第23話 疑問

かれんは1人、駅前のカフェに居た。

いつもなら心華やぐラテアートも今日は胸に響かない。


 ママがなぜ、あんなに反対したのか……

 全くわからない。

 でも……何か心の奥に忘れてしまって

 いるものがある。

 とっても大切なことで ……

 そして何か悲しいような?

 そう、あのキーチェーンを見た時に

 心に湧く、あの不思議な気持ちと

 少し似ている。


ラテを一口、甘い香が広がるも心が解放されることはなかった。


「かれん!」


「由夏、葉月…….」


「やだ、独り言?! けっこうなダメージね」


「……そうかも。二人ともごめん、休みの日に呼び出して……」


「いいわよ、友達なんだから」


ようやく心が少し、息を吹き返した。



かれんは二人に母とのやり取りを話した。


「だいたい概要はわかったけど、原因とか、思い付く点はないの?」


二人がかれんの方に乗り出して聞く。


「正直、全く思い当たらないの。何一つよ!」


「名前を出したとたん、ダメだっていい出したのよね。それは間違いなく、知り合いね! もしくは悪い噂を聞いてるとか?」


「でも、私たちの知り得ない藤田先生の悪い噂を、かれんママが知ってるなんて現実的じゃないわね。知り合いだとは言わないんでしょ? やっぱりおかしいわ、何かある!」


「まあ、究極、親の反対があったくらいで、あんたたちも別れたりしないでしょ? 親の説得の方は時間がかかってもいいんじゃない? 二人がその間に絆を深めていればいいのよ」


葉月があっさりそう言った。


「そうそう、焦ることなんかないよ、何せまだ二人は始まったばかりじゃない? ひょっとしたら数ヶ月後には別れてるかもしれないし?」


「もう! 由夏ったら!」


「あはは、まあまあ、ケーキでも食べて落ち着こうよ!」


「ケーキ?」


「そう、かれんのおごりで!」


「もう! 抜け目ないわね!」


二人の優しさを心から感じた。


「昔に話したかもしれないけど、記憶がない時期があって」


「ああ。大学の時に聞いたことあったわね」


「小学校の記憶とか、小さい時の記憶がないの。昔どうやって過ごしてたかとか、どうしてパパとママが離婚したのかも……わからない」


「そっか、お母さんに聞いたりしてないんだよね?」


「うん。なんかタイミング逃しちゃったから今さら聞きにくくて。小学6年生の時だったかな、卒業文集を書かなきゃならなくて、何気なく小さいときの話を聞こうとしたら、ママがあからさまに悲しい顔したの。以来話題にも出来なくてね」


「そうか、小学生の時から気を遣う子供だったのね」


「記憶はないけど、パパの家に行ったらなんだか温かい気持ちになるの。物の位置とか、どこに何があるとか断片的に覚えてたりもするの。でもそこで過ごした記憶はなくて……不思議な気持ちで」


「記憶喪失として診断されたことは?」


「わからないなぁ……」


「診療記録とかないのかな? そうだ、写真とかないの小さい時の」


「うちにはないから全部パパの家に置いてあるはずだけど、隠されてるのかな? 一つも飾ってるのを見たことがないの」


「それは不自然だよね?」


「調べる方法は……」


「それはやっぱり東雲しののめの家で家探しするしかないんじゃないの?」


「そうね、久しぶりにパパの家に行ってみようかな?」


第23話 疑問 -終-


→第24話 彼女の正体

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