第41話 盗賊

 第41話 盗賊


 グルーピーというのは音楽グループから派生した言葉で『あまりほめられない感じの熱狂的なファン』のことを指す言葉だ。主に性的な関係を期待してスターを追いかける人たちだな。


 言葉は言霊によって伝わるのでもちろんそういう意味だ。

 この世界には華々しい活動をする冒険者にそういう女たちがつくことがあるらしい。と後で教わった。


 きっとロイド君たちも今頃は大変だろう。

 特にリリさんとかね。


 それはさておき目の前の男たちは…


「どう見てもグルーピーが付くような奴に見えない」


「なんだとー」


 ついぽろっと漏れてしまったら一瞬で頭に血が上ったようだ。つまり…


「図星」


 ネムちゃんのトドメでした。


「てめえら、ふざ…」


 腰の剣に手をかけた戦闘の男の言葉は途中で止まった。

 男が動いた瞬間ネムちゃんが短剣を抜いて男の眉間に突き付けていたからだ。


 実は人間、眉間に何かを突きつけられてもうまく見えなかったりする。

 完全な、ではないがここも死角なのだ。


 ネムちゃんがいつ剣を抜いたのかも分からず、眉間に痛みを感じで目を凝らしたら剣らしきものが突きつけられている。しかも眉間には熱い痛みがズキズキと…

 これ以上はないほどのより目で剣を見つめパクパクと口を開け閉めする男。

 そいつのこめかみに一筋汗が光るのを見た。


 ネムちゃんの戦闘力は、対人スキルは実に見事だったといえる。

 もし周りの仲間が騒げば彼女の短剣がゆっくりと刺さっていったことだろう。


 だがそれは同時に男が下がれば抑止力たりえない。

 ここは援護しよう。


 そう考えたおれば仲間三人にプレッシャーをかけた。

 いや、俺もオタクだからね、憧れはあるわけさ。


 で具体的にどうやるかというと分からない。

 なので物理的に圧力をかけることにした。


 三人を力場で包み、その閉じた空間内に魔力を詰めていてく。

 言ってみれば魔力でゆっくりと押しつぶすような感じ?


 そしてこれは実に効果的だった。

 男たちの顔色が悪くなり、不安そうに眼を動かし、調子が悪そうにうずくまっていく。


 でもこれって直接重力で圧迫してもよかったかな?


「まだ何か言いたいことありますか?」


「い…いや…ねえ…ありません…失礼なこと言って…すまんかった…です」


 ネムちゃんが剣を引くと同時に俺もプレッシャーを解除。

 腰を抜かしたようにへたり込む四人はその後這う這うの体でその野営地を離れていった。


 さて、この野営地には他にも人がいるわけで、その人たちも全員冒険者風の男たちだ。

 あいつらほど礼儀知らずではなかったが、ネムちゃんたちを、特にミルテアさんの胸のあたりを気にしていたのはまるわかりで、ばつが悪かったのかその後は極めて礼儀正しく会話などして過ごすことになった。


 まあ男多数のところで女の子が二人では安心して休めないよね。

 しかし先に進むのも問題はある。夜というのは基本的に魔物の時間でかなり危ないのだ。


 結局そこにいる全員、気まずい時間を一睡もできずに過ごすとこになってしまった。


 ◆・◆・◆


「だから女の子は女の子だけでフルメンバーのパーティーを組みたがるのよ」


 ミルテアさんが偉そうに指を振りながら講釈を垂れる。ちょっとテンションが高いのは誰の目にも明らかだ。

 実は昨日の男たちが寄ってきた時から青ざめて調子が悪そうだった。


 まあ年頃の女の子が男ばかりのところに放り出されてじろじろ見られたら、それはいろいろ危機感があおられる状況ではある。


「あと、よっぽど信頼できる混成パーティですかね」


 女性冒険者というのは見ず知らずのパーティーとは、たとえそれが女のパーティーであったとしてもいっょに行動はしたがらない。という話だ。


 魔物というのは人類の敵だが、見知らぬ男というのは女の敵である場合もあるのだ。


「先輩たちと一緒に行動していた時は感じませんでしたけど…昨日は結構怖かったです」


 ネムちゃんが先制攻撃を仕掛けたのもその怖さゆえなのだろう。

 そしてそれは決して無用の警戒ではなかった。それは野営地を出てしばらく言ったころに顕在化する。

 俺の魔力視に隠れてこちらをうかがう人間が見えたのだ。


「すこしいったところに潜んでいる人間がいるね、数は十…六かな。全員武装してこちらをうかがっているみたい」


「「え?」」


 二人がびっくりした声を上げ、ネムちゃんがしきりに耳を動かす。


「え? あっ、本当です。ひとの息遣いが聞こえます」


 ついでネムちゃんもそいつらに気づいた。ネムちゃんの索敵は音によるので上手に息をひそめられると見つけられないことがあるのだ。

 それでも気を付ければ息遣いに気づける。


 ちなみに俺は耳を積ませてもそんなことは分からない。


「なんだと思います?」


 いったんとまって話し合う。隠れている連中の緊張感が増したのが分かった。どうも感情というのは強いと魔力に乗って伝播する性質があるみたいだ。


「うーん、普通に考えれば盗賊かしら…でも定期的に盗賊狩りはしているはずだし、あまりこの辺りで盗賊がでるという話もきいたことがないよねえ」


 ねえ、とか言われても困るのだが。


「でも、この辺りで何件か行方不明がなかったですか?」


「ああ、あったね。行商の人が行方不明とか…そんな噂があったわね」


 彼女たちがベクトンからターリに向かうとき調べたときにそういう噂があったそうだ。ただ人が行方不明になるのはたまにあることで、魔物の所為というのもあるのでまだ深刻には受け止められていなかったらしい。


「最大限の警戒で行きましょう」


 ? ミルテアさんの宣言に俺は首をひねった。

 いや、盗賊だから警戒するのは当然なんだけど…


「盗賊が活動していて、しかもその存在が明るみに出ていないということは、襲われた人が皆殺しになっているということですから」


 ああ、なるほど、凶悪犯なんだ。


「盗賊って普通はどう対処するんですか?」


 どういう対応が正しいのか聞いてみる。捕まえろとか言われてもハードルが高い。


「普通は殲滅でOKよ。盗賊死すべし! ね」


「盗賊は…盗賊に限らずですが、相手が襲ってきた段階で返り撃ちOKです。盗賊と分かっていれば先制攻撃で殲滅してもなんの問題もありません」


「そうね。神様は無辜の民をただ殺したのか、それとも正義のために戦ったのかちゃんと見ていてくれるのよ」


 つまり鑑定などでマイナスの称号が付いたりはしないということだ。

 凄いな神様。


「殺して首を持っていけば幾ばくかの報償金もでますよ、もし生かしたまま連れ帰れば犯罪奴隷として売ることもできますから報償は高くなります」


 そして、想像以上にハードボイルドな世界だった。


 そんなんで秩序の維持とかできるのか? という気がするが…


「問題ないわよ。神殿には看破が使える神官がいるから。怪しい人はちゃんと捕まえます」


 ふむ、つまり盗賊でない人たちを襲って盗賊を倒したというような嘘は通用しないということだ。

 マイナスの称号が付くし、看破で嘘も見抜かれる。


「もちろんいつも、すべての人を鑑定とか、看破とかできないけどね、神様が見てくれているからそういう人は何時か必ずつかまるわ。

 天網恢恢疎にして漏らさずというやつね」 


 悪の栄えたためしはない…ってか。


 そんな話に興じていたせいだろう。盗賊たちがしびれを切らしてわらわらとこちらによって来た。


 配置的に考えると俺たちがある程度進んだところで前後を挟むように展開するつもりだったのかもしれない。

 だが俺たちが話し込んでしまったので全員が同じ方向から向かってきた。


 なんかみんな一生懸命走ってくる。


「こういう場合は殲滅しちゃっていいのかな?」


「うーん、できれば証言が欲しいかな」


「そうですね、はほぼ間違いないとは思いますが盗賊でない可能性も少しはあります」


 証拠は大事らしい。

 まあ、盗賊みたいという理由で殺し合いなどされても迷惑だしな。


「よう、おめえら、命がおしかったらおとなしくしな」


 走り寄ってきた禿が剣を抜いてそうすごんで見せる。


「兄さんは身ぐるみ脱いでおいていきな。そうすりゃ命だけは助けてやるぜ。女どもは帰るのはあきらめな。まあ股開いていい子でケツ振ってりゃ命までは取らないぜ。

 いい子にしてりゃ終わった後で返してやる気になるかしれないぜ」


「盗賊です」


「下品な盗賊だな」


「なんでみんなこうなんでしょ…」


 下半身に血が集まると脳の血が足りなくなって男はみんな馬鹿になるんだよ。


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