第61話 閑話 その後の幼女・重力魔法
第61話 閑話 その後の幼女・重力魔法
◆・◆・◆ side ティファリーゼ
「きゃう~♡」
「今日もご機嫌ねえ、ラウニー」
「あい~。やあ~」
私、ティファリーゼはラウニーを連れて散歩をしている。
ラウニーはまだ幼く、稚気が抜けていないので行動原理が本当に子供だ。
ただ散歩をするだけでとても楽しいらしい。
あっちにチョロチョロ、こっちにチョロチョロ。拾った小枝を振り回して柔らかい葉っぱをたたいたりして一人悦に入っている。
うまくたたけたときなどは楽しそうににぱっと笑う。
これは幼児のどや顔だ。
時には森の中でいいものを見つけることもある。
ここは大魔境の少し奥にある領域で、人間が入ってこれる位置ではあるのだが、この領域は守護者が特に強力で、彼女の住む小さな山とこの周辺はめったに人が入ってこない。
もともと来れる距離にあるというだけで特に用事があるような場所ではないのもいい環境を作る一因になっている。
魔物も多少は強いものがいるが、強い魔物だけで構成された世界などありはしない。
生態系というものがあり、強い魔物がいればその餌となるよわい魔物や普通の動物も済んでいるものだ。
ここには私たち若い魔族が何人も住み着いていて、守護者様の保護を受けている。
そして私たち魔族と呼ばれる存在は大概の魔物よりは強い。
その私たちが生活していけるだけの獲物があるのだからこの辺りはかなり豊かな森ということができるだろう。
ほら、ラウニーが『房桃』を見つけた。
これは葡萄に似た形をした白い果物で、5センチほどの一粒が房状になっていて大変おいしい。
木になるものなので少し高い位置のあるのだが、ラウニーは下半身が蛇で、長い胴体を使ってスーッと伸びあがって房をもぐことができる。
「きゃい、やっ、らぱ」
「はいはい、ありがとう」
房から一粒実をもいで私に差し出してくれる。
「んー、かわいい」
思わずだきしめて頬ずりしてしまうわ。
私は大柄だからその反動か、かわいいものに目がないのよね。
といってもご飯は別。
ラウニーの振り回す小枝に驚いて茂みからウサギが飛び出してきた。
なかなかにかわいい。
でもご飯だわ。
仕留めましょう。
「きゃう~。わっ!」
と思ったらラウニーがかわいい掛け声とともにかわいい両手を振り上げてぺちんと下ろすしぐさをした。
これもかわいい。
かわいいけど。それどころじゃないわ。
ウサギが何かに押しつぶされてしまった。
何か柔らかくて重たいもので上からたたかれたみたいに。
いえ、つぶれてはいないわね。原形はとどめている。でも半分地面にのめりこんで、衝撃で死んでいるわ。
その兎に嬉しそうにラウニーが走り寄って、耳をつかんで持ち上げて見せる。
「ぎゃい、やっ」
とったどーみたいな感じかしら。
でもラウニーいつの間にそんなことできるようになったの?
「にいに」
私の質問にラウニーはあの人間からもらった魔石を出して見せてくれた。
「これをなめているうちにできるようになったの?」
「あい」
「ええっと…確かに魔族って良い魔力をたくさん摂取するとその属性の力が使えるようになったりするけど…これって…伝説の重力魔法…かな?」
これってものすごいことなのでは?
「って、わかってないわよね…本当にこれって何なのかしら…」
「おにく。やく。にいに」
愕然としていた私にラウニーの催促。
とったお肉は焼きます。
味付けはあのタレですね。
ただあれってもうあまり残ってないのよね…たぶん今回が最後。
まあ、生もおいしいんだけど…子供は味のはっきりしたものが好きだからなあ…
◆・◆・◆ side ?
「おい、見たかよ」
「みたみた」
「伝説の重力魔法だってさ…」
「伝説ってどういうんだ?」
「しらねえ」
「たぶん昔すごいのがいたんでねえの?」
おそらくそんなもんだろうな。
「その力の源があの魔石…なんだな」
「つまりあの魔石を食う俺達も重力魔法が使えるってわけか?」
「おお、俺たちも伝説だ」
さて、なかなかおいしい話だぞ。なんとかあの魔石を奪い取りたいなあ…
「お前らなんかいい方法ねえ?」
「あるよ、あの肉焼きのタレ…あれもうなくなってきただろ、あれがなくなればきっとまた取りに行くよ」
「そうか…じゃあ、今日の飯の時にあれをこぼすかなんかしてなしにしちゃえばティファリーゼのやつがいなくなって、あの魔石を取り上げることができるってわけだ…
いい考えじゃん」
「てもあれっておいしいのにこぼすのはもったいないよ」
「うるぜ、俺たちが伝説になれるかどうかの瀬戸際なんだぞ」
「おお、すげー、ゼノっちなんか難しいこと言った」
「お前らがバカなんだよ、さて、今日の飯が楽しみだな」
俺たちはグフフと笑った。
◆・◆・◆ side ティファリーゼ
「お肉おいしいね~」
「あい、おいち」
「でもいいんですか私たちだけでこんなにおいしいもの食べて」
下半身が蜘蛛になっている魔物アルケニーのニーニセアがそう聞いてくる。この子もラウニーの面倒をよく見てくれるいい子だわ。
それともう一人。頭に角のある私よりも二回りは大きいオーガ娘のロッキ。
今回焼肉に招いたのはこの二人だけだ。
「いいのよ、だったこれはもともとラウニーの物よ。それなのに前回のおすそ分けの時にばかすか使って…おかげてもうこれしか残ってないのよ」
「おわり~?」
ああ、ラウニーが悲しそうな顔をしている…
これは厳しいわ。
つい甘やかしたくなる。
「姉さんはいつでもラウニーを甘やかしているじゃないですか」
ほっといてしょうがないのよ。だって…
ラウニーは残り少ないたれを差し出してにっこりと笑う。
ああっ、自分でも食べたいだろうに…なくしたくはないだろうに…けなげに私たちに分けてくれようと…
「なかよし」
「あー、これはダメっすね。これを甘やかさずにいられる女なんていないっすよ」
「そうだな。これは凶悪だ…」
「そうね、すぐは無理でもなんか考えないとね…」
これがどこの何なのか全く分からないのがネックだわ。
人間の世界に行けば手に入るとは思うけど、どこに行けばいいのかわからないし…そもそも人間の世界に行けるのは完全に人化ができる私だけ…
うーん、どうしたものかしら…
◆・◆・◆ side ?
「おい、なんで肉焼き祭りが始まらないんだ?」
「さあ…」
「わかんね」
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