第42話 凶賊
第42話 凶賊
さておバカな盗賊達の登場だ。
人数は十六人。人族と獣族で構成されているメンバーだ。
全部男でその所為だろうかなり下卑た集団と化している。
中にはズボンの上から自分の股間をいじっている奴らもいる。
「あーっ、あいつら昨日の冒険者だ…盗賊?」
「あっ、昨日逃げていったみっともない人たちです」
こいつらは確かに冒険者だった。首から冒険者タグをぶら下げている。
「何で冒険者が盗賊の真似事なんぞ?」
「ああ? グダグダ抜かすな、持ってるもんと女おいてとっととうせろや。それとも女どもがひーひー言うの見てえのか?」
「おう、いい心がけじゃないか、仲間になるんならお前もやらせてやるぜ、全員終わってからだからぼろぼろになっているだろうけどよ」
「ウーム、冒険者ではなく本業は盗賊みたいだな…」
「ええっと、冒険者にも質の悪いのがいるから…
一度冒険者になってしまうとあとはめったに鑑定とか受ける機会はないからねえ…そのあとで道を踏み外す人は…確かにいるのよ」
「冒険者も厳しい世界ですから、地道にやっていけば暮らしてはいけますけど…最低限では楽ではないようですし…」
それで犯罪に手を出すものもいるということか…やはり魔法は万能ではないわけだな。魔法があってもこういうのは排除できない。
「ごめんなさいね、すべての人に定期的に鑑定をかけられればこういう盗賊たちも全部捕まえられるのに」
いや、それは危険思想だろう。
殺人犯が一人逃げ延びている状況はよくない。
だが警察がすべての人を監視して犯罪を犯した者すべてを片っ端から捕まえていく世界の方がより不健全だ。恐怖政治だ。
よしんばそういうのを正確に見分ける方法があったとしても、すべての人間を監視してしまったら世の中が回らない。
対処療法的に犯罪者を捕まえていくしかないのだと思う。
あとは教育レベルを上げて道徳的なものを育てていくとか。
浜の真砂は…ではないけれど、現実には鼬ごっこを続けるしか方法がない。
ということはこの盗賊たちの対処方法はおのずと決まってくるということだ。
「聞くに堪えません、切り捨てます」
ネムちゃんがスチャっと短剣を抜いた。
この世界では盗賊はサーチ&デストロイが当たり前みたいだが、いきなり攻撃というのも文明人としていかがなものか。
「さて、お前らが盗賊だと確定したわけだが~おとなしく投降すれば命だけは助けてやるぞ?」
一応投降を呼びかける。うん、文化的。
しかし俺の勧告に盗賊達はギョッとして顔を合わせ、継いでゲラゲラと笑い出す。
「お前ら俺達に勝てるつもりなのか?」
「そっちの女は結構やるみたいだがあとは何にもできなかったろうが、ああ? これだけの人数に勝てるつもりなのかよ?」
「十六対三だぞ、しかもまともに戦えるのは一人じゃねえか」
俺は首をひねった。なんでそういう結論になるんだろう?
「おい見ろよ、後ろの女、足が震えてるぜ」
「ひゃー、かわいいじゃねえか? 初物か? ぶち込みてえ、早くやろうぜ」
「おう、男は口先だけだ、昨日も全く動けなかったからな。たぶんこいつが護衛対象じゃねえのか」
「運が悪かったと思ってあきらめな。まあ普通は護衛をつけてりゃ心配はいらんのだろうがよ、この辺りには実は大きな盗賊団が潜んでいるのさ…
まあ、いい獲物があるときだけだけどな」
ひょっとして、現実と妄想の区別がついていないのかな? しかも願望がそのまま妄想になっている感じ。こういう馬鹿も…まあ、地球にもいたか。自分に都合のいい妄想を現実だと思い込むやつら…
さて、これから戦闘だがまず敵を知るのはよいことだ。
俺は魔力視を使ってこいつらを観察してみた。
魔力抵抗の話はしたが魔力視も生体が相手だと透過はしなかったりする。つまり体の中は見えない。でも服は透過できる。
野郎の裸なんか見たくないから必要なところにだけ集中。
その結果…
「こいつらほとんど冒険者だな」
ほとんどの盗賊が冒険者タグを持っていた。
「おう、いい勘してるじゃねえか…そいつを知られちゃ生かしておけねえな」
いや、もともと生かして返す気はないだろう。
こいつらは普段は冒険者をやってて、いい獲物があるときだけ盗賊にクラスチェンジしているわけだ。
となるとやはり殲滅だな。
対人戦は初めてだけど…果たしてどうか?
こいつらの強さは…まあ大したことはない。
先日の魔物に比べるとありんこみたいなものだ。
ではあとは俺の気持ちの問題か。
俺は一番近くにいてメンチ切っている奴に近づくととりあえず顔面を殴ってみる。
「あぎゃっ!」
バキッという音とともに男が吹っ飛んだ。あまり抵抗感はないな。
「まあ、若いし、世紀末ヒャッハーだしな」
まだ若くてモヒカンでスパイクの付いた革鎧とか着ている。眉毛も剃っていて目つきが悪いから威圧感はあるのかも知れないがここまで来ると笑いを誘う。
いや、日本人なら多分笑うだろう。
「あっ、マリオンさん、ずるい」
ネムちゃんが剣を構えて走り出した。
盗賊の方も人族は驚いているものがいるが獣族はすぐに臨戦態勢だ。
ほんとにキミら戦闘好きすぎ。
「くそ、てめえらやっちまえ!」
「ひゃっはー」
「男は剣でぶっすりだ。女はち〇ぽでぶっすりだぜ」
なんて下品な。頭が痛くなるほどの低能ぶりだ。
俺は俺の脇を走り抜けようとしていたネムちゃんをひょいと抱え上げた。
ネムちゃんは切り込む気満々で、自信はあるのかもしれないが、俺は対人戦は素人だし、何よりもネムちゃんとの連携など取れようはずもない。
この状態で乱戦になれば一対十六×三になってしまう。各個撃破だ。
「やーん」
かわいく抗議の声を上げるネムちゃんを抱えたままま俺は後ろに飛ぶ。
ミルテアさんはぶつぶつと(というと失礼かな)神様への祈りを唱えていて何か神聖魔法を使おうとしていた…が、かまわずにこれも抱え上げて飛び上がる。
「何だ!」
「飛びやがった!」
「魔法使いか」
「くそ! 気をつけろ」
「ファイアボールが来るぞ」
? なぜにファイアボール限定?
よくわからんが俺が起動しようとしていたのは別の魔法だ。
先日の魔物との戦いで飛行はかなり上手になった。
二人を抱え、高度を維持したまま盗賊たちが距離をとる。
「矢だ、矢で狙え」
盗賊のうち端っこにいた奴らが弓矢を出して射かけてくる。
ちゃんと連携とか考えていたんだなあ…なんてちょっとびっくり。
そんで矢が近くでいきなり落ちたからまたびっくり。
俺の展開する重力場で矢が叩き落されている。
面白い。
飛んできた矢がいきなり頭を下げて落ちていくのは面白い。
「何だあれは!」
「防御魔法か!」
「畜生、とんだ大外れだ、魔法使いが二人かよ」
? って思うよね。
あとで聞いた話だけど同時に二つの魔法を使うのはかなり難しいらしい。だから魔法使いが二人いる思ったのだろう。
しかしそんな制限があるとは知らなかったよ。俺は割と平気で…あっ、そうか、これが魔法の直接制御か。
そんなことに気づきながら俺は魔法を編み上げていく。
範囲魔法。
盗賊たちがすっぽり収まる大きさで、まあ、一人二人外れるがそこまで広げるとちょっと大きくなりすぎるしね。
そして…
「【地より沸き立つ
魔法はプログラムだ。
初歩の魔法は魔力にあり様を伝えてやればいい。
例えば『火』とか『水』とかだ。
少し高度になるとそれに行動をつけてやる。
ボールみたいに固まっていなさい。みたいなものだ。
ぶっちゃけ『ファイアボール』というのはこれだけの魔法だったりする。
後は投げつければ何かにぶつかって熱をまき散らすわけだ。
だが高度な魔法になるとそういうわけにはいかない。
威力を上げる術式。構造を安定させる術式。推進力に追尾機能、そういうのを作って組み込んでやらないといけない。
呪文というのはそれらを最初から最後まで一塊りにしたプログラムだったりする。
では呪文を使わない俺はどうやっているのかというと一つ一つの術式のパーツを魔力を編んで直接作っていく。それを組み上げて魔法を作るのだ。
そんなことできるのか? と思うかもしれないができるのだ。魔力回路があれば。
というかそれを可能にするのが魔力回路というシステムなのだ。
魔力を直接制御するためのアンテナのようなものと考えていたが、一度解析した魔法の構造が記録されていることから、そして魔法を組み立てる際に正解が脳裏に浮かぶことからもどうも情報処理システムでもあるらしい。
このシステムを利用し、魔光神槍であれば爆発のもととなる炸薬の部分や、推進力を作り出す推進機関。誘導を受け付ける受信機関。目標にぶつかったときに効率よく破壊エネルギーをたたきつける信管となる部分。そういう部品を魔力で編み上げ。できた部品を組み立ててミサイルを作る。そんな感じで魔法が作られる。
それは『地より沸き立つもの』の構築でも変わりはない。
まあこちらはかなり大掛かりでもっと複雑怪奇な構造の魔法なんだけどね。
効果範囲を指定し、属性を固定し、魔力の流れを設定し、いくつもの創造体を積層させるように組んでいく。変換、濾過、抽出と実に様々な構造体だ。
魔力回路の助けを借りてできるだけ素早く構築する。
そして最後に魔力を供給し、術式を点火させるのだ。
中心点の地中に魔法が編み上げられる。
魔法は即座に展開をはじめ、まずリング状の光が広がって効果範囲を峻別する。
当然リングの中が効果範囲だ。
その円の中を光が走り、複雑な文様を描き出す。
そして文様が完成した段階で白い光がはじけた。
盗賊たちが足元からの白い光に照らされて悲鳴を上げた。
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