第9話 『しまうぞう君』
※ 鈴木真理雄。主人公。異世界に落っこちる。あだ名はマリオン。
※ 〝あいつ〟〝彼〟長年封じ込められていた半神霊的存在。よくわからない存在。
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第9話 『しまうぞう君』
しばらくチュートリアルに付き合わされたがその甲斐はあった。『しまうぞう君』の性能はあきれるほど高いのものだった。
名前もちょっとあきれたが。
そもそも『○次元ポケット』はまさに人類の夢。
それが実現しているだけでも驚愕なのにその性能は洗練されている。
基本的な使い方はかなりデジタルな物だった。
イヤリングなので両耳に付いているが。それを基点に半球状に目の前にディスプレイが展開する。
顔のまえに透明のバイザー状のモニターがあるような感じだ。
その上で収納したい対象を選ぶ。
選ぶ対象は現実のものだ。
なのに対象を選ぶとその対象がほんのり色づいて他と識別され、その下に魔法陣が描き出され、対象がその魔方陣に沈んでいく。
完全に沈み切ったら魔法陣が消えて収納完了となる。
練習のためにチュートリアルと一緒にそこら辺にある机を初めアイテムを片っ端からしまい込む。
これらは管理画面を呼び出すとパソコンのフォルダーのような感じで管理できる。
視界の中にあるボタンを指先でクリックしたりドラッグしたりドロップしたりスワイプしたりして操作できるのでかなりやりやすい。
例えば机を出すときはフォルダーを開いて机のアイコンを選ぶ。魔法陣が展開しと、机が湧き出すように出てきて、完全に出てくると魔法陣が消える。
これでOKだ。
俺から見ると空中にそれらのアイコンがあるように見えるから当たり前のことをやっているんだけど、はたから見るとどうだろう?
ひょっとして何もないところで指を躍らせる変な人かな?
ここでユーザーフレンドリーなのは操作方法が、指で触れるタイプでも良いし、意思のみでも良いし、音声でも良いと言う事。
パソコンにマウスだけではなく音声制御も加わったような使いやすさと考えればいい。
思念制御はちょっと難しそうなのでもう少しなれてからだ。
さて、他に特筆すべきはショートカット機能だろう。
しまうぞう君(この名前どうにかなならんかな)の収納領域はかなり広い。
机や植木鉢。地球から持ってきた鞄や小物などをしまっても全然余裕だ。
だがこれとは別にショートカット機能が付いている。
ショットカットフォルダーは全部で一〇個ある。
この一〇個のショートカットは一〇種類だけ登録したアイテムを、即座に細かい制御無しに出し入れできる機能なのだ。
例えばだ。
ここに木刀があるとする。
そして木刀を一番のショートカットに設定する。まあ木刀がないので今は緋粋のナイフだ。
そして取り出そうとする。
すると左の掌(これはドコでも良い)に魔法陣が展開し、そこからグリップがにゅっと出てくる。
グリップを掴んでさっと引き抜けば…
あらかっこいい。
これは浪漫仕様だ。
すばらしい。
これは是非ちゃんとしてた木刀でやってみたい。
きっと分かってくれる人はいるはずだ。
他にもお金を設定すればお金を一枚ずつ取り出したり、しまったり出来るのでべんりっちゃあ便利。番号を指定するだけでいいのだ。
お金の種類ごとにショートカットを割り当てないといけないが超便利な財布と考えることもできる。
この世界のお金がどんなかわからないが昔は財布として金貨だの銀貨だのを出し入れしていたのかもしれない。指の間からコインが一枚二枚。うん、ありだな。
取りあえずライフルもこのショートカットに入れておこう。
しかしこのようなアイテムを作り出すとは…オルソスルーマー魔法文明というのはすごい文明だったんだなあと感心する。
◆・◆・◆
「さてこの部屋の中身はあらかたしまい終わったかな」
机も椅子もよくわからないオブジェも全部しまうぞう君の中に収納した。
植木鉢もしまったし、壁に金庫の様なものもあったのでその中身もしまった。
大量の金銀財宝…はなかったがそれなりの金貨や銀貨、赤い硬貨。新しい紙、羽ペンのような筆記用具、よくわからない黒い板。バッジのような小物も入っていた。封を切っていないものもあったので予備だったのかもしれない。
それらをしまうぞう君は軽々と飲み込んだ。
よし、せっかくだ。次の部屋の探索にかかろう。
そうして移動した次の部屋だがほぼ壊滅だった。
たぶん秘書室ではないかなと思う。
一段落ちる感じの机と椅子が無事だったが他はほとんど崩れてしまっていた。中には俺が入ったことで動いた風で崩れるものまであった。
とりあえず無事なものはすべてしまうぞう君に収納して持っていく。
その部屋から出ると丸く弧を描く廊下が延びている。その内側は何かの制御室。まあ何かは考えるまでもないのだけれど、そして外側にはいくつか扉が並んでいて、休憩室の様な所とか、ロッカールームの様な所もあった。
この辺りのテーブル、椅子などは壊滅だ。
ロッカーは金属の所為か割と残っている。
ロッカールームは得る所が多かった。
ロッカーのカギ自体はもう役に立たなくなっていて、しかも中は風化して崩れてしまっていたが一角に綺麗にパッケージされた服が積んであってこちらはほとんどが無事だった。
服の種類は開けてみないとよくわからないがとりあえず一番最初に目についたものを開けると入っていたのはツナギだった。
地球のそれとはちょっと違ってかなりデザインに凝っている。
柔らかい伸縮性の高い生地でふわっとしたラインのつなぎ。ウエストのところがキュッと閉まるようにできていてなかなか着心地がよさそうだ。
着てみたいな…と思って俺は思い出した。
この世界にきてから一度も洗濯どころか着替えすらしていないことを。
「サイズも合いそうだし着ちゃうか?」
うん、そうしよう。そうしよう。
着てみるとやはり着心地がかなり良い。
念のためあとなん枚か開けてみたが、同じ構造のつなぎか出てきたのでおそらく制服か何かなのかもしれない。
上着らしきものもあった。
ポケットのたくさんついたベストで、材質は堅めのしっかりしたものだ。おしり側だけが燕尾服のように長くなっていて座ると敷物になる。
合わせてみたがなかなかかっこいいのでは?
小さいパッケージにはなんとふんどしが入っていた。
たぶんふんどし、きっとふんどし、形は越中というやつだ。
「うーむ、下着も取り換えるべきだな」
ふんどしの生地はパイルのような感じだ。
おかげでさっぱり。
よし、部屋で無事なものは全部貰っておこう。
あとで調べればいいや。
そう思ってどんどん収納に放り込んでいく。夢中で作業していると何かチリチリするものが意識に触れたような気がした。
何かの気配がある。
何か強い魔力を持った物が動いているのが感じられる。
「ヒイィイィィィィィィィィィィィィィィィィィ」
その声が聞こえて来た時に怖気が走った。そして思わず飛びのいた。
思ったよりも軽々と長い距離をふわりととびのいて、ロッカーに背をぶつけて止まる。
そして俺がつい今までいた場所に銀色の光が走るのを見た。
それは鈍色に光る刃物による斬撃で、その斬撃を放ったのは…
「どう見てもお化けだな」
そう、そこにはお化けがいた。
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