第31話 日本人は畳だろ?

■ マリオン。異世界に落っこちてきた。マリオンに改名する勢い。

■ 〝あいつ〟無限炉の中で会った存在。真理雄に魔法を伝授した。

■ ネム。獣族の女の子、ものすごい美少女。白虎の特徴を持つ

■ ミルテア・大地母神ステルアの神官。ハーフエルフ。ものすごい巨乳。司祭様。


■ ロイド。森であったハンター。体格のいい重剣士

■ リリ。森であったハンター。微妙に露出のおおい魔法使い。

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第31話 日本人は畳だろ?


 とりあえずギルドではもうやることがない。

 となるとあとは何だ?


「えっと、宿屋探しですね」


「ああ、なるほど確かにそうだ」


 町の中央には広場があって広場には露店などが出ていて食べ物屋も結構ある。ここは町の人々の憩いの場なのだろう。

 この状況なら食い物には不自由はしないとおもう。


 なかなか良いにおいが漂ってくるが、久しぶりの文明圏での食事だ。できれば普通の定食かなんかが食べたい。

 この世界の食糧事情を知るためにもぜひ。


 でだ、普通の定食屋というのは大概宿屋とセットになっているらしい。


 普段は一般の人も食事に訪れたりするが時はまさに繁忙期。冒険者ヒャッハーの時代。宿屋の方に余裕がなくて定食屋で食事だけというのは無理のようだった。


「うーん、でも今は宿屋自体があるかどうかわかなんいわ」


「え? 宿屋がなくなったんですか?」


 集団倒産とか?


「いえ、そうではないです。この時期はあちこちから冒険者がこの町に集まりますから宿屋はどこも満室で、

 宿屋にはいれなない人たちは町の広場で野宿が多いです」


 ああ、なるほど、町の人が食堂を使えないような忙しさなら、そら宿屋もいっぱいだよね。

 そして宿屋が取れなかった冒険者は町の空き地で野宿をしていると…


「うーん、でも…旅に出てから初めての人里だから…できれはまともなところに泊まりたいですね…」


「その気持ちは分かるわ。とりあえず私たちの止まっている宿屋に行ってみる?」


 ミルテアさんによると彼女たちは毎年定宿にしているところがあってこの時期は一部屋キープして入るらしい。

 ベテランパーティーの定宿なのでその分高いらしいが、それだけに部屋が開いている可能性がある。とのことだった。


 ちょうど空き地の前を通りかかるとそこにはたくさんのテント、どういう構造か四角錐ではなく四角い箱型だがたぶんテントだろう。が並んでいる。

 ここに混ざるのは…うん、遠慮したい。


 だがどうする?

 ここが混んでいるならば隣の町は大丈夫という理屈だろうけど…彼女たちとたもとを分かつのは不安だ。

 今のところ知り合いはこの二人しかいない。それにこちらの事情を多少なりとも知っている貴重な情報源だしね…


 さてどうしたものか…

 で宿屋で聞いてみたら。


「お部屋ですか? ちょうど空いてますよ」


 ああ、さいですか。


 ◆・◆・◆


「ちょうどキャンセルが出たのさ、常連客から頼まれてね、何とか予約を入れてやったのに土壇場でキャンセルさ。

 普通は前金でもらうんだけどね、その常連を信用して大赤字だよ」


 恰幅のいいおばちゃんはそういって自分のふとましい腹をバチーンとたたいた。


 ああ…すごく似合ってる。


「昨日は一応部屋を開けてあったんだが、今日からは通常営業さ、それが決まったところにあんたが飛び込んできた、いいタイミングだったよ」


「それはありがたい。よろしくお願いします」


「あいよ。部屋は六畳一間で一泊“四〇銅貨”だ。飯は朝だけついてるよ。一人で止まるにゃちと高いが、部屋ごとの料金だからね。大丈夫かい?」


「ええ大丈夫です。とりあえず三泊お願いします」


 四〇銅貨というのは一六〇〇〇円ぐらいだな。

 結構高いといえる。でもルームチャージ方式で一人でも二人でも四〇銅貨だそうだから…こんなもんかもしれないな。


 俺はポケットに入れておいた小銭から〔四銀貨二〇銅貨〕を渡す。

 普段は一泊ごとの清算なのだがこの時期はそれをやると部屋がなくなってしまうようだ。

 三泊というのは特に意味はない。


 一泊だけということはないだろうが、逆に長逗留もないだろうというので三日。


「食事は別料金だ、晩飯は飯の時間にきてくれればいい。自慢の料理を出してあげるよ。朝飯を食うんなら前の晩に言っとくれ、そうすれば用意しておくよ、屋台で済ますんならいらないといってくれれば用意せずにおくさね。代金は…まあ、二銅貨あれば足りるさ。

 うちは料理は自慢なんだ。頼んで損はないよ」


 商売上手な女将さんである。


 そうして案内された部屋はなんと畳の部屋だった。

 畳だよ畳。

 きっちり四畳半だ。六畳といわれたときに『?』と思ったんだよね。


「ああー畳は良いなあ…」


「お客さんひょっとして外国帰りですか? 外国から帰ってきたお客さんはそういう事を言うんですよね」


 なるほど、その気持ちは分かる。

 と言うかやはり畳なんだなこれ。


「それじゃお客さん、食事は六の鐘からできます、後半鐘ぐらいですかね」


 よくわからんがまあいいや。

 取りあえず実に半年以上ぶりのまともな部屋だ。しかも畳だ。もう少し堪能したい。


 俺は案内してくれた彼女にチップだと行ってポケットに入っていた硬貨を二枚渡し、さらに転がって畳を堪能した。


「ありがとう、お客さん。わたしリリアっていうの。食事の時間によびにきますね」


「どういたしまして、俺はマリオンだ。呼びに来るのは頼むよ。助かる」


 目を閉じたまま彼女が部屋の戸を閉めて帰っていくのを見送った。


「あー、しかし四畳半…素晴らしい。真ん中にちゃぶ台があってリリアが持ってきてくれたお茶が置いてある。

 なんと文化的な生活だろう…」


 やっと文明圏に帰ってきた…そんな気分だ。

 良く生きて帰ってこれたものだ…

 涙がちょちょぎれるぜ。文化的生活万歳。


 ちなみに畳は四畳半だが入り口に板の間があってそれが一畳半ぐらいある。

 靴を脱いだり、装備品を置くような使われ方をしているのだろう。結構傷がある。

 一番奥に物入があって、金属の板を差し込むような鍵が付いている。昔のロッカーキーみたいなやつだ。

 そして部屋にはカギがない。

 閂があってそれを内側からかけるようになっている。


 とってもしんぷる。

 

 しばらくごろごろしてふと思い出した。


「そうだ、冒険者証のチェックをしよう」


 一応説明は聞いたがまだよく見ていなかった。

 俺は新品の冒険者証を取り出してしげしげと見つめる。


 見た目はドックタグだな。楕円形のあれだ。

 一か所穴が開いていてそこにわっかがあって、そこに鎖とか紐を通すようになっている。

 鎖が見た目にかっこ悪かったのでとりあえず俺は革ひもを買ってつけた。


 材質はよくわからないが何かの合金であるらしい。

 表に『冒険者のエンブレム』として盾と剣の意匠が彫られていて、その下に俺の名前が刻まれている。

 裏側には冒険者ランク。現在はCだな。その下に過去の実績などが刻まれるらしい。今はまっさらだ。どういう理屈が知らないがこれは書き換え可能。つまり実績を積んでいくとここに記入されてランクアップの参考になるらしい。


 一番下には魔力石という小さい石がはめ込まれていて、これはには自分の血を一滴つけてある。

 これによってこの石は俺の手にあるときだけ光るのだそうだ。

 つまりかなり高度な身分証明書になる。


 ちなみに書かれている文字はまだ読めないものがほとんど。

 ただこれはあまり心配はしていない。


 なぜか記憶力がよくなっているのだ。

 一度見た文字列は単語として記憶できている。


 これは魔力視による解析と関係あると思う。

 魔法のありようを詳しく解析しようとして魔力視で観測しているとその魔力の性質や動きをほとんど完ぺきに記憶できるのだ。


 そういうものだと思って気にも留めていなかったが、これがどうも文字やあるいは薬草などの情報にも適用されるみたいだ。


 自分の中に意識と連動したコンピューターがあるような、そんな感じがちかい。


 なんでもかんでもというわけではないのだが、意識的に覚えようとしたり、解析しようとしたりすると記録されるらしい。

 というわけで単語なんかも意識すれば記録できるし、記録した単語は字を読もうとしたときに検索がかかる。


 この調子で単語をコレクションしていけば文字に関しては直に問題なくなるだろう。


 問題は文法だがこれは日本語に似ている。全く文字が違うのに文法は文末決定性で接続詞がちょっと違うぐらいか。


 これはもう自分の中に辞書を作るつもりでやっていくしかないだろう。


 まあ、何にせよこれで俺はこの世界の『身分』を手に入れたことになるようだ。

 この冒険者証があればこの国ならどこに行ってもまっとうな冒険者として暮らしていけるようだ。


 そんなんでいいのか?


 と思わなくもないがおかげで助かるのもまた事実。

 これは良しとするしかないよね。




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