第51話 結婚式

■ マリオン。異世界に落っこちてきた。本名鈴木真理雄。

■ 〝あいつ〟無限炉の中で会った存在。真理雄に魔法を伝授した。

■ ネム。獣族の女の子、ものすごい美少女。白虎の特徴を持つ

■ ミルテア・大地母神ステルアの神官。ハーフエルフ。ものすごい巨乳。司祭様。


■ ご老公。フレデリカさん。前キルシュ公爵。思い切りのいい老婦人。ネムを孫のようにかわいがっている。

■ シオンさん。ご老公の護衛の人。魔法も使える剣術の人。

■ カンナさん。ご老公の護衛②。獣族。月兎族。きれいなバニーさん。ちょっこッとしたシッポがかわいい。パワーファイター。


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第51話 結婚式


 翌日はさんざん冷やかされたがまあこれは仕方がないと思う。


 翌朝、顔を合わせるなり『ひゅーひゅーっ』てなもんだ。

お前ら何処の若造だ。

 ちなみにやっていたのはミルテアさんとフレデリカさんの二人だ。


 フレデリカさんは名前から推測したとおり公爵家の人だった。

 しかし思っていた以上にヤバイ人だった。


 なんと前公爵様。先代のキルシュ公爵様だ。

現在は息子さんに公爵の地位を譲って隠居。

悠悠自適に暮らしていてたまに旅などするついでに領内の様子見などをしているらしい。


 それゆえに呼び名は『エルダーデューク』となる。


 老=エルダー。公=デューク。で、ご老公エルダーデュークだ。

 国王様から特別に送られた名誉職(?)みたいなものらしい。すごいな。


 そして護衛の二人もフレデリカさんを『ご老公』と呼ぶ。


 そう、『フレデリカさん』だ。俺は彼女のことを何と呼ぶべきか真剣に悩んだ。だって偉い人との付き合い方なんてわからないよ。

しかし本人の厳命おねがいで『フレデリカさん』と呼ぶことになってしまった。

 ネムは孫のようなものだから俺は孫の亭主で、だから良いんだそうだ。

 うん、まあいいだろう。どうせ日本人に高貴な人との距離感なんてつかめないんだから。


 そのご老公がミルテアさんと並んでヒューヒューとか…実にフランクな人のようだ


 さて、その後、なんとサプライズで俺とネムの結婚式が用意されていた。

フレデリカさんが手配してくれたらしい。


 この世界での結婚と言うのは神前結婚が普通で、神様の前で婚姻の儀式をすればそれで成立してしまうらしい。


 神殿ではいつでも結婚の儀というやつはやってくれるらしく、式をするのが当人二人だけでも神殿に出向いて式を挙げれば結婚できる。


 なんだ簡単じゃんと思うかもしれないが舐めてはいけない。

 この世界には神様がいて、その影響が本当にあるのだ。


 例えば俺たちの場合はミルテアさんつながりで大地母神ステルアの名のもとに結婚するわけだが、女神ステルアは豊穣や出産や大地の恵みを象徴する神様で、同時に女性の、そして子供の守護者でもあるらしい。


 なので攫ってきた女を神殿に連れて行って、脅して同意させてもステルアの承認は得られない。それどころか男の方にぺナルティがあるらしい。


 逆に両名とも本気なら子宝に恵まれるとか、いろいろ良いこともある。といわれているようだ。


 ほかの神様も同様に独自の制約と祝福があるらしく、どの神様に頼むかは結構重要らしい。神様がいるというのはこういうところまで影響が出るようだ。

 まあ会ったとはないけどね。


 ちなみにステルアは女性に一番人気。


 さて、本来なら神殿に出向いて結婚するわけだが、偉い人とかは自分のいるところに神官さんを呼んで式を挙げる。

 フレデリカさんの手配の所為か、俺たちの結婚式は宿屋の協力で広間を借りて執り行われた。


 式を取り仕切るのはステルアの神官。ミルテア・アリア。まあ、自然な流れかな。


 特別変わったことなどはなく、ミルテアさんの先導で俺とネムが誓いの言葉を述べる。

 その誓いに嘘がなければ何事もなく承認され、結婚が成立するわけだ。


 気になったのがネムの誓いの言葉には『死が二人を分かつまで俺のみを愛し、決して不貞は働かない』というくだりがあるのに俺の誓いの言葉の方には『死が二人を分かつまでネムをゆるぎなく愛し裏切らない』となっている所。

 いや、おかしくないといえばいえるのだがなんかニュアンスがね、気になったのさ。


 だが俺たちの結婚は神様に承認され晴れて夫婦となった。


『えっと、これからずっと…よろしくお願いします。マリオンさんの第一夫人になれてうれしいです…』


 輝くような笑顔でほほ笑むネム。

 あれ? 第一夫人?


 後で聞いたらこの世界は一夫多妻制だった。

 男の死亡率が高いこの世界では甲斐性のある男は複数の妻を持つのは当たり前なんだそうだ。

 複数の妻を持つことが男のステータスで、夫が複数の妻をもつというのは女の幸せのバロメーターでもあるらしい。

 ちょっとカルチャーショックだ。


「甲斐性のある男は奥さんも何人かもらって、たくさん子供を作らないとだめよ。それが世界の繁栄っていうものですからね」


 とフレデリカさんも言う。

 ちょっと顔が引きつる。


 でも、まあ、先の話だし、時が流れてみたら夫婦二人だけで年を取っていた…とかあってもいいんじゃないだろうか。

 うん、その線で。


 さて結婚だが儀式的なものはこれで終わり、でも事務的なものがあって、神殿に俺たちのステータスのデータと一緒に夫婦になった旨を記録してもらわないと入れないらしい。

 ステータスが身分証明書がわりということだ。これがあるから本人が間違われることがない。そして神殿の記録で二人が間違いなく夫婦であると証明されるわけだ。


 あともう一つ。役所的な処理もある。

 戸籍みたいなものだな。

 俺たちの所属は冒険者なのでギルドに報告するぐらいなんだけど、フレデリカさんが。


「せっかくだからキルシュ領の共通市民権をあげるわ」


 といいだした。


 言われてみればここは封建社会で、封建社会において領民は領主の財産だ。

 マンパワーがそのまま生産力に直結する世界において領民は勝手に住居を移動できない。

 旅行なんかする場合も(旅行自体ほとんどないのだが一生に一度自分の信仰する神様の大神殿に詣でたい…みたいなことはある)お役所から許可書を発行してもらって旅に出るのだ。

 なのにこの共通市民権というのはキルシュ領内であればどこに行っても市民としての権利を主張できて、よその領に行っても身分が保証される。

 冒険者の場合かなり上に行かないとここまではいかないようだ。


 いいのかこんなもの簡単に発行して。


「あらいいのよ、孫のためだもの」


 ああさいですか。


というわけで俺たちは完全無欠の夫婦になった。

 後問題があるとすればネムの実家か。

 挨拶に行かないとまずいのでは?


 といったらネムがワタワタと慌てた。

 まあ、家出娘らしいからね。

 そしたらフレデリカさんが。


「あらあら、マリオン君は礼儀正しいのね。普通旅に生きる人がご両親に結婚を報告したりしないわよ」


 と、のたまう。そんなのは事後承諾でいいのだそうだ。

 いずれ子供でもできたときに孫の顔を見せながら『やあ、これが俺の(私の)伴侶です』みたいな感じで十分らしい。


「まっ、ネムちゃんに関しては私がおうちに手紙を書いておくわ」


 それで良いのか?


「うーん、おばあちゃんはそれで良いような…」


「いいのよ、貴方のお母さんだって貴方みたいに旅先で旦那を見つけたんだから、文句は無いと思うわよ、それにあの子が結婚するときは私が随分力を貸したのよ、文句なんかいわせないわ」


 思い切りのいい人だ。

 この人たちにしてみれば俺など何処かの馬の骨もいいところだろうに。


 ちなみにネムの素性は聞いていない。

 フレデリカさんの親友の孫で、いいとこのお嬢様だと言うのは分かるのだが、家とか伝統とか、本能の前には意味がないそうだ。


 実におおざっぱな人達だ。


「私はネムちゃんを信じてますよ」


 そう言ってにっこり笑うフレデリカさんに俺はちょっと感動する。


 人間、本当に大事なことを人に預けて任せるというのはなかなか難しいのだ。

 部下に任せたとは言いながら気をもんだことは一度や二度じゃない。


 それを平然とやってのける。

 いや、ひょっとしたら俺にはみえないなにかがみえているのかも知れないが、これが人の上に立つ人という存在ものなのだろうか…

 将の器とかそんな才能のようなもの…


 嫁をもらうと交友関係がぐっと広がるのだが、こういう人達とこれから付き合いができるのかと思うと…ちょっと大変そうだなとおもう。

 まあ、嫁のためだ頑張ろう。


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