第8話 遠足③

 夏騎おれは、夏帆なほを抱き抱えて秋斗あきとの元に戻った。

 戻ると、心配そうな顔をした秋斗あきとや先生達……複雑そうな顔をしたクラスの奴らがいた。

 他のクラスの奴らは、各部屋に戻されているみたいだった。


「大丈夫か!?」


「あぁ、夏帆なほは眠ってる」


「何があったの?」


 朝野先生は、心配そうに夏騎おれに聞いてきたけど……何があったのか、その場で答える気はなかった。


「朝野先生、秋斗あきと……後で話すから今は」


「分かった(わ)」


 他にも住職が居たらしく、住職に頼み別の部屋を用意してもらった。

 夏騎おれ夏帆なほを抱き抱えて、別の部屋に入っていった。

 特別に布団を敷いてもらい、夏帆なほを寝かせた。


 ☆☆☆


「えっと、先ず夏騎おれ夏帆なほがあの住職に連れられて通された場所は別の場所だった、つまり今いる寺ではなくて、全く別の寺に」


「なるほどな、つまり夏騎なつき達が入ったら起動する魔術が用意されていて、それ以降それ以外の人間が入っても魔術が起動しない仕組みだったわけか」


「そして、あの電話か」


「あぁ」


「ちょ、ちょっとー先生を抜きに話を進めないでよ〜」


「「先生は、聞いてるだけで良いから」」


「2人して、酷いよ〜」


 正直な所、その後で起こった事は話す気はなかった。


『あの声の主は一体……』


「なんだ、まだ他にもあるのか?」


「いや、ただの考え事だ」


 秋斗あきとは兎も角、この朝野先生は余り信用出来る相手ではまだないと夏騎おれは思っていた。

 少なからず、何を考えているか分からないからだ。

 朝野 静乃あさの しずの……親父に頼んで調べてもらった方が良さそうだ。


「話はこれで終わりだ、朝野先生……夏騎おれ夏帆なほはみんなが終わった頃に風呂をもらうから住職に言っといてくれ、あと秋斗あきとは風呂に付き合え」


「先生をぱしりにしないの! ま〜でも今回は許すわ」


「分かった、行く時に声を掛けてくれ」


 夏騎おれは部屋を出た――。


 ☆☆☆


 夏帆わたしはどのくらい寝たのだろう……。

 身体を起こして、縁側に出るために襖を開ける。

 やはり、まだ身体が上手くゆう事を利かなかった。

 呼吸が乱れるなか、やっとの思いで縁側に辿り着き、脚を外に出て柱に寄りかかった。


「月が綺麗……」


 自分の中の魔力と霊力が安定している事を確認する。

 あれだけ荒れていた魔力と霊力は、以前よりも安定していた。


「おはようございます、夏帆なほ様」


「だれ?」


 姿を表したのは、巫女装束の少女だった。

 とても綺麗な赤い髪をしていて長さはショート、瞳の色は綺麗な緑色をしていた。


「申し遅れました、私はユナと言います」


「ユナちゃんは、どうして夏帆わたしの所に来たの?」


「それは、春真はるま様に夏帆なほ様の元に行くようにと言われましたので」


春真はるまって確か夏騎なつのお父さんだよね』


「ん〜」


「以前より私は、本家の方にお使いしていたと記憶しておりますので、恐らく春真はるま様はと予知しておられたのだと思います」


 ユナちゃんの言うことが本当なら夏帆わたしにとっても心強い。


『でも、あれ? どこかであった事があるような……まぁ良いか』


「ところで、ユナちゃんってどんな事が出来るの? やっぱ巫女装束だから呪術が使えるの?」


「いえ、ユナわたしは魔法使いですので魔法だけです」


「えっ! じゃあ何でも出来るの?」


「いえ、今は制限がありますのでそんなには……」


春真おじさんってば、ユナいいこ夏帆わたしにくれたな〜』なんて思いながら、ユナを見つめていた。

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