第5話 ヒトの痕跡

「あら?キュルル、何書いてるの?」


「うん、せっかくだからさっきの思い出を残そうと思って···」


「···あっ!カルガモとロバだねこれ!」



······キュルルはカルガモとロバに会うきっかけを作ってくれた駅の風景画に、新しくカルガモとロバを書き加えていた。 こうする事で『過去の思い出』である風景画を『今の思い出』にバージョンアップ出来ると思ったからだ。



「へぇ···わりと良い感じじゃない」


「うん!私もこっちのが好きかな~!」


「えへへ、ありがとう二人とも!······次の場所でもフレンズさんに会えるのかな?」



カルガモとロバを書き終えたキュルルは次のイラスト···竹に囲まれた広場の様な場所を描いたページを眺めていた。次はどんな出逢いが待っているだろうか···と考えていたその時! モノレールの車体が揺れたかと思った次の瞬間、後方からセルリアンがモノレールを食べんとばかりに追いかけて来るのが見えた!



『キケン!キケン!セルリアンセッキンチュウ! スピードヲアゲマスノデ、オキャクサマハタイセイヲヒククシテクダサイ!!』


「うわわっ···!?ま、またあの怪物が!?」


「···ダメだわ、だんだん追い付いて来てる!?」


「ボ、ボス~!?もっと早くならないのー!?」



モノレールがラッキービーストの操作でスピードを上げたものの、徐々に差を詰めてくるセルリアン。 カラカルは(いざという時はキュルルを抱えて窓から飛び出さないとダメか?)と内心考えていたその時······!!



ド ゴ ォ ッ !!



「うわっ!?」「な、何!?」「あれは···!?」



凄まじい音が聞こえたかと思った次の瞬間、やにわに傾き落ちて行くセルリアン。三人が慌てて窓を覗くと、落下しながらパッカァーン!!と砕けたセルリアンの残骸と共に落ちて行くフレンズの姿があった···。



____________________




『······セルリアンノハンノウ、ショウシツヲカクニン。···緊急運行から通常運行に移行致します。お客様は安心して座席にお戻り下さい』


「あんな大きな身体のを一発で···!!」


「すっごーい!あの子強いねー! 誰か知らないけどありがとね~!!」


「あれがもしかして···ビーストって呼ばれてるフレンズなのかしら?」


「え?カラカルあの子の事知ってるの?」


「ええ、私も聞いた事あるだけで会うのは初めてなんだけど······」



サーバルの疑問に答えるカラカル曰く、先程助けてくれたフレンズは『ビースト』と呼ばれる存在·最近増えたフレンズ型のセルリアンを倒して回ってるそうなのだが、周りを気にしない為巻き込まれて怪我をしたフレンズもいる·『ビースト』という名前と彼女の行動目的は、パークの長を名乗るフクロウのフレンズが情報を広めた···との事らしい。



「そうなんだ···。何があったかわからないけど、お友達になれたら良いのにね」


「あんたは相変わらずお気楽ね···まあそういう優しいところが長所なんだけど。······どうしたのキュルル?大丈夫?」


「う、うん···。ぼく、あのフレンズさんを見た事ある気がするんだ···」


「えっ!?キュルルちゃん、さっきのビーストと知り合いなの?」


「······うーん、知り合いなのかまではわからないや。ごめんねサーバル」


「そっか~···また何か思い出せたら教えてね!」



···ビーストを見た時に脳裏に何か映像が過ったキュルルであったが、その映像の『ビーストに似た存在』が先程の彼女とイコールなのか···残念ながらそこ迄は思い出せなかった。···と、再びラッキービーストの『ご乗車有り難う御座いました。次は<竹林公園前>、次は<竹林公園前>です』というアナウンスが流れた。どうやら次の駅に到着したようだ···三人は駅に着くとモノレールから降りてみる事にした。



「ふーん、ここが<竹林公園>って所? 静かなのは良いんだけど、あまり何もなさそうな場所ね···」


「さばんなちほーには無い木?がいっぱい生えてるね~!!ツルツル~!!」


「静かな所だね······あっ!カラカル、サーバル、この絵の場所ってこの近くじゃないかな?」


「···確かに周りの木?が似てるわね。もっと奥なのかしら?」


「よ~し!じゃあ絵の場所と、キュルルちゃんの記憶を探しに早速しゅっぱーつ!!」



···キュルルが見せた二枚目の風景画が<竹林公園>の雰囲気に似てると感じた一行はサーバルの先導のもと、竹林の中を探索し始めた···。



___________________




「···あっ!さっきの絵の場所、ここじゃないかなキュルルちゃん!」


「うーん···?確かに似てるんだけど······?」


「木で組んだモノはあるけど何か···この部分のが足りないわね。 ん?誰かいるみたいよ?···どうする?ちょっと聞いてみる?」


「どうしよう、起こすのも何か悪い気がするし···」




道なりに進むと開けた場所、二枚目の風景画に近い所に着いたキュルル一行だったが···。 絵に描かれている状態よりも広い···そう、木で組んだモノの横に描かれている『何か』が足りなくて殺風景なのを皆察していた。

仕方なく一行は広場の真ん中の岩の上ですやすや寝ているフレンズに聞こうとしたのだが···あまりに気持ち良く眠っているので、起こすのを躊躇っていた。すると「···イアントパンダちゃ~ん」と恐らく目の前の彼女を呼ぶ声が聞こえてきた。



「···ャイアントパンダちゃ~ん···あっ居た!!心配したんだかr···って、えーと。 すみませんどちら様ですか···?」


「あなたこの娘の知り合い?私はカラカル。で、こっちが···」


「私はサーバル!宜しくね!で、この子がキュルルちゃん!」


「こ、こんにちは。キュルルです」


「あっ、は、はじめまして!レッサーパンダです! 皆さんはどうして此処に···?」



挨拶を済ませた一行は『キュルルと出逢った経緯·モノレールに乗って近くに来たこと·其処からスケッチブックの絵の場所を訪れて記憶を取り戻すきっかけを探している事』を説明した。



「···という訳なのよ。で、この場所を知らないか彼女···ジャイアントパンダだったっけ?に聞こうと思ったら貴女が来たわけ」


「···なるほどそうだったんですか!! でしたら私にお任せ下さい!!」


「レッサーパンダはこの絵の場所知ってるの?」


「知ってる···という訳ではないですが、近くに似た場所はありますよ!! 早速ご案内しますね!!」


「あ、レッサーパンダさん。ジャイアントパンダさんはこのままで良いの?」


「ジャイアントパンダちゃんなら大丈夫ですよ!!···むしろ無理やり起こしちゃうと怖いですから、今はそっとしておいた方が···」


「そ、そうなんだ···」



かくしてレッサーパンダの案内のもと、残る広場を探索した一行であったが···


−東広場−

「絵とは違う場所な気がするわね···」

「そうですか···」


−北広場−

「ここは違うと思うな~、あの板がいっぱい繋がってるのは描かれてないし」

「すみません···」

「あれは『つり橋』って言うものだったはずだよサーバル」

「へ~そうなんだ!」


−西広場−

「此処は岩が多いから違うと思います···」

「うぅ、ごめんなさい···」


−最初の南広場−

「あれ?ジャイアントパンダ?···って事は戻って来たのね」

「ええ!?す、すみません!すみません!」


······とまあ、レッサーパンダの努力は実らず、出発前の広場に戻って来てしまった一行であった···。



____________________




「ごめんなさい!!私、誰かのお役に立ちたいと思ったんですが···。やっぱり私は全然ダメですね···」


「そ、そんな事ないよレッサーパンダ!元気出して!」


「とは言うものの、絵の場所は見つからなかったわね···どうするのキュルル?」


「どうしようか···ん?あんな所に倉庫が···? みんな、ちょっといいかな?」



元の広場に帰って来たキュルル達だったが、別の方向から帰って来た事でちょうど死角になっていた場所に倉庫を発見出来たキュルル。 中身はやはりというか、解体されて収納されていた遊具であった!



「やっぱりそうだ···みんな、手伝ってもらっても良いかな!」


「何か思い付いたの?」「任せて任せてー!」「こ、今度こそお役に立ちます!」



フレンズ達の力を借りて少しずつ遊具を組み上げて行くキュルル一行···レッサーパンダの助けもあり、さして時間も掛かることなく無事に遊具を設置する事が出来たのである!



「···よし、出来た!」


「わーい出来たー!」


「···なるほど、此処が絵の場所だったのね」


「···ありがとうレッサーパンダさん!キミのおかげであの倉庫に気付く事が出来たんだ!」


「わ、わたし···お役に立てたんですか?」


「やったねレッサーパンダ!」「良かったじゃない」


「······う、うぅ。良かった、良かったよぅ···グスッ」


「ほらほら泣かないの」



___________________




遊具を設置し、無事風景画に近い光景になった訳だが···木組みの方、ブランコと呼ばれる遊具は片方が壊れてしまっていた。 そこでキュルルは何か代わりのものをぶら下げようと提案した所、レッサーパンダから「このタイヤを使ってみては?」と案が出たので、早速試してみる事にした。



「この木組みの上に、さっき見たつり橋みたくこの紐をくくり付けたいんだけど···」


「あっ、なら私に任せて下さい!!」



任せてと言うや否やレッサーパンダはするすると木組みの上に登ったかと思ったら、あっという間に紐を綺麗にくくり付けてしまった!



「へえ、レッサーパンダもキュルルみたいに器用な手先してるのね」


「うん!私も木登りは得意だけど、そこまで器用には結べないや!」


「え、えへへ···(赤面」



···と、レッサーパンダの活躍と得意な事発見が重なり、タイヤブランコは無事完成したのだった!! レッサーパンダ曰く、いつもお世話になってるジャイアントパンダにプレゼントしたいとの事らしい。とそこに······



「ふわぁ···おはようレッサーパンダちゃ~ん···。ん~?だぁれ~···?」


「こんにちはジャイアントパンダ。私はカラカルよ、で、こっちが···」

「サーバルだよ!宜しくね!」

「こ、こんにちは。キュルルです」



ちょうど起きて来たジャイアントパンダとも漸く挨拶を済ませる事が出来たキュルル一行であった···。



___________________




「わぁ~···良いねぇ~これ~···」


「ほ、ホント!? 良かった!」



どうやらレッサーパンダのプレゼントは成功したようだった。 ふとカラカルが「なぜプレゼントを?」と聞くと、普段から自分は守ってもらってばかりの存在だから、何かしらお礼を形にしたかったとの事。するとジャイアントパンダが「そんな事ないよ~」と返して来た。



「ふえ?ジャイアントパンダちゃん···?」


「だって普段からいつも寝てばかりの私と一緒に居てくれるし、美味しいものも探して来てくれるし、こんな素敵なプレゼントもくれたし···。こちらこそいつもありがとうね~レッサーパンダちゃん」


「······うんっ!どういたしましてだよジャイアントパンダちゃん!こちらこそいつも守ってくれてありがとう!」



どうやら今回のプレゼントは二人の絆をより強める事が出来たらしい。 サーバルが「良かったね!」と二人を祝福する中、ちょっと羨ましそうに見つめるキュルルの頭を、カラカルはそっと優しく撫でてあげるのだった···。



____________________




「此処まで見送ってくれてありがとう。レッサーパンダさん!ジャイアントパンダさん!」


「良ければまた遊びに来て下さいね! 似顔絵のプレゼント、ありがとうございました!」


「···そういえば~、あの広場の遊び道具を作ったり~、このおっきな箱を作ったフレンズは~、確か『ヒト』って言う存在だったらし·······ZZZ」


「ジャイアントパンダちゃん!?···すみませんまた寝ちゃったみたいです。 彼女は私に任せて下さい···では、皆さんお元気で!」



···レッサーパンダとジャイアントパンダの見送りを受けて再びモノレールに乗る一行だったが、やはり話題はジャイアントパンダからもたらされた『ヒト』というフレンズ(?)の事だった。



「ヒト?それがキュルルのフレンズとしての正体なのかしら······大丈夫キュルル? ってサーバルまで!?」


「う、うん大丈夫···ありがとうカラカル。やっぱりぼくは···その『ヒト』ってフレンズなのかな···?」


「うぅ、頭が痛いよ···。でもその『ヒト』って言葉、何か私にも大切なものだった気がするよ···」


「···そういえばあんた、さばんなちほーに帰って来た時、そこまでの記憶がないんだったか···。ヒトと何か関係あるのかしら?」


「えっ!?サーバルも記憶を失くしてたの!?だ、大丈夫サーバル···?」


「うん···もう平気だよ、ありがとうキュルルちゃん」



果たしてキュルルの正体は本当にヒトといえばフレンズなのか?そしてサーバルの失われた記憶の内容とは···? キュルル達の記憶巡りの旅はまだ続きそうです···。




____________________




後書きです。 以前の後書きに書いていた通り、冒頭でスケッチブックの扱いを変えて(原作:記憶探しのアイテム この小説:過去の思い出を今の思い出に変えるアイテム)ます。

正直レッサーパンダちゃんとジャイアントパンダちゃんの回は、マンガ版が上手い事変更なさってたのでパk···参考にしつつ流れを少し変えてみました。 え?キャラ改変が酷い?それはもう一話からバリバリですから···お兄さん許して!?


あっそうだ。原作の竹林がどれ位の面積+形かが不明だったので、この小説では虫眼鏡みたいな形の公園(駅から真っ直ぐ→円を描く様に東西南北に広場、広場が囲む真ん中のエリアは動物やフレンズが住む環境=動物園みたくお客が観察できるエリア)にしました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る