで停止する。

 ベクトンについたのだ。


 ◆・◆・◆


「へえ…。こっちも見事だね」


 今度は南からの入場である。

 北門は大魔境に通じていて、南門がそれ以外に通じる門なのだ。


 城壁は立派で背が高く、門のところはさらに分厚い。その門の石壁には見事な彫刻が施されていた。


「これは神話か何かですか?」


「ええ、そうね。神々ではなくいろいろな幻獣の姿ね。北門は魔獣が彫ってあったでしょ?」


 大昔、幻獣がまだ人間と近しい時代のその姿だそうな。

 ちなみにそんな時代があったということ自体伝説だ。

 ちなみに幻獣というのは神に仕える獣みたいなイメージだ。光を司る猫とか、風を司る空飛ぶ鮫みたいなのが彫ってある。


「それにところどころ魔法陣が彫り込まれていて、護符の意味もあるのよね」


 つまり実益を兼ねているということだ。

 魔法陣は城壁の強度を上げたり、魔物除けだったりする。これは城壁のそこかしこに彫り込まれている。


 ちなみに北門は恐ろしい姿の魔獣が彫り込まれていたり彫像としておかれていたりして、これは魔物に対する威嚇の意味もあるらしい。

 ようは案山子だね。


「どうもいろいろお世話になりました」


 俺は門のところで入国ならぬ入市手続きをしながらフレデリカさんにお礼を言った。

 手伝わないのか?

 というかもしれないがことは国のトップが対応するような事案だ。俺なんかが出しゃばったってろくなことにならない。


「あらあら寂しいわ。ネムちゃん今日ぐらいうちにお泊りしない?」


「いいえ、フレデリカおば様、私は今はただの冒険者です。さらに加えれば冒険者の妻です。縁あってご一緒しましたけど、公爵家に御呼ばれするような身分ではありませんから」


「あらあら、そういうものね。でも二人が冒険者としてやっていくというのであれば、頼みたいこともあるのよ。

 無条件で信用できる人って本当に貴重なの。

 だから居場所が決まったらすぐに連絡を頂戴ね。

 お仕事の話をしましょう」


「はい、ありがとうございます。必ず連絡します」


 俺ははっきりと答える。

 えらい人にただ甘えるというのはよくないことなのだ。自分を貶めるだけで最終的には失うものが多くなる。

 だがコネというのは最大限に利用するべきものでもあるのだ。

 社会において名刺一枚持っているというのがどれほどの強みになるか。

 ご老公と知り合った。それは最大限に利用させてもらおう。

 お互いに利益がある形で。


 偉い人は言っていた『みんなで幸せになろうよ』と。


 走り去る魔導車を見送り、俺たちは町に入っていく。

 現在位置は南門で、こちらはビジネスマンが多いエリアのようだ。


 商人とか農家の人とか戦闘職でない人たちが働いているエリアだ。


 ちなみに魔動車で走ってきた南の平原は広大な穀倉地帯だった。

 どこまでも続く麦畑の中でたくさんの人が働いていた。


 話を聞くと農地は個人所有というわけではなく農業会社のようなものらしい。


 つまり経営者がいて、その下に農民として雇われている人たちがいるわけだ。つまり企業なんだね。

 大小いくつもの農業会社があって、中にはキルシュ家がやっているものもあるらしい。


 その人たちは町の南側に住居を持っていて、朝、馬車で農地に向かって出勤してくのだそうだ。

 ちょっと近代的かもしれない。


 さて、俺たちは冒険者なので町の北側に向かう。

 冒険者というのは北にある大魔境で仕事をすることが多く、素材搬入の都合で冒険者ギルドの本館というのは北側にあるらしい。


 となれば俺たちも北側に居を構えるのが筋だろう。


 と歩いていくと目の前に森のように木々の生い茂った場所が。

 中に森があるとはやはり大きな町である。

 なんて思っていたら。


「ミルテアさん神殿には寄っていかなくていいんですか?」


 ちらりと見たら看板に『大地母神殿』と書かれた看板が。


「ひょっとしてここが神殿ですか?」


 それは緑豊かな森のような公園のような場所で、よく見ると少し奥になんか立派な屋根が見えたりする。


「はい、ここが女神ステルアの神殿です。私のホームですから当然帰りますけど、今は冒険者ギルドの方が先です。

 クコたちのこと、ちゃんと知らせないと」


「そうですね」


 一つの町にすべての神殿がそろっているということはまずないらしい。

 町にどの神様の神殿があるかは領主さまの裁量になる。

 この町には『大地母神ステルア』『戦いと勝利の神アルーア』『英知と探求の神オードリグル』の神殿があるという。


 そして各神殿の神官は冒険者として活動することで魔法を磨いたり、経験を積んだりしているということだった。

 ミルテアさんも修業の身というわけであり、一回の冒険者であるという側面もあるのだそうだ。

 なのでまず冒険者関係の処理が必要。


 ネムとミルテアさんが黙ってしまったので俺たちはただ黙って冒険者ギルドに向かって歩き続けた。


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