第9話 遠足④

夏帆なほ……起きてて大丈夫なのかよ!」


 突然声をかけられて夏帆わたしはビックリした。

 声の方に顔を向けると、そこにいたのは夏騎なつだった。


「えっ! あ、うん……大丈夫だよ」


「そうか……無理はすんなよ」


「うん……ありがとう」


 そう言われ、少し顔が火照ったのが自分でも分かった途端に何だか恥ずかしくなった。


「それより、誰と話してたんだ?」


「あ、えっと〜って、あれ? いない」


「なんだ、やっぱまだ無理してんじゃないのか?」


「そ、そんな事ないよ! それにほら……」


 夏帆わたしは柱を掴みながら立ち上がって見せようとした、だけど……まだ完全に回復したわけでもなかったから倒れそうになった。


「おっと……あぶねー」


 夏騎なつが倒れそうになる夏帆わたしを咄嗟に支えてくれた。

 そして、目と目が合う……。

 夏帆わたしは、咄嗟に顔を手で覆った。


「あ、ありがとう」


「お、おう」


 指と指の隙間から、照れている夏騎なつを見て可愛いと思ってしまった。


夏騎なつも照れたりするんだ……普段はあんまり照れたりしないのに』


 そう思った途端、夏騎なつが愛らしく、愛おしく思えてしまって余計に顔が火照ってしまった。


「あ、そうだ! 風呂まだだろ、朝野先生に頼んで入れる様にしてもらったから入ろうぜ」


「う、うん」


「あ、あれだぞ! 男女別の風呂だからな! だから変な意味で言った理由じゃないからな!」


「……うん」


夏帆わたしがこんな状態だから、もしかしたらって……変な期待しちゃった、夏帆わたしってば……』


「そろそろ良いか〜」


 夏帆わたし夏騎なつが声のする方に目をやるとそこには、少しと言うより呆れかけた秋斗あきとの姿があった。


「「あ、あきと!」」


「2人ともご馳走さん!」


 夏帆わたし夏騎なつは、2人して顔を真っ赤にした。

 夏帆わたしの場合は更にだけど。


「ま、イチャイチャはその辺に秋斗おれもそろそろ風呂で汗を流したい」


「イチャイチャなんてしてねー!」


「照れるなって、な・つ・き」


 完全に秋斗あきとに遊ばれている夏騎なつを傍で見ていた。


夏帆わたし、着替えとか取りに行くから……夏騎なつ……その、ありがと」


「お、おう……てか、もう平気か?」


「うん、大丈夫だから……また後でね」


 夏帆わたしはそう言って、その場を後にした。

 女子が寝る部屋は既に消灯していて、|部屋の中にある鞄を探した。

 秋斗あきと夏帆わたしの鞄を「クラスの女子に預けたから」と言っていたので、恐らくあるだろうと思って来たのだけど……。


『ない……夏帆わたしの鞄、そうだよね……ある訳ないよね』


 夏帆わたしは、そのまま何も持たずにお風呂場に向かった。

 お風呂場は、露天風呂となっていて寺を出て直ぐの脇道を行った先にある。

 勿論、男女別で脱衣場も用意されている。


『さすがに、まだ身体キツいかも……さっきは大丈夫って夏騎なつに言ったけど』


 恐らく魔力の暴走とこの山奥の気温の低さに、身体が悲鳴をあげているんだと思う。


『なんか……熱っぽい?』


 夏帆わたし自身、今身体の状態が正常なのかどうかも全く分かっていないのが現状で。

 なんとか、夏帆わたしは露天風呂のある脱衣場まで辿り着いた。

 シャンプーやリンス、コンディショナーやボティーソープと言った物は一式揃っていた、勿論タオルとかも。


『とりあえず、脱衣場まで来れたけど……やっぱり熱が上がってる』


『立ってるのもキツいし……さっきは立つのに振らつく程度だったのにどうして』


 そう思っていると、彼女……ユナが現れた。


夏帆なほ様……突然の無礼をお許しください、恐らく夏帆なほ様は魔力暴走による高熱となっております」


「それ、どう言うこと……」


「はい、魔力の暴走後に誰しもが怒る言わば、病と言えば分かりやすいと思われます」


「つまり、病気ってこと?」


「左様でございます」


 前に何処かで聞いたことがあった夏帆わたし……だけど対処の仕方までは知らなかった。


「ごめん……ちょっと、さすがに――」


 呼吸が乱れ、徐々に視界が狭く暗くなって行く……まるで暗闇の中に入っていくそんな感覚で、そして暗闇の中に入った時には呼吸すら出来ない程。

 その後の事は記憶にない。

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