第13話 重力制御と魚とり

※ 鈴木真理雄。異世界に落っこちてきた。現在道を模索中。

※〝彼〟or〝あいつ〟無限炉の中で会った《なにか》。真理雄に魔法を伝授。


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 第13話 重力制御と魚とり



 お肉が二つ。

 きゃー嬉しい! と思ったのもつかの間。調理する方法が無いことに気が付いた。


「なんてことだ…目の前に食べ物があるのに食べられないなんて…」


 がっくりと手をつく俺。


 まずさばき方が分からない。

 現代人が動物の解体とかやったことあるはずもないのだ。

 それでも皮をはいで肉にすれば焼いて食えそうな気がするが今度は火がない。


 魔法でどうにかしろって?

 無理。


 イメージだけでは無理なのだ。

 俺が火のイメージを作れば見た目は火のような映像が作れる。だがそれは単なる映像で火ではない。

 本当の意味で火を作ろうとすれば現物をみて観測しないと…


「いっそこのまま…」


 なんて考えが頭をよぎるがそれはダメ。ダメなの。なんか生で食べるとか人間としての尊厳をすてているような気がする。

 ひょっとして外人が生魚を気持ち悪がるというのはこういうことなんだろうか?


「しかし、ここで尊厳について考えていても仕方ない…」


 ここは哲学を論じる場ではないのだ…たぶんだけど。


 取りあえず限界まで…移動できるところまで移動しよう。


 そう決めると俺は軽く地を蹴った。

 ふわっと体が浮かび、ゆっくりと降りてくる。

 まるで月面のようだ。


「なるほど、重力制御か…」


 また一つ自分の能力の使い方が分かった気がする。


 今度は前方に大きく踏み切った。滑るようにかなりの距離を移動する俺。

 少し高度が下がったらまた地面を蹴って加速。


「月面探査だな。重力の影響が低くなっていると言う感じか…」


 先ほどのアルミラージとの戦闘のときにこの感覚に気が付いたのだ。

 だがそれだけではない。

 あの時は重力を無視して浮かび上がりすらしたのだ。


 木々をさけながら、時に木をけって進み。できるだけ体を持ち上げるようにしてみる。

 巨大ながれきを動かせるんだ自分の体ぐらい軽い物だろう。そう思う。

 そう、できるはずだ。


 すいっと体が浮上した。浮遊しての移動に成功したのだ。


「おおおーっ、宇宙遊泳だ」


 ニュースで見た宇宙ステーションの中の光景だ。

 ただ推進力は自分の脚力だな、蹴って進む。


「ふむ、でも重力制御ならこう、飛んだりもできるんじゃないかな?」


 空気の抵抗があるので漂っていると自然に静止してしまう。

 それでも浮いたままだが、これでは移動手段としては使えない。

 何とか前に進むことはできないだろうか。


 身を乗り出すように前に力をかけるとまた変な感じがする。

 今度は磁石で引っ張られる感じに似ているだろうか。


 前の方に何かが集まって重くなるような感じがしてきたのだ。


 それと同時に体がゆっくりと前に進みだす。

 おお、やった!

 と思ったら今度は逆にどんどんスピードが上がっていく。

 この感覚にも覚えがある。高いところから飛び降りたときの感覚だ。つまり重力にひかれている感覚。


 つまり俺は今、横方向に『落下』しているのだ。


「のわー」


 どのぐらいの重力が発生しているのかわからないが、俺は重力加速度に従って加速していく。


 ここは森の中で当然に木が生えていて、まっすぐ落っこちれば当然ぶつかる。気が付けば正面からかなりぶっとい大木が迫ってきていた。


「あー、ぶつかるぶつかる!」


 だけど急には止まれない。とっさに手を伸ばして顔をかばうがそれがどけだけの…

 ありゃ?

 また磁石だ。


 また磁石の押しのけるような感じがして、木が接近するとそれがいきなり増大して、グンと減速した後ぬるりと滑った。

 磁石の同極同士を近づけたとき、限界を超えると起こるあれだ。


 危ないところで回避、そしておかげで少し冷静になれた。


 重力というものがどういうものか、地球の科学でも解き明かされてはいない。なので当然俺も詳細などわからないのだが、取りあえず今俺に作用している力は引力と斥力だと思う。つまりそれを作り出せるわけだ。


 よくわからないものだから研究と検証は必要だろうけど、とりあえずはそれな。


 それに気が付くと何とか上手に進めるようになった。

 スピード的には徐行、つまり30km/時というところまで落とせた。そして安定させられた。これなら木を回避しながら上手に進める。

 このスピードなら任意の方向に落っこちることができる。


 そして成功するとこれは実に気持ちいいものだった。


「あはっ、あはははっ」


 自然と笑い声がこみあげてくる。

 木々の間を縫うように飛び回る。

 それがこれほど気持ちいいとは。


 俺は森の中を進んでいった…


 え? なぜ低空飛行をするかって? たかいところは嫌いなんだよ。


 ◆・◆・◆


 さて、現実問題として水が欲しい。

 つまり川の位置を特定しなくてはならない。

 となると高く上がってみるしかない。


 うーんやりたくないなあ…

 しかし子供じゃないんだ、やらなきゃいけないこともわかっている。

 では思い切って…とりゃ!


 俺は力強く大地をけって空に昇った。


 で、結果。あまり怖くありませんでした。


 落ちるのが怖いから高所恐怖状なのであって、落ちなければ怖くないのだ。つまり重力のくびきから解き放たれれば上も下のないから怖くないねん。大発見だ。


 新しい世界の扉が開いた。


 そして発見しました。川です。

 遠くに水のきらめき。

 このまま移動しようかと思ったのだけれど俺は慌てて高度を下げて森に隠れた。


 なぜって少し離れたところになんかでっかい鳥が飛んでいて、こちらに気が付いたみたいに急速接近してきたからだ。


 俺が地面に降り立ち、木の幹に張り付いて隠れたときそいつは頭上を通り過ぎていった。

 俺は魔力視でそれを確認する。


 遠目で鳥かと思ったが鳥じゃなかった。


「翼があって、鱗があって、あれってワイバーンとかそう言うのか?」


 そう、空を飛ぶ爬虫類?

 翼と手が一緒になっていて、皮膜のようなのものが翼を構成している。つまり蝙蝠の翼だ。

 足はがに股で大昔の翼竜に似ている。しかし翼竜とも違う。

 頭部はワニに似ていて長い尻尾も生えている。


 つまりそういう生き物だ。


 何度か頭上を旋回して離れていったがかなりドキドキだ。


 仕方なく川のあった方向に低空飛行すること30分。

 時刻は夕方、たぶん夕方。日が傾いている。だがたどりついた。


 川です。

 水です。


 やっふーっです。


 勿論飛び込んだよ川の中に。


 水はかなり澄んでいて飲むと美味しい。

 服を脱いで川岸に放ったらそのまま水浴びだ。


 実に半年ぶりの水だった。

 大いに浴び、体を洗い、また飽きるまで飲んで大満足。

 命の水とはよく言った物だ。

 と言うか俺ってば半年もまともに水飲まずに生きてたのか? 大丈夫か俺? すごいぞ魔法。


 そんなときに足下をよぎる魚影。かなり大きくてギョッとして飛び上がった。

 そしてそのまま水面に着地。いや、着水。


「まさか水の上に立てる日がこようとは…」


 この世界のあれやこれやはまあ、大迷惑ではあるのだが、同時にオタク心をくすぐるな。微妙に楽しい。困ったものだ。


 水中魔力視を向けるとそれは間違いなく魚だった。地球のそれとほとんどかわりがないように見える。

 気をつけて水中を確認するとそこかしこに魚がいる。

 みんなかなりの大物だ。


 これ…食べられるのだろうか? と思って首をひねっていると見覚えのある魚が通りかかる。


「鮎だ。間違いなく鮎だ」


 渓流釣りの趣味など無い俺は川魚には詳しくない。それでも鮎ぐらいは見たこともあるし食べたともある。

 だから分かる。あれは鮎だ多分。

 自信がないのはやたら大きいからだな。三〇cmを優に超えている。


 他の魚も名前は知らないが見たことのある姿をしている。ヤマメとかイワナとかそう言うのじゃないかな?


 そうだ。これを獲ろう。

 俺はすぐに岸に上がって服を着る。俺とともに川に飛び込んだはずの服は綺麗に乾いていた。


「おそらくそういう素材なんだな」


 そういう事にしておこう。

 さて、魚取りだ。

 魚の良いところは『焼けば食える』ところだ。

 基本内臓も食えるし、食いたくなければすてればいい。


 俺はライフルを構えると川縁に移動して魚を狙った。

 そして引き金を引く。


 パウッ!


 軽い衝撃と同時に一条のビームが水面を貫く。

 そして魚も貫く。


 一瞬暴れるお魚。だがすぐに静かになる。仕留めた。ただ浮かんできた魚はそのまま川下に流されていく。


「あああっ、魚が~っ!」


 惨事!


 そう思った瞬間に『しまうゾウくん(イヤリング)』が反応した。

 回収しなくちゃとか思ったせいかな?


 目の前に立体的な魔法陣が現れ、それがアユを追いかけてす~っと飛んで行く。そしてアユに追いつくとぶわっと大きくなってアユを畳み込み、そのまま収納の中に回収してしまったのだ。


「おおーっなんて便利な」


 こうなると俄然やりやすくなる。

 今度は予めしまうぞう君を起動させておいて魚を射撃。


 浮いてくるところに魔法陣を飛ばして収納。


 サードアイのおかげで水中も見えるのでものすごく効率が良い。


 あっという間に収納画面に魚が積み上がっていく。

 

 取りあえず。


 鮎(仮)5

 魚①  4

 魚②  3

 魚③  6


 と言う感じだ。

 名前が分かるとフォルダーにも名前が付くようだな。

 そしてカウンターはどんどん増え続けています。


「やっぱ狩りは銃だよね」


 総数で五〇匹ぐらいの魚を捕り、やはり火がないことを思いだしたときには既に日が暮れていた。

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