第60話 ・・・帰りは恐い

 第60話 ・・・帰りは恐い


 なぜか師弟関係が成立した。

 なぜだ。こんなしょうもないおっさんと…


 と、言いたいところだがロッテン師(←ここポイント)の指摘は至極もっともだったのだ。

 俺は基本スペックが(なぜか)高い。にもかかわらず動きがわやくちゃ。体を動かすことにかけてはど素人ということだ。


 ネムに武術の基本を教わっているから以前に比べればいくらかましだが、武術なんて一朝一夕に身につくものじゃない。

 それでも武術を習い始めて数日と話したら…


『なるほど、長足の進歩というものですな。習い始めが一番伸びやすいのですが、それを勘案しても素晴らししいです。どうやらマリオン君には才能があるようだ』


 なんて言われた。

 でそのあとちょっと動きの補正をしてももらったのだけどこれが理にかなっていて、ぐっと動きがよくなった。

 当面このベクトンで活動するつもりだといったらベクトンにいる間、戦闘術を教えましょうといってくれたのだ。

 ありがたいのでお受けすることにした。


 といっても格闘術はネムから学んでいるので主に剣術を教わる。


 ロッテン師は戦闘のプロで、体術も剣術も戦闘の一環というとらえ方をしていてそこに区別がない。


 対してネムの方は獣族の身体能力を生かした格闘術とそれに乗せる感じの双剣術なのでタイプがまるで違うのだ。

 そもそも武器に求める効果も違う。短剣二本と刀で使い方が同じということはあり得ない。


 ただ体の使い方に関してはネムを参考にした方がいいだろうといわれた。

 人族はどうしても身体能力で獣族にはかなわない。それを補うように発達した武術が人間の戦闘術なのだそうだ。


 なのでネムの動きについていけるのであればネムから体の動かし方を学んだうえで、長い剣の効率的な使い方を乗せればいい感じになるだろうということだった。

 その時に補正もしてもらう。

 これが効果的なのだ。


 ネムははっきり言って天才肌というやつで理論的にものを教えるには向いていない。まあ獣族は大概そうらしいが、ネムは中でもかなり下手。

 天賦の才に恵まれた獣族はそういう傾向が強いそうだ。


 なのでネムに動きを教わり、それをロッテン氏が理論的に再構築して、そのうえで剣術を乗せる。

 うん、すごいことになる。かもしれない。


 とりあえず『型』というのを一つ教わったよ。

 これは体の可動範囲やバランスを鍛えるのにいいんだってさ。


 で、これでフレデリカさんの所に連絡に…と思ったんだけどフレデリカさんへの連絡はあとでいいのだそうだ。

 ワイバーン対応もまず心配ないと考えているらしい。


 つまり手紙云々は俺を油断させるための方便だったわけだ。

 この野郎。


 まあ、手紙の配達自体は嘘ではないので、対裏ギルド襲撃が終わって一先ずの成果をまとめてから届けることになった。


 そんな感じで過ごしていると壮年のかなり立派な騎士が入ってきて、ロッテン師に準備が整ったことを告げた。


「さて、わたくしはこれより裏ギルドのわかっている拠点を急襲します。お二人はその結果も持ってフレデリカ様の所に連絡をお願いするわけですが…ご一緒しますか?」


 とそんなお誘い。即断即決である。

 俺はネムと顔を見合わせ、そして頷きあった。


「「ぜひ」」


 ◆・◆・◆


 ロッテン師に言わせると俺に必要なのは経験値ということになる。つまり場数だ。これは練習的な部分も含めてこれが全く足りていない。


 対してネムに必要なのは経験ということになる。これも場数だがちょっと意味合いが違うように思う。


 俺の場合は戦技の話で、ネムの場合は指揮統率の話だ。


 ネムの立場ならば現場の活動を理解しておいて損はない。という意味合いらしい。

 もうわかっているけどネムは思った通りかなり身分のある家の娘のようだ。


 まあそれはさておき。


「さて、ここが今回判明した三つの拠点のうちの一つです。三か所同時に攻撃しますがわたくしたちの担当はここです。表向きは非合法のカジノということになっていますね」


 非合法なカジノが表向きなのか! すげー!


 ちょっとした宿屋ぐらいの大きさなのであまり大きくはない。だが石造りの外からは中がうかがえない構造で、しかも本体は地下にあるようだ。


「よくおわかりですね」


「あっ、はい、少し見えますから、あー、魔力でものを見る癖がついてまして」


 ある程度だが建物の構造なども見えるのだ。と教えた。

 土が厚いと透視も大変だが、地下一階ぐらいはみえる…何とか。


 で気になることが一つ。


「抜け道ですか?」


「はい、地下室から横に伸びてます。そのまま下に向かっいて…知覚範囲を超えてしまうのでその先までは…」


「困ったものです。この町の地下は上水道が通っているので勝手に地下室を作ることは禁じられているんですけどね…」


 もちろん関係のない場所というのは多いのだが、それでもすべて許可制になっているらしい。しかも作れるのは地下室までで、地下通路などは絶対に禁止されている。


 これはあとでネムに聞いた話だが、この町の地下には脱出通路となるトンネルがあるのだそうだ。これは魔物が町に侵入したときに町の人が逃げ出すためのもので、町に数か所ある避難所の地下から外に続いているということだった。


 それを壊されてはたまらないので地下の利用は綿密な打ち合わせと許可の上でないとできないことになっている。


「しかし普通の建物から地下道が伸びているなどありませんから、これは完全に違法ですね。

 そうだ。マリオン君、わたくしと戦ったときに使ったあの魔法、私を捕まえようとしたあれですけど、あれって地下道の中に伸ばせますか?」


 ふむ、地下道を使って逃げられてはいけないと…


「真上まで行けば使えると思います、ただ結構パワーがありますし、周辺にも作用しますから…」


 地下道の構造によって崩れることもありうる。


「かまいません、どうせ違法なトンネルです。それに場所がわかれば後で掘り返すのも簡単ですから」


 ということで役割分担が決まった。

 俺は建物の裏手に回ってトンネルの上に占位する。

 ネムは俺の護衛だ。


 役人でもないネムが突入にかかわる必要はないのだ。まあ俺が突っ込むつもりだったからネムもその気でいたけど、俺が裏方になっちゃったからね。


 なんとなく顔を見合わせて『にへへ』と笑いあう。

 これが幸せというものだな。


 少しすると突入、の手はずだったが地下道を出ていくものの気配。

 うんこれはまずいかもしれない。

 だがこいつを押し潰して騒がれて突入が台無しになっても困る…


 その男は自然と歩きながら俺の下を通過していく、裏は細い路地でその向こうは別の家だ。

 通り過ぎられると取り逃がす可能性が…


 はやくはやく…突入まだか。こういうのは焦る。


 そうだ。うっすらかけるか。

 体が重くなって違和感を感じるぐらい。

 下のやつが不審に思って立ち止まるぐらい。


「大丈夫ですか?」


「ああ、とりあえずやってみる」


 ズン!


 と地面が揺れた。

 歩いていた男が不振がって立ち止まる。そして上を見る。いや、俺が見つかったわけではない。天井からたぶんばらばらと何かが落ちているんだ。

 これはいい。


 さて、人間、地下を歩いていてぐらりと揺れて上からばらばらと何かが落ちてきたらどうするだろうか?

 そのまま突っ込む?


 まずいないよ。

 大概は元来た道を戻るはずだ。しかも出口までは数メートル。

 そいつは慌てて引き返して、出口付近で騒いている。


 よし、うまくいった。


 次の瞬間バーンと音がしてロッテン師と数名の騎士が突入してくる。

 俺は強めに重力制御点を作用させて地下道をふさいだ。

 多分体重が二倍から三倍になるぐらい。


 何人かが逃げてきたが最初のやつがバランスを崩して転げ、そして後ろから来たやつがさらに躓く。

 三人ほどが団子になったところで…


「あっ」


 地下道の天井が崩れました。

 軽く生き埋めだな。もうちょっと進んでいたたら崩れた土砂につぶされていたかも。


「どうでした?」


「結果オーライ」


 それ以外に言いようがない。


 ◆・◆・◆


 それから取り調べが始まるのだがさすがにその結果を待つような余裕はない。

 俺とネムはロッテン師の手紙を預かりベクトンの町を後にした。


 今度はちゃんとゲートから出てしばらくしてから飛びっ立ったので目立っていない。来るときは高高度からの垂直降下でいきなり降りたからこれも目立っていない。

 飛行魔法というのは珍しいのでそれだけで目立つそうだからこれでいいのだ。


 で今度はフレデリカさんのところまで飛ぶだけの簡単なお仕事…とか思ったんだよね。もうさすがに夕方だし早く帰りたい。


「今度は帰るだけだから簡単ですね」


 なんてネムが言う。

 実際そうだし、俺もそう思っていたんだけど口にするとなぜかフラグが立つようなことがあったりする。


 いやーんな感じがしたんだけど案の定出くわしてしまった。

 ワイバーンに。


「今度は完全に向かってきますね」


「うーん」


 進行方向からくるから引き離すとかないし、困ったものだ。


「ネム~っ。ちょっと体勢を変えようね~」


 正面からネムを抱き付かせて首に手を、腰に足を回してもらう。

 完ぺきな駅弁スタイルだ。

 エロい、エロすぎる。


 大きめの胸の張りのある弾力。

 ムチッとした太ももの感触。

 左手で押さえる尻の柔らかさ。

 触れ合う腹と腹。


 戦闘中でなかったら理性が飛んでいるような話だ。


 しかし残念ながら今は戦闘中。俺はショートカットからAUGを取り出してビームをばらまきながらワイバーンに突進した。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「まけーたーーーっ」


 ビームがほとんど効かなかった。


「ごめんなさい、邪魔になっちゃって」


「いや、ネムの所為じゃない。仕方ないんだ…」


「とりあえず今は逃げましょう」


 ぐぬぬっ


「戦略的後方前進だ!」

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