第5話 記憶
※ 鈴木真理雄。主人公。異世界に落っこちる。あだ名はマリオン。
※ 〝あいつ〟〝彼〟長年封じ込められていた半神霊的存在。よくわからない存在。
第5話 記憶
「ヤッホー。先輩、どこ行くんですか?」
歩いていた俺は声をかけられて車道を振り向く。そして少し笑った。
「行くんじゃねえよ、帰り、ゲーム買ってきたとこ。ローディン・ファンタジアの新作」
「ああ、あれですか、相変わらず好きなんですねえ」
そんな話をしながら俺は止まった車の助手席のドアを開けスルリ入り込む。
慣れたものだ。
ついでに手を伸ばして運転席のあいつの胸をもむ。
久我晶、高校の後輩で、俺のオタク仲間。そして親友。
延ばされた手をよけたりはせずに晶は自分から胸を張ってそのふくらみを押し付けてくる。
割といつもの挨拶だ。いつもの挨拶なんだが…
「晶、おまえブラどうしたの?」
「いえ、実はまた大きくなったみたいでちょっと合わなくなっちゃって。こういう時は外しているんです。あんっ」
モミモミしているからな。
「うん確かに大きくなったかな、今Eカップ?」
「はい、今度そうなりますね」
こいつの胸は柔らかさも素晴らしいのだが、同時に張りがある。
きめ細やかで色白で、ピンク色の先端もはっきりしている。実に素晴らしいオッパイなのだ。
なんで知っているかというとそういう関係だからだ。
だからあえて付け加えよう、味も素晴らしいと。
だが恋人とかではない。
親友だ。SEXもする親友だ。だからセックスフレンドともいう。
恋人になる機会もあったのだと思う。だが変な風に関係がねじれてしまった。
晶は高校の後輩で、俺が三年の時に1年に入ってきた女の子だった。
俺が所属していたオタク系のサークルに入ってきた子だ。俺はイラストだの創作だのにはまっていて、それ系のサークルだった。
なぜ彼女がそこに入ってきたかというと彼女もオタクだったからだが、同時にオタク系のサークルはそこだけだったからでもある。その証拠に彼女はすぐにやめてしまった。方向性が全く違ったからだ。
彼女はゲームなども好きだったがいわゆるガンオタだったのだ。
ミリオタではなくガンオタ。ひたすら銃が好きなやつ。
いつか本物を手に入れてトリガーハッピーになることが彼女の夢だった。意味が分からん。そして危ない。
サークルを抜けた晶だったが俺はこの妙に変な後輩が放っておけずにかまっているうちに気が合うことが判明し、自然と趣味に付き合うようになった。俺も男の子なので銃器は好きなのだ。
高校を出て大学に進んでからもよく会っていたと思う。
当時は女の尻を追いかけてハメることしか考えていない友人たちをあほな事をしている。趣味に邁進した方が楽しいのに…なんて思っていたが、今思えば他の女は必要なかっただけかもしれない。
彼女が高校三年の時俺の両親が事故でなくなった。
俺は天涯孤独の身になった。
かなり凹んでいたと思う。
そんな時にそばにいてくれたのが晶だった。
俺は当たり前のように彼女に縋り付き、彼女はそれを受け入れてくれた。
男として責任をとるべき。との思いはあったのだがこれもまた相性がよかったせいか、良すぎたせいか、体を合わせて一緒にいるのが自然すぎて、一時期猿みたいにやりまくったこともあって気が付けばお互いに心地よい距離で付き合ってほしい時に求め合う関係に落ち着いてしまった。
それが続いて今は月に数回、お互いがほしい時に呼び出し合って関係する変な関係になってしまった。
ちょうどよいセフレだよ~というのは彼女の言だ。
だがそろそろ考えるべきかもしれない。
「ねえねえ先輩見てください後ろ」
そんな思考は晶の実に楽しそうな声で断ち切られた。
「おおう」
言われた覗いた後部座席には大きな箱が鎮座ましましていた。何かは聞かなくてもわかる。エアガンかモデルガンだ。
「すごいな、随分立派な箱だ」
「ええ、5万円もしたんですよ。アサルトライフルのエアガンなんです。プルバップ式というタイブのライフルなんですけど、狙撃仕様とかで現実にはないデザインなんですよ、カッコイイですからね、映画なんかだと性能が過大評価されて、ありえない仕様が出たりするんですよ面白いですよねえ~。
実際もってみると可愛いんですよ~。あの
そう言いつつエアガンの入った箱を俺に押しつける晶、運転中なのにまったくしょうがない。
「いや全然な分からんよ、まあ俺も男だからカッコイイとは思うんだが、あれをかわいいとか艶めかしいとかは思わんな」
「えーっ」
「えーとか言われてもな…可愛いというならお前の尻の方がずっと可愛いし艶めかしいぞ、胸の触り心地だって最高だ」
「ヒャーッ、先輩のH」
うん、まあ俺はえっちですが何か?
「そんなこと言われるとジンジンしてきちゃいますよ、いまそういう時期なんです。今日たまたま会わなかったら明日あたり呼び出そうかと思ってました」
「あー…そうだな、それはいい考えだ。どうだ、遊びに行く前に俺の部屋寄っていくか?」
「えへへっ、そうですね、なんか気分がのっちゃいました。じゃあどこかの薬局で…」
俺はちょっと考えた。
ここが運命の分かれ目じゃないだろうか。
「・・・薬局はいいや」
「えっと、持ってるんですか? 珍しいですね」
避妊具を用意するのは大概晶で、俺は用意したためしがない。何気にひどいな。だが呼びたすのは晶の方が圧倒的に多いから、呼ばれたら用意してあるのが普通だったのだ。
「いや、もってないよ、そのままやろ?」
「えっと、ダメですよ、今日はヤバい日なんですよ」
「うん、だからそのままやろ」
「え?」
「あー、ほら、俺も二十八だしさ、晶ももうすぐ二十六だろ? そろそろいいと思わないか? ほら、子供とか」
「えっと、えっと…でも私、私一人で子供なんて育てられないですよ」
「いやいや、なんでこの流れでそう言う話になるの、父親がいるでしょ。ここに。ちなみに俺は子供好きだから最低三人は産んでね」
まあこういう軽い流れでないとうまくいかないカップルというのもあるということだな。本当にいい時期だ。
「ぜんばい…」
「はいはい、一回車とめようか」
恐ろしいことに運転中でした。
目に涙がたまって変顔になってる。可愛いなこいつ。そして危ないな。
そう思った時にずるりと滑った。
どういうわけか車の中に穴があいていた。
いや穴なのかなんなのか。黒い渦が口をあけていて、俺はそれにずるりと滑りこんでいた。
「え?」
車が停止するのが分かった。だが俺は停止しない。その間ずるずると前にすべっていく。とっさに晶に手を伸ばした。
晶も手を伸ばした。
その瞬間、まずいと気が付いた。
この手を掴んだらこいつまで飲み込まれてしまう。
だからとっさにあいつの手を払った。
逃げろと叫んだのが聞こえただろうか。
最後に見るのがあいつのあんな苦しそうな顔というのは最悪だ。
だがあいつは助かっただろう。
俺は晶を助けられただろう。
それはいっそ誇らしい。
まあバカな話なんだが、やっぱり最後に思いっきりやりたかったな……
と思ったところで目が覚めた。
「そうか、そうか、思いだした。俺はああしてここに落ちてきたのか…」
『目が覚めたかね』
「ああ、いろいろ思い出したよ、なんか思い残しがなくなった」
『そうか』
あいつに会えなくなったのはなんともかんとも。だが巻き込んでしまうよりはずっといい。
あいつが無事なのが何よりいい。
気分的には『俺のことは忘れて幸せになれよ』というところか。
ちょっと晴れがましく、そしてやっていけそうな気がしていた。
「それにしてもこれがお前の本当の姿か? すごくカッコイイな」
『ありがとう。さて、最後の授業を始めよう』
俺の前で大きな〝龍〟がニヒルにニヤリと笑った。
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