第14話 すごいぞ『しまうぞう君』

■ 鈴木真理雄。異世界に落っこちてきた。現在道を模索中。

■〝彼〟or〝あいつ〟無限炉の中で会った《なにか》。真理雄に魔法を伝授。


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 第14話 すごいぞ『しまうぞう君』



 さて、火をおこさないといけない。

 これだけいろいろできるのだから何か方法があるはずだ。


 だがどうやって?


 よくサバイバル物で見るのが木を擦り合わせて摩擦熱で火をつけるというヤツだ。だがこれは火口になる墨の粉とか、綿とかが必要で簡単ではない。


 魔法はと言うとこれも難しい。

 なぜなら魔法を使えるようになって以降。俺は火を見たことがないからだ。なので火のありようというのが分からない。

 つまり魔力にこうありなさいと指示が出せないのだ。


「それさえ分かれば何とかなると思うんだけどなあ…」


 後は太陽光を利用した集光で火をつける。つまり虫眼鏡だな。

 だがこれもダメ、日は既に暮れてしまった。


「重力レンズとかできそうな気はするんだが…」


 となると後は大気の圧縮か?

 物質というのはぎゅっと圧縮してやると加熱する。

 大気は極限まで圧縮するとプラズマ化するはずだ。


 そして重力制御で思い付くのはやはりブラックホール。って駄目か。いくら何でもそれができるとは思えない。


 ならどうするか。


「うむ、あれだな」


 俺が思い出したのは“あいつ”がペークシスを圧縮したときに使った業だ。

 魔力で“型”を作りそれで物を圧縮する。

 まあ魔力で行うプレスみたいなものだ。


 どのぐらい圧縮すればいいのかわからないからとりあえず手の届く範囲、手というのは魔力の制御できる範囲ということだよ。

 空中にかなりでっかい魔力のからを持った球体を作る。


 それを一気にぎゅっと圧縮する。


 俺の目の前でわずか十数センチにまで縮んだ魔力球。中には圧縮された大気がいっぱいだ。かなりの高温になっていると思う。


 だがプラズマ化まではまだ足りないかな。


 ではもう一回。その外側にまた大気の卵を作って圧縮。最初のものと一緒にする。


「うーんもう少し…」


 かなりの反発力がある。だがそれを無視してさらに小さく圧縮していく。

 大きさが数センチになったとき、それは起こった。


 大気を閉じ込めた魔力の殻がカッと光り輝いた。


「よし、成功だ。プラズマになったぞ。すごいぞ私!」


 これに足元に落ちていてた枝のようなものを持ち上げて接触させる。

 とたんにボッと火が付いた。と言うか接触した部分は一瞬で消し炭になったが残ったところが燃えている。


「良し成功(?)だ。焚き火ができた」


 これで魚が焼ける。めでたしめでたし…あっ。このプラズマ球どうしよう…

 そこら辺にすてると火事になりそう。

 川にすてると爆発しそう…なんも考えてなかった…

 ある意味凄いぞわたし


 しまっておけないかな?


《高エネルギー体の収納は時間停止機能を使用して下さい》


 あっ、しまうぞう君からメッセージ来た。

 しまえるんだ。


 俺は指示通りにプラズマの塊を時間停止状態で空間収納に放り込んだ。


 使える魔法陣にはいくつかあって、時間停止状態を使用する場合はあらかじめその魔法陣で対象を固定してから普通にしまうようだ。

 

 よし、でもこれで何とかなった。後で適当なところを見つけて捨てよう。


 しかしそうか~、時間が停止していると言う事はどんなに高温のそれでも熱くないと言う事だ。熱が伝わらないと言うことだからな。

 本当に凄いアイテムだよこれは。


 項目を確認したら【高熱原体A】というタグが増えていた。【プラズマ球】に名前を変えておく。そうしないとわけ分からなくなるからね。


 その後、焼いて食べた魚は涙が出るほどうまかった。

 カップ麺の麺はあの閉鎖空間で食べてしまったが粉末スープと唐辛子は残っていたから味付けもできた。

 まあ、変わった味ではあったが半年ぶりのまともな食い物。非常にうまかった。


「あっ、兎も喰うんだった…ダメか。捌けないや」


 俺ってばこの世界で本当に生きていけるのかね…ちょっと不安~


 ◆・◆・◆


 食べ物は手に入った。

 火はプラズマがしまってあるから簡単につけられるだろう。

 となると必要なのは水だ。


 目の前にはでっかい川。

 落ち着いて見るとかなり大きい川だ。

 

 川幅は十数mはあるだろう。

 水深も普通に深いところでは二、三mと言うところか。俺が水浴びをしたのは岸から五mほど水深一mほどのところだ。

 今にして思えば水量は多いようでかなり圧力があった。


 水は何処までも澄んでいて、美しい。と言っても今は夜になってしまったから真っ黒で見えないけどね。魔力視はここでも便利だ。


 しかし収納魔導具は水のような液体を保存できるようにはなっていない。

 いや、できるのだが管理が大変難しいのだ。


 先ほどのプラズマもしまうことはできたし、出すこともできる。だが一部だけというのはムリなのだ。

 水も同じ、水筒にでも入れてあれば一本、二本で出し入れできるが、水その物を取り込んでも一度にどばっと出てきてしまうので…


「いや、まてまて、どうせなら一リットルぐらいずつ一塊でいれておけばいいんじゃないかな?」


 うん、いけそうな気がする。


「よし、水の収納だ」


《液体収納システムを使用しますか?》


 ばたっ…なんかやだ…


 ◆・◆・◆


 調べてみると収納リングには『液体収納システム』という水のような液体を収納するための機能もあった。

 俺が最初見た取り扱いのチュートリアルは基礎編で、その他に『高度な使い方編』があったんだ。

 なんと①から③まで

 これを全部読むのは大変そうだ。取りあえず水でいいや。

 なになに…


 と言うわけで今『しまうぞう君』の展開する魔法陣の中に水が吸い込まれていく。

 この見た目がなかなか面白い。

 

 まず水の中に直径三〇cmほどの球形の魔法陣が沈んでいる。頭が少し出るぐらいだ。

 その魔法陣の中心には黒い穴があって。そこに水が吸い込まれていく。

 だがただ吸い込まれていくのではない。


 三〇cmの立体魔法陣は水を濾過するフィルターであり、同時に水を収納管理出来る状態に固定するフィルターでもある。


 周囲を流れる水は魔法陣を通って内部に入ると一辺一cmほどのキューブ状に固定される。

 そのキューブは渦を巻くように流れ、中央の黒い球体に飲み込まれていく。

 この先は当然収納スペースだ。


 シャラシャラシャラと音を立ててながら渦巻く水のキューブ。

 見た目に面白く、また美しい。


 この一cmのキューブが液体の保存の基本形になる。

 つまり水ならばキューブ一〇〇〇個で一リットルという事だ。


 多分他にもいろいろな液体を一cc単位で収納できるのだ。

 これはちょっと想像もしていなかった管理方法だな。


 ちなみに水の水質も固定されている。

 フィルターには不純物をのぞく機能もあり、最初水の内容を指定せよといわれたときには頭を抱えた。水というのは実は結構いろいろな物が含まれている。この中から必要な物を取り込むわけだが…めんどい。


 純粋な水、つまり完全なH2Оなら簡単なのだ。水分子だけを指定してやればいい。実は少しやって見たが簡単にできた。

 だがこれは悪手だ。


 水というのはちゃんと味があって、美味い不味いがあるのだ。

 その決め手になるのが水の中に含まれるミネラルなど。だから完全なH2Oは美味くない。そしてどうせなら美味い水を飲みたい。


 だったらもう川の水でいいんじゃね?


 と思うかも知れないが収納するときに鑑定と合わせて調べたらアルわアルわ。細かい雑菌(雑菌だからといって有害とは限らない)やらよくわからない細胞やらタンパク成分やらがいっぱい。


 飲んじゃったじゃない。

 すごいぞ人間の免疫力。


 なので水とミネラルつまりカルシウムなどの鉱物成分のみを残して後は捨てることにした。作った水はまあまあ飲める(味の)水だったからそれに決めた。


 その結果が現在の収納光景である。

 なんか中心に飲み込まれ、どこかに行ってしまう水を見ていると…『あぶだくしょーん』とか叫びたくならないか?


 さて、毎分六〇リットルほどのペースで回収されていく水。

 既に三〇分ほど。ディスプレイ上の水はどんどん増え続け【飲み水①】は既に一八〇〇リットルとなる。風呂桶九杯分。


「あれ? なんかそういう言い方をすると少なく思える」


 仕方ない、もう少し続けるか。


 俺はその場で横になり、収納される水を遠目に見ながら目を閉じた…


 ◆・◆・◆


 らいつの間にか朝になっちゃったよ。

 寝ちゃったよ。

 その間も収納は動き続けてたよ。


 収納した水の量、実に二万九〇〇〇リットル。


 うん、このくらいあれば大丈夫だね…って汲みすぎたぜ。

 すごいな収納!

 

 ◆・◆・◆


 朝飯を食べて全身に回復魔法を巡らせて体調を整え準備完了。さて、今日も突き進むか。

 なんとか人の居る所まで。


 そう気合を入れて立ち上がったら意識になにかが触れた。

 川の中だった。


 なにかが流されていく…あれは…

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