第6話 海のけもの、海のご機嫌

此処はモノレールの中。竹林公園での別れ際、ジャイアントパンダから『ヒト』というワードを聞いて悩むキュルルとサーバルであったが、残念ながら現状その悩みを解決出来そうにはなかった。

話題は竹林公園の次の絵に変わり、この場所はきっと水辺の近くだろうと話しが進む間にトンネルを抜けた先の窓の外、思わず「うわぁ···!!」と驚嘆してしまう綺麗な光景が三人の目に飛び込んで来た。



「綺麗だね~!」


「···『海』だ···!?」


「うみ···っていうの?この大きな水溜まり?」


「カラカルは初めて海を見るの? あの沢山のお水、確か全部しょっぱいんだよ」「そうなの?」


『次は海浜公園前、海浜公園前です』



次の絵が水辺の近くと判断していた三人はもしかしたら近くに該当箇所が有るかも知れないと結論付け、モノレールを降りた三人は早速車内アナウンスにあった『海浜公園』という場所に足を踏み入れてみる事にした。



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「うみか~···。わたし、何でか解らないけどこの風景見たことあるような気がするの」


「そうなのサーバル? その···もしかして僕と同じように『無くした記憶』があった時に?」


「うん、多分そうかも···とても大切な事だった気がする。 えへへ、わたしもキュルルちゃんも、早く忘れちゃった事を思い出せたら良いね!」


「うん!早く思い出せたら良いね!」


「······盛り上がってるわね二人とも。ごめん、私ちょっと『うみ』はダメみたい」


「え~?綺麗じゃない!」


「あなたやキュルルは一度来た事あるかも知れないけど、私初めてだし!?確かに綺麗なのは認めるけど!? 私、実は水に入ったりするのは元々得意じゃないし好きじゃないのよ···なのに此処はまるで水が生きてるみたいに行ったり来たり···うぅぅ」


「だ、大丈夫カラカル?無理しなくて良いよ?」



······どうやら海の感想は三者三様のようである。フレンズによって得意な事は違うのだ。



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『うみ』に怯えるカラカルを心配しつつ絵に書かれた場所を探す三人。此処かな?と思われる場所に近づいた時、建物の横の桟橋にフレンズが居るのが見えた。



「はいっ!」


「任せて!行くよ~、えーいっ!」 バシッ!!


「はいっ! よっ、はっ、はいっ!」


「···すっごーい!!」


「水の中からあんなに高くジャンプ出来るんだ···!!」


「確かに凄いわね···」


「へ?わわっ!? ど、どちら様ですか?」


「あ~ごめんごめん、急に声かけちゃって。私はカラカル。で、こっちが···」


「サーバルだよ、宜しくね!」


「は、はじめましてキュルルです」


「カラカルさんにサーバルさん、キュルルさんですか···。よし、行きますよドルカさん!」 「まっかせて!」

「「せ~の···」」


「私はカリフォルニアアシカのフォルカです!」

「バンドウイルカのドルカだよ!」

「「みんな~!宜しくね~!イエーイ!」」


「いえ~い!」 「い、いえ~い···?」 「て、テンション高いわね···」



二人のフレンズによる『高く投げた玉を打ち返し、戻って来た玉を上手くトラップして頭に乗せる』という、息のあった連携に思わず称賛の声をかけてしまい驚かせてしまった三人はとりあえず改めて自己紹介をする事にしたのであったが···まさかの予想外のハイテンション挨拶に困惑気味のカラカルであった。



「か、変わった挨拶するのね貴女達」


「私も毎回自分でびっくりしてるんですが···何かこう、こんな感じでフレンドリーに挨拶しないとダメって思ってしまうんです」


「そーそー!私もそうなんだよね~。多分フレンズになる前に誰かに教えられたんじゃないかな?って思うんだよね」


「誰かって···はっきりとはわからないの?」


「フレンズになる前の記憶は少し不明瞭な所もあって···。多分フレンズやボスではない存在···かつてパークに居た『ヒト』がその正体なんじゃないかなって思うんです」


「此処でも『ヒト』か···。やっぱりキュルルと『ヒト』は確実に繋がりが有りそうね」



再度『ヒト』という言葉を聞いたカラカルは、改めてキュルルとヒトは繋がるのでは?という考えを強めるのだった···。



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「そういえば皆さんは何故此処に?」


「あ、はい···実はぼく何も覚えてなくて。それで記憶を取り戻すきっかけが欲しくて、このスケッチブックに描かれた場所を探してみようって思ったんです」


「わたし達はキュルルちゃんの記憶探しをお手伝いしてあげようと思って!」


「なるほどそういう事でしたか。キュルルさんちょっとそれを見せてもらっても?失礼···確かにこの絵?は此処に似てますね」


「···そういえばキュルルって、私たちがほんのちょっと覚えてる『誰か』に似てるかも? もしかしてキミも『ヒト』なのかな~?」


「ドルカの言うように私もそうかも?って考えてるんだけどね···。とはいえ記憶が戻る迄は決め付けも良くないし」


「すみませんフォルカさん、ドルカさん。はっきりしなくて···」


「あぁいえお気になさらず!?······そうだ、『ヒト』が遺したって言われる『ふね』がすぐ其処にあるんですが、乗ってみますか皆さん? もしかしたら記憶が戻るきっかけになるかもしれませんし」


「『ふね』?何それ何それ~!!」


「水の上に浮かぶ事の出来るおっきな箱みたいなものだよ~!! 一人じゃ動けないみたいなんだけど、私たちが動かしてあげるから大丈夫だよ!」


「わ~い乗ってみた~い!行ってみようよキュルルちゃん!」


「そうだね、乗ってみたいな······カラカル?何か顔色良くないけど大丈夫?」


「だ、だだだ大丈夫よ!?水の上に行くのが怖いとか、そんな事ある訳ないじゃない!! さ、さぁ行くわよ二人共!」


「本当に大丈夫かなぁ···?」



フォルカ達の勧めで『ヒト』が遺したとされる『ふね』に乗る事になった一行であったが、明らかに緊張MAXなカラカルを見て心配になるキュルルだった···。



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「わ~い!綺麗だね~!」


「どうですか皆さん、海の上は?」


「はい、とても気持ち良いです!フォルカさんとドルカさんは大丈夫ですか?」


「これ位へーきだよ~!任せて~!」


「············」


「···カラカル大丈夫?無理せず残ってても良かったんだよ?」


「あああ貴方達だけじゃ心配だから!? わ、私の事は気にしなくて良いわよ!?」


「う、うん···」


「皆さん、そろそろ絵の場所に着きますよ」



楽しむ二人とは対照的に水の上を怖がってるカラカルを乗せつつ船は進み、目的地である絵の左側···水上ステージにたどり着いた。



「此処が絵の場所か~。どうキュルルちゃん?何か思い出せそう?」


「う~ん···」



『ワアァァァァァァ······!!』

『今日のショーも凄かったね○○○!!』

『そうだな○○○。また来ような』



「あっ······」


「···何か思い出されましたか?」


「うん···。僕、此処に来た事があるかもしれない」


「本当に!? こ、此処ってどんな場所なの!?」


「うっすらとしか思い出せなかったんだけど···さっきのドルカさんみたいな凄いジャンプを見せてもらう場所だった気がします」


「そうですか···やはり私達の記憶の不明瞭な所にいる、そして挨拶を教えてくれた存在は『ヒト』だった可能性が高いんですね。私達が何故この近くでフレンズになったのか···何となく解りました。 有り難うキュルルさん、心の中でずっともやもやしていたモノが少し晴れた気がします」


「···こちらこそ有り難うございますフォルカさん、ドルカさん。記憶を少し取り戻せたのは、二人が此処に連れて来てくれたおかげですから」


「どういたしまして!!···そうだフォルカ、帰りにあの場所をキュルル達に見せてあげようよ!」


「それはいいですね!皆さん、帰りが少し遠回りになりますが構いませんか?」


「僕は大丈夫ですけど···サーバルとカラカルは大丈夫?」


「わたしは大丈夫だよ~!」


「わ、私の事は気にしなくて良いから···」


「···じゃあ二人共、お願いしても良いですか?」


「お任せ下さい!」 「任せて~!」



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「···着きましたよ皆さん。真ん中の部分から下を覗いて見て下さい」


「···うわ~!見て見てキュルルちゃん!すっごくキレイだよ~!!」


「確かに綺麗だね···此処でしか見られない光景だね」


「でしょ~!此処は私とフォルカのお気に入りの場所なんだ~!」


「······(恐る恐る) た、確かに綺麗ね」



二人に案内してもらった場所は、色とりどりの魚が透き通った海の中を泳ぎ回る美しい光景···まさに『宝石箱』の様な場所だった。 皆が美しさに心を奪われている時、海面から一人の新しいフレンズを現れた。



「何をしているのドルカ、フォルカ。······そのフレンズ達は誰?」


「あっシャチ!えっとね、実は······(事情説明中)」


「······なるほど解った。でも『海のご機嫌』は相変わらず良くはない、泳げないフレンズは危ないから早く陸に戻して上げて」


「解りましたシャチ、心配かけてごめんなさい」


「気にしないでフォルカ、皆を守るのは私の仕事だから。···それじゃ」


「またね~!」


「···すみません皆さん、ちょっと早いですが戻りますね?」


「あ、はい解りました」



シャチからの警告を受けた一行は、少々名残惜しさを残しながらセルリアンに襲われない内に陸に戻る事にしたのだった···。



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陸に戻って来た一行。キュルルは早速気になっていた事をフォルカ達に聞いてみる事にした。



「そういえばフォルカさん、さっきシャチさんが言ってた『海のご機嫌』って何の事なんですか?」


「実は私達も詳しいことはわからないんですが···。結構前に海で何か凄い事が起こったみたいで···それ以降、海でもセルリアンが増えたんです」


「シャチは私達海のフレンズをセルリアンから守ってくれてるの!」


「なるほど、シャチは海のセルリアンハンターみたいな存在なのね。······ちょっとどうしたのサーバル?大丈夫?」


「う、うん大丈夫だよカラカル。···やっぱりわたし昔、誰かと海に来た事あるのかも」


「···キュルルもだけど、貴女の記憶も早く戻ると良いわね。でも無理に思い出そうとしちゃダメよ?」


「···サーバルさんも記憶を失われているんですか?」


「うん、キュルルちゃんみたいに全部じゃないんだけど···」


「そうなんだ···応援位しか出来ないけど、二人共元気出してね!」


「ありがとうドルカ!」


「···そうだ!二人共、ちょっと此処に並んでもらっても良いですか?」


「え?あ、はい構いませんよ」 「なになに~?」


「······よし出来た!フォルカさん、ドルカさん、これお礼です。良かったら受け取って下さい!」


「これは···私達の絵、ですか? キュルルさん、有り難うございます···大切にしますね」


「わ~い!ご褒美もらっちゃった~!ありがとうキュルル~!」


「······さて、そろそろ私達は行くわ。色々有り難うね二人共」


「こちらこそ色々と楽しかったですよ、ご褒美迄頂けましたし。 キュルルさん、それにお二方···記憶探しの旅、頑張って下さいね!」

「またね~!」

「「せ~の···。 また来てね~!バイバ~イ!!」」



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「···行っちゃったね三人とも。また会えたら良いねフォルカ···どうしたの?」


「え?あぁいえ···こうやって『ヒト』からご褒美を貰う、それは私達にとって大切な事だった様な気になったものですから」


「そう言われてみたら確かにそうかも···。 やっぱりもう一回会えたら良いねあの子と」


「はい、そうですね···。 (キュルルさんの記憶が戻ったら、この不可思議な気持ちの答えを教えてくれるのかしら···?)」




······ヒトと触れ合う事で心の中に何かが再び芽生えたフォルカとドルカ、二人の『うみのフレンズ』のお見送りを受けて再び旅に戻るキュルル達。 次の場所ではどんな出逢いが、そしてどんな記憶の欠片に巡り会えるのか······?



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後書きです。正直アニメで言う三話は悩みました···マンガ版の様にもっと『動物と調教』に切り込むべきか等。 結局そういう事を纏める才能も文才もないので断念しましたが(諦

アニメ本編ではシャチの出番ほとんどなかったので追加してみました。イメージ的には『普段はちょっと冷たい印象も与える事もあるクールな性格だけど、フレンズを守る為なら全力でセルリアンに立ち向かう熱いハートを秘めてる』というベタな感じです(笑) 個人的なC.Vは林原めぐみさんをイメージしてます。

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もしもキュルルの生まれ方<バックボーン>が違っていたら @k-rocks

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