第8話 魔道具
※ 鈴木真理雄。主人公。異世界に落っこちる。あだ名はマリオン。
※ 〝あいつ〟〝彼〟長年封じ込められていた半神霊的存在。よくわからない存在。
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第8話 魔道具
「ううっ」
空間転移というのかなかなかムズイ。尻もちついてしまった。
座っていた状態からの転移だったのだが出たところがちょっと空中だったためわずかにフリーフォール。
ついでにすころんだところをすぐ後ろにあった椅子に頭をぶつけてしまった。
イタイ。
「しかし、うむ、なかなかいい椅子だ」
地球の最先端の人間工学に基づくお高い椅子のような形で何かの科学的…はないか、未来的な素材で出来ているようだ。キャスターもついていて座り心地もいい。
「あー、これ欲しい…」
会社のやっすい椅子を思いだすとこれはものすごくいいものだと思える。なんとか持っていく方法はないものか…
「さて、ところでここはどこかな?」
どうやらいきなり外というわけにはいかないらしい。
見回すとどうやら室内で、かなり大きい。そして大きな机が鎮座していて、この椅子とついになっているようだ。
部屋はかなり広く、傍らに一緒に転移してきたものが散乱している。
ペークシスの残骸、俺のリュックとエアガン。お侍さんの衣服もある。
これは考えてなかったがよい気の利かせ方だと思う。
さすがに本当に誰もいなくなったあの部屋にお侍さんの服だけが残されるのはあまりに悲しい。
あとで弔ってあげよう。
さて。
と、部屋を見るとイスと机はこれだけで装飾のようなものも多い。すでに木がなくなってしまった植木鉢。よくわからないデザインのオブジェなどだ。
「さしずめ社長室…いや、ここが発電施設みたいなものだとすれば所長室かな?」
そんな感じの部屋だった。
それにしてもちょっと暗い。
「いや、違うか…白黒なんだ」
俺は視界の異常に気が付いた。いろいろなものがはっきり見える。だがなぜか全部が白黒に見える。
部屋をしばらく見まわすと机の上で小さなパイロットランプがついているのを見つけた。偶にぴらっとだけひかるのだ。緑色の光…そこは色がある。
そばによって触ってみたらぱっとライトが付いた。筒状の棒だったのだがスッと浮かび上がって三つに分割して広がり、光を灯して宙に制止した。
だがすぐに光量が下がってもとの筒に戻って机に降り立つ。
「あー…消えちゃった。電池切れか? うん、【魔力充填】…」
おっかなびっくり魔力を注ぐとまたライトが起動した。魔力充填はこういった魔道具に魔力を補充する魔法だ。
その結果ライトは消えることなくともり続ける。
構造としてはスタンドだ空中に浮かんだそれはシーリングライトほどに明るい。
「よしよし、なかなか順応しているじゃないか俺」
我ながら大したものだ。
ライトがついて分かっだが、さっきまでこの部屋は真っ暗だったらしい。
そう、俺は真っ暗なのにものを見ていたのだ。
これはついさっき教わった魔力視だ。魔力で周囲を知覚する能力。どうやらこれは白黒のようだな。
理由は簡単。色というのは可視光線、つまり光の波長で生まれるものだから光でものを見ないと色はないのだ。
今はライトがあるのでちゃんと物の色が見える。だが今度は逆に立体感がなくなったような気がする。
さっきまでの魔力による知覚に比べると情報量が少ないというか、平面的に見えるというか…
「魔力視の方は物が立体的に把握できたのになあ…」
試しに目をつぶってみたらさっきと同じように脳裏に周囲の景色が浮かび上がってくる。見えてくる。目を開くと一瞬のノイズののちにまた普通の視界に戻る。
ふむ。
魔力視は全天球型の視界のようだな。
しかも平面的にこちら側から見えるものだけではなく、裏側のような影になったものも見える。
3DCGのような感じだ、単純な銀色のオブジェが並んでいるあれ、立体的に見える代わりに少し単純化されているようだ。
もちろん意識を集中すればそこのところは情報量が増す。教わった通りだ。
何度か切り替えを繰り返しているうちに何となくコツが分かってきた。いろいろできそうだ。
「そうだ。全方位をもっと正確にやるとどうなるんだ?」
と思った瞬間世界がぐにゃりと曲がった。
頭がくらくらする。
「これはあれだ」
情報量が多すぎて処理が追い付かない。
「となると普通の視界との併用がベストかな? 色がないというのも落ち着かないし」
試してみると結構集中が必要だ。
ちょっと練習が必要らしい。
とりあえずは魔力視優先いいだろう。もっとなれないといけないしな。
さて、落ち着いたらとりあえずここがどこだか調べないといけない。
と思ったが問題はすぐに解決した。
壁に絵が掛けてあって、そこにこの施設の見取り図のようなものが描かれていた。
「ふーむ、地下だったのか…」
一番下にあの部屋があり、長いパイプのようなもので上とつながっていて、そこに何らかの機械があり、その上にこの施設が乗っている。ここは地下五階にある所長室みたいなところだろう。
これなら上までのルートもちゃんとあるだろうし、とりあえず出てみるか?
だが出口の方に近づいても取っ手とかがない。
「自動ドアか…しかも動力が来ていない」
その所為でうんともすんとも言わない。ドアが精巧すぎて指をかける場所もないので力ずくも難しい。
「一難去ってまた一難かな?」
まあそれほど深刻でもない。これなら魔法で破壊できると思う。
そう思って魔力視を集中的に向けてみる。
すると色々な情報が頭に飛び込んできた。
まずドアの構造。やはり自動ドアだ。センサーにエネルギーライン。どうやら動きはドア本体とレール部に刻印された魔方式で発生されるもののようだ。
リニアか? リニアなのか?
ただエネルギーラインは完全に枯れ落ちて断絶している。
他には扉や壁の素材の組成のようなものが見える。見ようと思えば分子構造とかからだ。すごい。すごいのだが…
「まあ見えたからといって何がわかるわけでもないんだよね」
顕微鏡で元素が見えたからといって一般人にはそれが何だがわからないのと同じだ。
解析できてもそれを理解する知識がない。
「でもこういうのもデーターを蓄積していけばきっと役に立つよな」
チートの種だと思おう。
ちなみにそのエネルギーラインも下から導かれたエネルギーによって賄われている。
「多分ここは下とのパイプを保守管理する施設でもあるんだろうな…」
それが放置されて幾星霜。すでにメインのラインも死んでいる。この下の部屋の機械類も全滅だろう。
「まあやりようは分かった。この術式に魔力をぶち込めばたぶん動くだろう」
だがその前に。
俺は机とか椅子を片っ端から解析してみる。解析はなかなかに面白い。
机には引き出しがあるのも見えた。
これも鍵付きのようだが電子ロックのような魔法ロックだった。魔法の力であかないように固定する構造で、すでに魔力が完全になくなっているために効果は切れている。
動力がないとロック状態を維持できないようで簡単に開いた。
引出しをあけるとそこには信じられないお宝が…などということはなく、書類とファイルのようなものが入っていた。どちらも字がびっしり書かれていて使いようがない。試しに手に取ってみるとまるでチリのように崩れてしまう。
ペンのようなものるあるがこれも同様。ほとんど崩れてしまった。
だが崩れていないものもあった。
「これは指輪に腕輪にイヤリングか…それにナイフ?…」
ナイフはむき出しになっていて、手に取ってみると下層の壁に使われていた白粋に似た細かい縞模様が全身に刻まれていた。
唯一違うのはうっすら赤ということだろう。
「ここはちょっとしゃれて『
緋粋のナイフ。ムフフ。我ながらいい感じだ。
しかし奇妙なナイフだった。
刀身もグリップも同じ構造でというか完全に一体で、縞模様は全体に及んでいる。そして何よりこのナイフには『刃』がついていない。触ってみてもかなり丸みがあって滑らかだ。
だから刃渡りというのも変なのだが刀身にあたる部分は二十五センチほどの長さがありちょっと細身だ。グリップはでこぼこというか起伏があってしっかりと手になじむ。デザイン的には間違いなくナイフだ。
鞘もいっょにおいてあって鞘に収めると緋色の棒のように見える。
「うーむ、何に使うんだこれ…鞘がある以上ナイフなんだろうけど…レターオープナーかな」
鞘に入れておけば棒なので鈍器と言えなくもないが…
俺は何の気なしにそのナイフ振ってみた。軽く、本当に軽く。
すこっ
かなり軽い手ごたえ。
いや、ほとんど手応えもなかった…
そしてたまたま軌道上にあった、こちらこそ簡単に人を殴り殺せそうな鈍器な置物がパカッと切れた。
「なんにゃーっ!」
何で切れるんだ? 刃なんてなかったぞ。
硬い…超硬いじゃんこの置物…
それがまるで手ごたえも感じさせずにスコッて…
二つに分かれた置物をガッチンガッチンぶつけてみるとかなりの強度。本当に鈍器に仕えそうだ。なのに…
「よ、よし…もう一度確認だ」
今度は入口のドア、これこそかなり頑丈だろう。それに優しく刺してみる。
かすっ。
「うわーお」
切ってみる。
す~~~~っ。
「何の抵抗もねえ!」
豆腐ほどの手ごたえもない。まるで空気を切るみたいに分厚い金属(多分)製の扉が切り取られた。でっかい丸い穴があいたのだ。
おお、いつの間にやら脱出ルートの確保か…
すごいなー俺…
現実逃避と言わば言え。
「やっぱあれだな、大昔の魔法文明のアーティファクトとかいう感じなのかな…うん、すごいものだ。貰っていこう。とするとほかにも何かありそう」
まあここにいたえらい人が使っていた物だろうからそんなに悪いものはないだろう。
まず一個目、腕輪をつけてみる。
手首につけるような大きさだが…うんともすんとも言わない。
「そうそう、これも多分エネルギー切れだな、魔力をチャージしてみよう」
すると案の定腕輪は起動した。
腕輪がぴったり腕に張り付き、その周りに帯状の魔法陣が浮かぶ。
【ターゲット指定】
【スタンモード】or【
「スタンガンかこれは!」
たぶん賊に襲われたときの護身用なのだろう。
「よし次だ、【魔力充填】!」
すると指輪がほんのりと光り出す。
「おおっ、力が湧いてくる。これはあれか? 体力の回復…とか…あれ?」
ちょっと変。主に下半身の特定部位がすごく元気になっていく。ギンギンだ。
「精力回復リングだー!」
ピンポイントすぎる回復リングだった。
ちくせう。俺は座禅を組んで魔力を循環させて気を鎮める。うん、うまく元気が全身に分配されたよう…な気がする。
しかし危なかった。
長らく禁欲生活で、そんなことを考える余裕もなかったがはっきり言ってかなり溜まっている。もしここに女の子がいた理性が飛んだかもしれない。危ない、危ない。
「こうなると三つめのアイテムを試すのも勇気がいるが…まあ試してみるけど…これはイヤリング…」
一箇所が切れたリングと短い鎖の先に真球の小さな玉が付いている。
「バネでもない…ネジでもない…ピアスでもない…どうやってつけるんだ…」
ひょっとしてイヤリングと考えたのは間違いだったか?
それでも耳に近付け耳たぶを挟み込んでみようと思ったら…
すちゃっ。
「おお、勝手に装備された」
リングが耳たぶを挟むような感じだ。
それと同時に俺の魔力回路とつながったような感じがした。
そう、物理的ではなく、確かに接続されたのだ。
『ようこそ。マスターの来訪を歓迎いたします。マスターの魔力波形登録を確認しました。
当器は×××社製、サポートシステム付き空間収納リング。【しまうぞう君】です』
ぶっ! 何そのネーミング。
『当器の特徴はユーザーフレンドリーなインターフェイスと、ユーザーのニーズに合わせて多彩な機能を提供できるフレキシビリティーであり…マスターの財産の保守管理を容易に、そして自在に…』
しばらく使い方のマニュアルを強制的に聞かされてしまった。
チュートリアルありだ。
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