第4話 キュルルの目覚め

此処はかつて<研究所>とヒトが呼んでいた施設。その中で一つの機械の寿命が尽きようとしていた···。



「ガ···ガガ······。電源供、給が困、難になりま、した···。安、全の為治療装、置ハッチ、開放し、まs···」



ガシュゥゥゥン···と音を立てて、ポッドのハッチが開放された。音の発生源である装置はそれきりウンともスンとも言わなくなり、少し経った後に中から一人の子供が現れた。



「···ぅっ。こ、此処は···? いたっ···!?あ、頭が···!」



ポッドの中から現れた子供は、頭痛に苛まれながらもゆっくりと歩き始めた。そして···




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「うわぁ···」



半開きだった扉を開けて外に出た子供の目に飛び込んで来たのは青く輝く空と眩しい太陽、鼻に感じる草木萌ゆる香りだった。

(綺麗だなぁ···。でも、此処は何処なんだろう···?) そう感じた子供は無意識のまま建物から外に向けて歩み始めた。 近くの森を恐々と歩く子供···と、不意に周りの草木がガサガサと音を立て始めた


(一体何だろう···?) そう思った子供の目の前に現れたのは、おおよそ生き物とは思えない謎の物体···この世界で<セルリアン>と呼ばれる存在だった···!! 「あ、あの···うわっ!?」声を掛けようと思った子供は木の根に脚を取られ尻餅を付いてしまった。


「いたた···」と尻の痛みに耐えつつ顔を上げようとした瞬間耳に飛び込む轟音。 目線を上げてみると、目の前の物体が振るった『手』、いや手と呼んで良いべきか判らない部分が自分の近くの木にめり込んでいる光景だった···!? 子供は本能的に血の気が引いていくのを感じていた···。

(に、逃げないと···!!) そう頭ではわかっているものの、目の当たりにした恐怖のせいで身体が言うことを聞いてくれない。 と、目の前のセルリアンがその無機質な一つ目で子供を見つめる···その視線は子供の恐怖を爆発させるのに十分な代物だった!! 思わず頭を手で覆い、子供は恐怖の叫びを吐き出す!!



「ひッ···!?や、やだ!?誰か!! た、食べないでぇーッ!!」


「このおぉぉーっっ!!」 パッカァーン!!



誰かの気合いの叫びと、何かが割れる様な小気味良い音。 子供が恐る恐る目を開けてみると、其処には先程の無機質な怪物とは違い、動物の要素を持った可愛い女の子が立っていた。



「ふぅ···へしが丸見えで助かったわ。ちょっとあなた、大丈夫だっt「う、うわぁぁーんっ!!」···って、わわわっ!? ······あー良し良し、もう平気よ」



動物の要素を持った女の子···カラカルがセルリアンを撃破し声をかけた矢先、その子供は彼女の胸に飛び込みわんわん泣き出してしまった。 カラカルは困惑しつつも、子供が泣き止む迄優しく背中を撫でてあげるのだった···。




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「···落ち着いた?」


「···はい、ごめんなさい急に抱き着いたりして」


「気にしないで良いわよ」



······少し経って子供が落ち着いたのを確認してから声をかけるカラカル。 子供は泣いていたのもあるが、知らない女の子に抱き着いて大泣きしてしまった気恥ずかしさも含め少し顔を赤くしつつ答えた。



「それで、あんたは何でこんな所に居たの?闘えないのに一人で居たら危ないじゃないの」


「そ、それが···」 ガサガサっ!? 「ひっ!?ま、また···!?」


「······うん、大丈夫よ。安心なさい」



事情を話そうと思った子供の耳に飛び込む草を掻き分ける音···先程の恐怖を思い出し再びカラカルに抱き着く子供だったが、音を立てている者の正体を察知したカラカルは落ち着いた様子で子供を宥めた。



「あっ、カラカル!漸く見つけたよ~」


「サーバル、どこ行ってたのよ」


「ごめんごめん!!セルリアンが誰か追いかけてないか、確認してたらちょっと遠く迄行っちゃって······あれ?その子は?」


「さっき私が追いかけてたセルリアンに襲われてたのを助けたのよ。···そう言えば名前聞いてなかったわね」


「あ、はい。実は···」



音の正体がサーバルと分かり安堵した子供は、自分が少し行った所にある建物の中で目覚めたこと·自らが何も覚えてないこと·外に出た所で先程の怪物···セルリアンに襲われた所をカラカルに助けられた事を話した。 余談だがその時泣いてた事をサーバルに言わなかったのを黙ってたのはカラカルの優しさである。



「そっか~、名前も分からないんだ~···どうしようカラカル?」


「一旦その建物とやらに戻ってみましょうか。何かこの子の事が分かるかもだし」


「ごめんなさい、迷惑かけて···」


「気にしないで良いよ!フレンズは助け合いだから!」


「フレン···ズ? フレンズって何ですか?」


「フレンズの事が分からないなんて···あんた、そこまで記憶が無いの? 思ってたより酷い状態かも···怪我とかは···してないか。そうなると···生まれたばかりのフレンズなのかしら?」



フレンズの事すら分からないという子供の言葉を聞いて、もしや大怪我をして酷い記憶喪失に陥ったと危惧したカラカルであったが···身体的にそのような状況は見られない。 では生まれたばかりのフレンズなのか···?これ以上此処で考えても答えは出ないと考えた彼女は、とりあえず二人を連れて建物に向かう事にした······




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「···ふーん、此処がキミが目を覚ました場所か~。何か不思議な所だね」


「ちょっとサーバル、何があるか分からないから慎重にね」


「···あっ!サーバルさん、カラカルさん。僕が目を覚ました場所はあそこです!」



建物に戻った一行は子供の目覚めた装置の前に着いた。がしかし、其処にはサンドスター以外には肩掛け鞄···そして『一ページ目と二ページ目が破られた形跡があり、他のページにはどこかの風景が描かれている』本の様なモノしか遺されておらず、子供の名前に繋がるモノは無かった···。

しかし本の様なモノを見た子供は、それを見てこれは『スケッチブック』ではないか?という事だけは思い出せたようだった。



「うーん、スケッチブック以外は手掛かりなしか~···あんまり落ち込まないでね!」


「ごめんなさいサーバルさん、カラカルさん。此処迄来てもらったのに···」


「だから気にしないで良いわよ。でも名前が分からないのは困ったわね···」


「あっ、じゃあ僕の事は一旦スk···」 ぐ~きゅるるる··· 「···(赤面」


「ん?一旦ぐ~きゅるるちゃんって呼べば良いの?」


「いや、今のはお腹が空いて鳴った音でしょ···」


「そっか~···あっ!ならキュルルちゃんとか!どうかな?」


「安直だけど···覚え易くはあるわね。どうする?」


「···はい、じゃあキュルルでお願いします!」


「えへへ!じゃあこれから宜しくねキュルルちゃん! あ、これからはお友達だから丁寧に喋らなくても良いよ!」


「は···うん、こちらこそこれから宜しくねサーバル! カラカルさんも宜しくお願いします!」


「私も丁寧に話さなくて大丈夫よ、宜しくね」


「分かった、これから宜しくねカラカル!」


「そういえば私もお腹空いちゃったな~···」



無事名前が決まりお友達になれた三人。お腹が空いたな~···と思ってたその時、空から一人の鳥のフレンズが「サーバルさ~ん、カラカルさ~ん」と声をかけながら降りて来た。



「あっカルガモ!」


「良かった、みんな無事みたいですね。ああ、その子も無事だったんですね···カラカルさん達が間に合って良かったです!」


「キュルル、あんたが森を歩いてたのを見つけて知らせてくれたのがカルガモなのよ」


「そうだったんだ···ありがとうカルガモさん、おかげで助かりました」


「いえいえ、お気になさらず!フレンズが安全に過ごしてくれると私も嬉しいですから!」



カルガモのおかげで助かった事などお話に華を咲かせるフレンズ達であったが、再びキュルルのお腹が鳴った事で話は食べ物の方に移って行った。



「この近くにボス居たかしらね···?」


「あっ!そういえば此処とは別の所の四角い大きなモノの近くに、ロバさんが何時もの『じゃぱりトラック』とかいうものでじゃぱり製品を運んで来られてましたよ!」


「此処とは別の四角いモノ?······キュルル、さっきのスケッチブックちょっと貸してくれない?」

カラカルがスケッチブックの表紙を開くと、表紙の裏に(フレンズ達には分からないが)『じゃぱりマップ』と書いてあるものが張ってあった。 更にスケッチブックの一ページ目には四角い建物···こことは違うで有ろう場所が描かれていた。



「うーんもしかして···カルガモ、もしかしてロバが来てる場所ってこれと似た場所だったりしない?」


「···そうです、これと似た場所です! 道案内はお任せ下さい!じゃあ皆さん、一列で安全確認第一で行きますよ~!」



······カラカルに一ページを見せられたカルガモの案内で、『研究所』からヒトがかつて『駅』と呼んでいた建物迄やって来たキュルル達。その前でロバが『じゃぱりトラック』の荷台で物資運搬要員ラッキービーストと共に色々なじゃぱり製品を並べていた。



「うわ~、じゃぱり製品がいっぱい! こんにちはロバ、いつもありがとね!」


「こんにちはサーバルさん。いえ、これは私が好きでやってる事ですから···あら?そちらの方は?」


「この子はキュルル。ちょっと今は昔の記憶がないみたいなの···」


「そうなんですか···こんにちはキュルルさん、あまり気を落とさないで下さいね?」


「こんにちはロバさん、キュルルです。心配してくれてありがとう」


「いえいえ。あ、そうだ!こちらはじゃぱりコロネです。キュルルさん、良ければおひとつどうぞ!」


「ありがとうございます。頂きます、はむっ······美味しい!」



ロバの薦めてくれたじゃぱりコロネのおかげで無事お腹いっぱいになったキュルル。お土産として幾つか持たせてくれたロバ·此処迄道案内してくれたカルガモ·セルリアンから助けてくれたカラカル·名前をつけてくれたサーバルに何かお礼は出来ないか···と思ったキュルルは、鞄から画材用具とスケッチブックを取り出した。そして······



「はい!ロバさん、カルガモさん。僕にはこれ位しか出来ないけど···」


「あら?これは···」


「『絵』って言うんだ。カルガモさんとロバさん、それぞれの似顔絵を描いてみたんだ!」


「うわぁ···ありがとうございますキュルルさん! 道案内のお礼にこんな素敵な物を頂けるとは思ってなかったです!」


「ありがとうございますキュルルさん! 記念にじゃぱりトラックに飾って置きますね!」


「へぇ、戦ったりするのは苦手みたいだけど手先は器用なのねキュルル」


「凄いねキュルルちゃん!」


「···はい!サーバルとカラカルのも出来たよ!」


「私のも?···ありがとう、遠慮なく頂いておくわね」


「わーい!ありがとうキュルルちゃん!」



無事お礼が出来たキュルルは、ヒトが作った『駅』を見上げていた。なんとなくではあるが、自分はこの建物の意味や使い方を知っている気がするのだ···キュルルは記憶探しの旅に出る決意を固めた。そして······



「サーバル、カラカル、カルガモさん、ロバさん、ありがとう。僕、何でかは分からないけどこの建物の使い方を知ってる気がするんだ···だからこれを使って、記憶探しの旅に出ようと思うんだ」


「そうですか···気を付けて下さいね」


「またこの辺に来た時は、道案内はお任せ下さいね!」


「そっか~···此処でお別れなんだね」


「そう···分かったわ。じゃあ私達は途中まで見送ってあげるわ」



階段を登った先にあったのはモノレール···キュルルはやはり頭の奥底にこれの使い方が残ってる気がした。 適当に車体を見回していると、手形の様なものが···それに手を重ねて見ると『ゴゥン···』という重厚な音と共に目の前の塊が動き出し始めた。まるで塊に『命が戻って行く』様な錯覚をキュルルは覚えた。



『······ガ、ガガ。···じゃぱりモノレールをご利用頂き有り難う御座います。現在<居住区エリア>です。 次は<竹林公園前>、次は<竹林公園前>です、ご利用のお客様はお乗りください』


「···動いたみたいだ。 ···それじゃあサーバル、カラカル、此処迄見送ってくれてありがとう」


「······うーん、やっぱりちょっと心配ね。しばらくついて行ってあげるわ···サーバルはどうする?」


「うん!私も心配だからついて行ってあげたいな!」


「カラカル、サーバル、いいの?迷惑なんじゃ···」


「さっきも言ったでしょ、フレンズは助け合いって···迷惑なんて思ってないから安心なさい」 「そーそー!!気にしないでキュルルちゃん!」


「二人とも···ありがとう。これからまた宜しくね!」


「任せときなさい!それじゃ行きましょうか!」


「よ~し、しゅっぱーつ!!」



こうしてキュルル、カラカル、サーバルの三人旅は幕を上げた。キュルルの記憶は何故失われたのか···それはきっと今後の旅で明らかになる、かもしれない···。




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後書きです。

ぶっちゃけますとマンガ版を執筆されてる内藤先生が凄く上手い感じに修正なさってる(あとアシカさんがえっちぃ)ので、「ああもう、オリジナル設定ぶち込んでるなら話の進み方も変えるか」と思いこんな流れになりました。 原作の流れが好きな方には申し訳ないです。


原作との一番の差異として『スケッチブックはフレンズに対してお礼をする時に使う』というものに変えました。 あまり言いたくないですが、原作の方だとお話が進むにつれスケッチブック自体の価値が薄れた感じだったので···。 後、最初の絵を風車小屋から駅に変更、ロバさんのトラックは稼働可能なじゃぱりカーシリーズ?(ボスが運転するもの)に変更してみました。

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