第12話 権能
第12話 権能
「ふーむ、ほとんど遺跡だなあ」
おそらくここには昔、立派な建物があったのだ。
何千年か前に。
今は見る影もなく地上部分はすべて崩れ、一部の壁や柱が残っているだけでほとんど埋まってしまっていて遺跡にしか見えない。
いや、遺跡でいいのか。
ただ、いまは巨大な瓦礫がよけられてその下にあった地下への階段がむき出しになっていて、そこだけ真新しくて浮いている。
ちょっと考えてみる。
「このまま放置して変な生き物とか入り込むとやだなあ」
「それにあのお化けが出てきたりするのもいただけない…」
どこの怪獣映画だー! という話になってしまう。
まあこの世界の状況が分からないから案外簡単に退治されて終わりという可能性もあるのだけどね。あいつら弱かったし…
しかしあの手の化け物を自分が解き放つというのは避けたい。
「となるとここは塞いでおくべきかな?」
まあ一度動かせたのだからもう一度もありだろう。
とりあえず瓦礫を抱えて持ち上げてみると…
ズコッ という音と共に動いたよ。
ただ変な感覚だった。
俺が持ったというより瓦礫が勝手に動いたという感じがする…
なので瓦礫をもう一度よく見てみる。
瓦礫の中に三つ、俺と共鳴するポイントが存在する。一〇mを超える瓦礫の中に三角形にバランスよくその点は存在していた。
ふむ。
力を入れて瓦礫を動かしてみるとその三つの点も寸分狂わずについてくる。
いや、逆だ。
この三つの点が動くからそれに重なっている瓦礫も動くんだ。
手を放してみるとやはり瓦礫は宙にういたまま制止している。
「なーるほどね、これが権能というやつか」
この点はおそらく重力に作用する点だ。
つまりこの瓦礫を動かしているのは腕力ではなくこの重力制御なわけだ。
三つというのがポイントだな。三点で干渉していることで瓦礫がグリングリンとどの方向へも回転してくれる。
巨大な瓦礫が重力や慣性を無視して思うとおりに動くんだこれはものすごく面白い感覚だった。
そう、面白いのだが…
くう~とお腹が鳴った。
うん、面白いけど遊んでいる場合ではないな。
外に出られたのだ水と食料を何とかしないと…ここでは十分な魔力がないから魔力で体の維持はできないだろう。
できたらすでに人間ではない。
俺は瓦礫の位置を合わせて降ろし、ついでにぐりぐりと落し込み階段に蓋をする。
ぼこっ
あっ、グリグリやりすぎでちょっと崩れてしまった。
ここは土で埋めておこう。
さてそれでは水だ。
ここでも魔力視を使うべきだろう。
魔力に寄る知覚能力。
目の前のがれきに焦点を合わせればその構造や力の掛かり方なども把握できる能力。遠く遠くに伸ばせば肉眼では見えない遮蔽物の向こうも見える能力。
しかもかなりの距離が把握できる。
ただ慣れていないので腰を落ち着けて、耳を澄ますように心を澄ませて遠くへ遠くへと意識を飛ばす。
感覚としてはドローンのような物だ。
脳裏に丸く切り取られた景色が映し出されて、それが遠くに移動するにしたがって移り変わっていく。
そして見たいものが見えたときはそこに集中すると対象の立体的なイメージが把握できる。
これは便利だ。
そう、3D画像が目の前にあって、それを自由に回転させてみることができる感じだ。
今はこの魔力視を10mぐらいの球形に設定し、森の様子舐めるように確認していく。
もし知覚を向けた方向に水があれば見えるはず。
さらに自分を中心に三六〇°ぐるりと回せば…川でもあればこれで見えるはず。
「ん~ ん~ ん~。ダメだ、水らしきものは見えない」
このやり方だとピンポイントだから湖とか、泉とかは見つからないんだね…
「ちょっと距離を取りすぎたかな…」
間にあるものまで把握するとなると…せいぜいが二〇〇mぐらいが知覚範囲のようだ。これで周囲を確認しながら進しかないかな…
取りあえず太陽のある方向に行こう。
◆・◆・◆
太陽が一番高くなる時を南と仮定して進む、だから当面は東から徐々に南に進路を変えて進むことになる。
迷子になったときのために特徴的な地形やオブジェクトは記録していく。
そうして歩いているウチに大切なことに気が付いた。
世界は魔力で満ちている。という事だ。
見渡す限り全てのものがほんのりと淡い光に包まれている。
生き物は躍動的に。無生物は沈黙するように。植物はしずかに歌うように。
なるほど“あいつ”の言ったとおりだ。だが実際に見てみると面白い。
そして注意深く監察すると世界は実に様々な存在で満たされていた。
つまりここからみると普通の風景が見えて、それが基本的な静かな魔力で包まれていて、その中に、まだ視認は出来ないけど躍動的な魔力が動き回っている。
これが木々の影や物陰の見えない生き物達だろう。
中には偶に強い塊のような魔力が見えることがある。
なんだろうと思って魔力視を合わせるとその姿がはっきりと見えてくる。
今回見えたのは兎だった。
見た感じかなり大きめの生き物で、頭に一本の角が生えている。おまけに鋭い犬歯も生えている。
「あれは兎だけと肉食だな」
まだちょっと距離があるので監察しているとかなり攻撃的な動物のようで、木に体当たりして栗鼠のような生き物を落とし、それに食らいついて殺している。
他にも自分のテリトリーに入ってくる動物には容赦なく突き掛かっていく。
「あー…そういえばこんな生き物いたなあ…確か…そうだ。アルミラージだ」
アルミラージ。
確か中東の方で語り継がれた獣でインド洋の島に住む兎に似た生き物だ。
縄張り意識が強く、縄張りに入った生き物は大型だろうと小型だろうとその角で突き掛かっていくという大変気性の荒い動物だった。
もちろん伝説上の動物である。
それにそっくりだからとりあえず『アルミラージ』と呼ぶことにする。
他にも動物はいる。
前述の栗鼠のようなヤツ。地を這う昆虫〔ただし大きい〕や木の上の鳥。
少し先にキジににた鳥がいた。
「よし」
俺はライフルを構えて狙いを付ける。
さすがに自信がないから連射モードで。ビームはノーマル。
ッパパパパパパッ!
きーんっ。と言う鳴き声とばさばさっという音。
ビームは狙い過たずキジもどきを打ち抜いた。
「よっし」
これは良い。目標をしっかりと見るこの知覚と周囲の気配が分かるこの感覚は森では多分無敵だ。
それに加えてライフル。
狩りなどをして暮らすのであれば俺は無双できるのではないだろうか…
まあこの世界の文明がどんな感じなのか、分からないからそんな職業があるかも分からないのだけれど、出来ることが有ると言うのは一つ安心材料だ。
ガッツポーズを決めて鳥の死体を取りに行く。
生き物の命を奪ったという感傷は無かった。
だってお肉なのだ。ご飯なのだ。
半年ぶりのまとも〔かどうかは微妙〕な食べ物だ。
よしこれを何とかして食べられるように…
そんな事を考えていたら脳裏に閃くものがあった。
敵だ、敵が来る。
俺は見えない糸に引かれるようにそちらを見た。
銃声とキジもどきの声に引かれたかさきほどのアルミラージがこちらに突進してくる。
殺る気満々だ。
ズザッと藪から飛び出してきて方向転換。いきなりものすごいスピードで突進し、そのツノを掲げて突っ込んでくる。
あっと言う間の出来事で、狙いは心臓まっしぐら。さすがにこの時は死んだかと思った。
だがここでも権能は俺を助けてくれた。
兎か突っ込んで来て直撃! と思った矢先に奇妙な感覚が俺を襲った。
それは磁石に似た感覚だった。
つかみどころのないやんわりと押しのけられるような反発力。磁石の同極どうしを近付けたときの押しのける感覚。あれだ。
かなりのスピードで突進して来たアルミラージ。だが距離が近くなるほどその力は増大し、ついに兎が空中におしとどめられてプルプルするに至った。
すごいなこれ。
作用しているのは重力制御点と同じ種類の力。
歪んだ重力の作用による斥力場だろう。
つまり『
押しのけられるアルミラージを見ながらつぶやいた。
「浪漫だ…」
そう、これは浪漫以外の何物でもない。特に漢字が浪漫だ。
オタクであれば歪曲フィールドはぜひ使ってみたい能力の一つだろう。
ものすごく夢が広がる。
だがアルミラージはまだやる気のようですぐに体勢を立て直している。
再びの突進。というか砲弾のような突撃。
こいつマジで危ないやつだ。
さすがに受け止めたりはしない。歪曲フィールドだってどんなものかはよくわからないのだ。あわてて飛び退く…とびのい…たら?
おおっ。
なんか浮いてるし!
地面に身を投げ出すようなつもりで横に飛んだのだが地面に倒れることはなくそのまま何かに持ち上げられるように体が起きて立ち直る。
さらにそのまま滑るように移動して行く。
これも権能の力のようだ。すごいぞ重力制御。
あはははははははっ。
そして兎は…木に突き刺さっていた。
「すごいわー。マジ凄いアホだわ! こいつ」
二〇cm以上ある角が木の幹に完全に刺さっている。その所為で兎は身動きが取れずにじたばたしているのだが、角がおれるような気配はない。頑丈な角だな。
ヂッヂッ。と大きな声で兎が鳴いているがここはチャンスと考えよう。
俺はすぐにライフルを構えて兎を狙った。
パウッ!
ビームが走り、兎の頭部を貫通した。
勿論兎はデットエンド。
ひとまず息をつくことができたのだが…
「お化けといいこいつといいこの世界の生き物攻撃的過ぎじゃね?」
全部こんなんだったら嫌だなあ…マジで嫌だ。
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