第10話 魔物

※ 鈴木真理雄。主人公。異世界に落っこちる。あだ名はマリオン。

※ 〝あいつ〟〝彼〟長年封じ込められていた半神霊的存在。よくわからない存在。


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 第10話 魔物



 そのお化けはかなりインパクトがあった。


「これが魔物なのかな?」


 この世界にはそれなりに高い戦闘力を持つちょっと危険な生き物(あくまでも『彼』視点)がいるという話は聞いた。魔物というらしい。


 話の感触としては人間の他に動物がいて、その動物の一部が魔力の使い方を覚えて魔物になった。というようなものだと解釈していたのだ。

 たとえば豹が風を操ったり(風精獣)。

 氷を操る狼(フェンリル)がいたり。

 蜥蜴が火を吐いたり(ドラゴン?)みたいな感じで考えていたんだが、これは俺のイメージを完全にぶっちぎっていた。


 まず実体のない霧のように見える。


 薄暗がりに浮かぶ白い霧のサレコウベ。大きさは1メートル越えだ。

 まるで服か何かのように黒いもやもやしたオーラのようなものを纏い、空中を漂っている。

 そのサレコウベには胴体が無くただ両脇に手が浮いている。


 いや、手なんだろうか?


 三本の刃物といった方がいいかもしれない。大きな二本と向かい合わせの親指のような位置の一本。鋭い剃刀のような赤黒い爪が手でもあるかのように宙にういている。


 ただ掴みかかって攻撃する分には良いものかも…

 先ほどの斬撃はこの爪による攻撃だった。


 ヒィィィィィィぃイィィィぃいいぃぃ。


「なんか恨み骨髄という感じの声だな」


 悪意がビシバシ伝わってくる。この世のすべてを恨んでます~みたいな感触だ。


 これはたぶんアンデットというやつだろう。初めて見るが…

 まあ確かに恐ろしげではあるが地球の怪談のようにわけのわからない怖さというのはないからそれなり。

 当然魔力を向けて解析をかけてみようとおもう。


 その結果どうやらこれは何らかのエネルギーの集合体であるらしい。


 眉間にあたる場所の奥に力の塊のようなものがあって、そこを中心に魔力が渦を巻いている。それがこの化け物の正体だ。


 他にわかるのは力の質だろう。

 属性というやつだ。

 こいつは【天より振り注ぐもの】とよく似た性質の力で出来ている。

 だから闇属性、冥属性ということなのだろう。


 反対に【地より沸き立つもの】と同じ聖属性、命属性は感じられない。


 これはひょっとして天より降り注ぐ存在ものには耐性があって地より沸き立つ存在ものは弱点というあの構造だろうか…

 一応やってみるか…


『【天より降り注ぐもの】』


 俺の言葉と同時にお化けの真上に黒い魔法陣が展開する。


 おれが魔法を口にすると自分の中の仮想空間に魔術式が展開し、それは目の前の現実と連動して魔法を発動させるのだ。

 魔力回路というのはすごく便利なんだけど言ってみればここまで自由に術式を構築できるようになるためにはものすごく練習しないといけない。

 イメージとして術式を瞬時に組み立てられるほどに。


 さて、そのかいあって魔法はすぐに起動する。

 最初は黒い円盤でそれが展開するように広がって複雑な図形を構築する。図形が完成した段階で黒い光が降りそそぐ。


 イヒヒヒヒヒヒヒっ


 いやらしい笑い声が聞こえた。どうもまったく効果がない、それどころか『天より降り注ぐもの』の魔力が取り込まれてしまったような…

 耐性じゃなくて吸収だったのか。

 その時に一つ、この化け物の中で術式が起動したのが見えたからそれが吸収に何か関係があるのだろう。


 では次だ。


『【地より沸き立つもの】!」


 今度は真下に白い魔法陣が展開し、シュパッと魔法がはじけた。

 だが今度はよけられた。

 魔法の発動にはどうしても一瞬タイムラグがあって、その間に逃げられてしまった。

 どんな力かとかわかるのかな?


 しかも逃げ方が瞬間移動だ。


 俺はすぐに前に飛び込むように位置を変えた。

 そう、俺の真後ろで魔力の揺らぎが感じられたから飛んだのだ。


 さらにお化けの連続攻撃がやってきた。

 俺のすぐそばに転移して大きな爪で切りつけてきたのだ。

 ロッカーなどが切り裂かれていく。


 ただ攻撃は呪い、いや鈍い。

 割と簡単に避けられる。

 俺は攻撃を避けながら部屋の外に飛び出した。

 ロッカールームは狭いし、せっかくの衣類だ。まだ収納していない物もあるのから勿体ない。


 さて、この状況でできることは何か?


 とりあえずさっきの魔法攻撃でこいつが聖属性に弱いのであろうことが分かったが、攻撃をかわされては意味がないな。


 廊下を走りながら考える。


「魔力をたたきつけてみるのはどうだ?」


 例えば“あいつ”が魔力視で見せてくれた魔力の波。

 自分のものはそれほどではなかったが、“あいつ”がやって見せてくれたのは何かをたたきつけられたような感触があった。


 あれは純粋な魔力だから効くかもしれない。

 だが普通にやったのでは無理だろう。もっとこう、圧縮してたたきつけるような…


 キュッと足音をさせて俺は振り返る。

 そこには当然お化けが…いない。

 俺はすぐに180度反転。そして思いきりこぶしを繰り出した。


 イメージはこぶしに高濃度の魔力をまとってそれをたたきつけると同時に開放する。

 そんなのだ。


 轟と風が、いや、魔力がうなった。

 その瞬間そこに転移してきたお化けに魔力の渦がたたきつけられる。


 渦を巻き広がる魔力。

 煙が吹き散らされるように形を失っていく魔物。


 バチバチと何かがショートするような音が聞こえてきた。


「うん、効いてる。効いてはいる…」


 それは俺の打ち出した魔力が確かにお化けを打ち払い、そしてお化けを構成する魔力と対消滅を起こす音だった。


「でも決定打にはならないなあ…」


 一度吹き散らされた白い霧はまた集まって白いされこうべを形作る。


 やはり対属性の攻撃を当てないとだめか…

 となると、方法を考えないといけない。

 

 すぐに思いついた。

 初実戦である。


 俺は左手のひらに展開した2番魔法陣からAUGを取り出した。そして地より沸き立つものを起動する。マガジンの中に。


「これでこのビームは聖属性になったはず」


 そして構えてすぐに連射。


 スパパパパパパパパパパッ!


 ひいいぃいぃぃぃっ!


 数発が命中するもすぐに転移。今度はお化け自身の後ろ。離れる方向だ。だがライフルは本来遠距離攻撃武器。

 たかだか10数mの距離などないに等しい。


 ツパパパパパパパパパパパパパパッ!


 おっ、今度はまともに入った。

 火花が散りかなり苦しんでいるように見える。ビームが通ったところに穴が開き、次の瞬間元に戻るが連射されるビームで安定することができないようだ。

 これなら当たるんじゃないだろうか。


「【地より沸き立つもの】!」


 のたうち回るお化けの下で白い魔法陣が展開し、白い光りが滔々と沸き立つ。

 その光の中で崩れるように消えていくお化けの姿を確かに見た。

 そしてなにかがカランカランと地面に落ちた。


 残ったのは四本の長い爪、二本の短い爪。そしてお化けの中心にあった力の塊。


 爪は長い方が60Cmぐらい。表にも裏にも鋭い刃がついている。

 短い方は30cmもないだろう。これは大きく弧を描いていて内側にだけ刃がある。鎌だな。


 力の塊は野球ボールぐらいの石で、透明感のある硬いものだった。


「ドロップアイテムと魔石という感じかな?」


 ゲームならそんな感じだろう。だったらひょっとして売れるかもしれない。

 魔力視を集中して解析してみる。属性は変わっていないみたいだがお化けにあった嫌な感じはしない。もらって行こう。


 解析といえばこの魔力視面白いな。

 お化けが転移するときにやつの中で空間属性の魔力が術式を描き出していた。

 立体魔法陣だ。あれが『瞬間移動』なんだろう。


 あれを瞬時に展開できれば俺も転移とかできる?


 どんな術式だったろう…そう考えたらあの魔法陣が思い浮かんできた。


 試しに魔力回路で構築を試みたが失敗。

 何か足りない。


「とりあえず保留か」


 他にも爪を魔力で包んで攻撃力を上げるようなことをやっていたな。

 切れ味が跳ね上がって、たぶん呪いみたいな効果がある。

 いやー、とんでもないお化けだった。


 天より降り注ぐものが使えなきゃ詰んでたよ。


 だが魔力視は役に立つ。

 ああいう化け物を解析すれば効率の良い戦い方ができるようになるんじゃないかな。

 なんかこの世界はああいうの結構いそうだし。


 あと、魔法の属性攻撃手段もそろえた方がいいか…


 ちなみにこの世界の属性は全部で12種あると教わった。


 【火】【風】【水】【地】【命】【冥】【光】【闇】【聖】【邪】【空】【識】の12個だ。


 どれもが単独ではなく複合的に機能して世界を形作っているといっていた。


 現在俺が把握しているのは【命】【冥】【闇】【聖】【邪】【空】の六種だな。

“あいつ”に習った五つの魔法に使われている属性だ。


 全てが混ざった万能属性というのもあるけどあれはちょっと違うし。


 直接見たことのない属性は理解できていないんだよ。例えば火なら、本当の火でいいそうなんだけど…


 まあ今はどうしようもない。


 俺は気分を切り替えて無事な衣類を回収してこの施設を脱出することにした。


 この施設自体は興味深い。他にも色々役に立ちそうな物があるだろう。

 だがあのお化けみたいなヤツがいるといろいろやりづらい。

 それに考えてみたら今は水も食料も持ってないんだよね。


 いったん脱出して態勢を整えてからまたこよう。


 できるだけ早く安全な人のいる場所にたどり着かないとまずい。


 そう思って歩き出すも脱出自体は大した手間ではなかった。


 見取り図があるから階段の位置は分かるし、しかも迷路じゃないから階段は下から上までちゃんと続いている。


 隔壁が下りているがそんなものあのナイフで切ってしまえばいいのだ。

 ちなみに切った隔壁は頂いていきます。


 途中、さっきと同じサレコウベが二度ほど出てきたが今度はビームライフルで撃って動きを止めているうちに地より沸き立つものを打ち込んで簡単に倒した。


 何事もコンビネーションだね。

 いやー、怖いヤツとはいえ、弱いヤツでよかった。


 にしてもこの地より沸き立つものはちょっと使い方が難しい。

 ピンポイントではなく広い範囲を攻撃する範囲攻撃魔法なんだけど自分をまきこむと発動しないようだ。


「まあ、map兵器というのは使いどころが難しいのもだからな。敵味方識別機能があれば別だけどさ」


 階段を上り、最後の難関は巨大な岩だった。

 一階の建屋部分はすでに崩れていて、階段のところに大きな瓦礫というか岩がのしかかっていた。

 かなりの重さで普通にはびくともしない。

 重力制御の権能が無かったら俺も出られない所だった。

 岩に手を触れ、グッと押すと岩自らがズズずっと動いていく。やっと外に出られる。


 魔法関係は色々便利だ。というか魔法が無かったら詰んでいたんじゃないか?


 抜け出したそこは深い森の中だった。

 右も左も木しか見えない。

 まあいいべ。


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 魔法属性考察


【火】火、プラズマ、

【風】風、大気、気体

【水】水、液体、(霧は液体、水蒸気は気体)

【地】土、大地、個体、

【命】生命力、回復、恒常性

【冥】死、腐敗、発酵、劣化

【光】電磁波、幻影、

【闇】虚無、減衰、

【聖】調和、

【邪】壊乱

【空】空間、演算、

【識】記憶、記録、


 とこんな感じでわかれています。ただ現在は失われた属性もあり、空や識などはそういう属性があるということすら知られていません。

 ほかにも聖や邪をはじめとして正しくはどういうものなのかという理解が抜けてしまっているものがほとんどです。

 

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