第52話 そうだ! 武器を作ろう
第52話 そうだ! 武器を作ろう
というわけでもろもろやることが終わったら暇になった。
なぜならばネムちゃんがいなくなったから。
結婚するに当たって女の子が身につけておくべき知識…というものがあるそうで、それを伝授するからと、フレデリカさんが連れて行ったのだ。
最初は俺と居たいと少しごねたネムだったがフレデリカさんになにやら耳打ちされて、そしたら途端にその気になって嬉々としてついて行ってしまった。
尻尾がぴーんと立ってユラユラしてる。これは猫科の動物がなにやら喜んでいる時の表情だ。
獣人種は分かりやすいと言うらしいがその通りだな。
そしてミルテアさんもついでにと連れて行かれたので――こちらはなぜか最後まで抵抗してグレイみたいに引きずられて行った――残されたのは俺とフレデリカさんの護衛の二人だ。
ちょっと気まずい。
「お二人はよろしいんですか? なんか女性の秘密の話みたいですけど」
「ええ、未婚の私たちにはちょっと刺激の強い話でしょうから」
ミルテアさんは大丈夫なのか?
「彼女はステルアの神官ですの。そのような知識もあって悪くないですの」
一体どういうことだ。なぞだ。女神ステルアとはいかなる女神か…
ちょっと戦慄したりして。
さて、残された二人の騎士さんだが、先日の結界で締め出した件などは笑って許してくれた。彼女たちにとって大事なのはフレデリカさんで、フレデリカさんを助けるためだったのであれは緊急避難として容認してくれるらしい。
ありがたや~。
さて、このお二人、ともに20代半ばぐらいの若い女性で、かなりの美人さんだ。
しかもかなりの使い手でフレデリカさんの信頼も厚いのだとか。
まあたった二人で偉い人の護衛を任されているのだから当然かもしれない。
話を聞くと二人は公爵家に使える貴族の
ご老公の護衛兼サポートを拝命しているのだと胸を張る二人は本当に誇らしげだった。
「宮仕えでもご老公のところは居心地がいいんですよ」
そう言ったのは人間の女性で名前はシオンさん。伯爵家のご令嬢だそうだ。
本来伯爵というのは上級貴族なので公爵家に使えているわけではないのだが、やはり派閥というのはあり、子女であれば自分の派閥のお偉いさんのところに修行に出るのは普通にあるらしい。
【
「ご老公はかつて戦闘でも女傑と謳われた方ですの。政治でも敏腕で知られた副王です。あの方のおそばに仕えられるというのはものすごくラッキーなんですの」
そう言ったのはカンナさん。公爵家旗下の子爵家の令嬢だ。獣人種で月兎族という種族らしい。
大きなうさ耳とちょこっとした尻尾が特徴のバニーちゃん。その戦闘力を見込まれて抜擢されたのだそうだ。
クラスは【魔戦士】と言うクラスらしい。
魔法と武器で戦う人を【
獣人族というのは基本的に魔法は苦手な種族なのだが例外的に魔法が使える人種がいくつかいる。
いや、違うか。魔法ではなく魔法的な力が使えるというべきだろう。
月兎族というのは持ち物や自分を重さの束縛から解き放つ力があって馬鹿みたいに重たい武器をまるで小枝のように使い、自分自身もまるで羽のように軽々と飛び回るんだそうだ。
なので彼女の戦闘スタイルはとんでもない大きさのメイスと大楯。
重剣士や重斧戦士など目じゃないレベルの武器を使い、蝶のように舞い、蜂のように刺すやばい人なのだ。
見た目華奢な上品美女なのに…
さすが超VIPの護衛ということか…
そんなわけで彼女たちの話を聞きなながら彼女たちの武器を見せてもらった。
シオンさんのはレイピアのような細身の剣でデザインがすごくかっこよかった。うん、しびれるね。
そしてカンナさんのメイスはすごく大きな金属製で鈍器の迫力抜群。
それを見てはたと思い付いた。
そうだ。武器を作ろう。
◆・◆・◆
① 初心者の武器は鈍器が一番
② 剣ってやっぱりかっこいいよね。
③ 木刀は剣の形をした鈍器でじゃね?
という発想の飛躍で武器製作を思いついた私だった。
われながらどうかと思わなくもないが、良い発想ではある。
だがただの木刀でも俺の権能があれば凶悪な鈍器になるはずだし、しかも装飾にも凝れば格好もよくなる。
原因をたどればターリで買った剣が全く使い物にならなかったからだろう。
まあなまくらでも仕方ないと思って買ったのだから高性能を期待したりはしないのだけどね、使い方として刃筋を通したりするのが思いのほかめんどくさい。
俺が使えばほぼ鉄の棒だった。
つまり剣を振るのに全くなれていないのが原因だね。
対してネムちゃんとの決闘で使った木剣は使いやすかった。
もともと棒だからだろうか?
結論。俺はまだ剣を振り回せるレベルになっていない。
ということだ。
まあ、今まで振り回したことのある武器なんて竹刀ぐらいだもの仕方ないよ。
というわけで竹刀のように使える木刀、しかも強力な鈍器であり、たぶんだが剣の熟練度を上げることもできる。
そんな都合のいい武器を作ることにした、それが木刀。
と言うわけで宿場から少し離れた林にやってきました。ここも川に面していていずれば町に飲み込まれるのかもしけないか、今は人気のない雑木林だ。
俺は周囲に人がいないのを確認して石の木の中心部分を取り出した。
お風呂を作ったときにくりぬいたそれだ。
そのさらに中心部分をくりぬく。
そしてその芯材を剣の形に切り取るのだ。
しっかりイメージを固めて、イメージで切断面を峻別し、そしてそのイメージを力場として実体化させる。
すると…
ぱーん
という音とともに余計な木材がはじけ飛び、剣の形をした棒が残った。
実家に転がっていた木刀のイメージだ。
まあ、今は直刀だが問題なし。
にしても…
「長いなこれ」
こちらの世界の片手剣は六〇~七〇cmぐらいなのだが、それよりもずいぶん長い。物干しざおって感じかな。
試しにブンブンと振ってみる。
「あっ、悪くないな、しっくりくる」
あとはこれを締めればいい。
高校の時に友人に教わったのだ。
剣道部の友人が木刀をビール瓶でごしごしと本当に根気よくしごいていた。
そうすることで木刀の繊維が締まってより硬くなるのだと教えてくれた。同じようにこの木も押し固めればきっとよい木刀に…
あれ? 変だな、剣道部ってそんな事する必要あるのかな?
…まあいいか。
あいつちょっとヘンナヤツダッタしな。うん。
締めることに関しては俺の権能を使ってやるつもりだ。要はプレスだな。力場でできた型に押し込んでぎゅっと圧縮する。
その時に反りもつけてやる。
木というのはふやかせて力を籠めると曲がるのだよ。
重力でじんわりと押しつぶす。
シオンさんの剣の装飾を参考に力場に模様も組み込んだ。その上からじりじりと圧力をかける。
そしてさらに木刀に魔力を浸透させる。
型の中に魔力を流し込むような感じだ。
よくわからんがこの世界、魔力がしみ込んでさえいれば大概どうにかなるような気がする。たぶんそういう世界なのだろう(暴言)。
キシッ! キシッ!
と音を立ててほんの少し木刀が細くなっていく。
魔力もしみ込んで材質を変質させているようないないような。
「うん、いい感じだ。なんかよいものになったような気がする」
そのまま数時間。
魔力視に木刀が安定した様子が見て取れた。
そして力場の解除。
プシューと音を立てて湯気と魔力が立ち上る。
出来上がったのは長さ一mほどの白木の木刀だった。
圧縮が功を奏してつるつる綺麗。装飾もうまくいった。刀身やグリップに細かい溝ができいい感じの文様を描いている。なかなか綺麗だ。
ブンと振ってみる。グリップが少し長いが両手で使うことを考えるとこの方がいいかな。
一mというのは刀ならとんでもない長さだけど、問題なく振れるからそれでいいだろう。
「良し! 完成!!」
今度は木刀を大上段に構え、気合を込めて思いっきり振り下ろす。
「せい!」
シャン!
スババババッ!
「なんじゃこりゃ~!」
木刀から何か飛び出したー!
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