第3話異端の発覚
強烈な拳が、脇腹を正確に捉え体を後方に吹っ飛ばした。
受け身をとる暇もなく、私は打ち付けた衝撃で、食道から鉄臭いものが這い上がってくるのを感じた。
更なる追撃をしようと、男が距離を縮めてくるのを見て、とっさに私は横に飛び退いた。間一髪、男の右足は宙を蹴っていた。
だが、安心するのも束の間、今度は、ガラスの蛇と拳が一緒になって襲い掛かってきた。
私は、二人に気を取られ過ぎて、死角からの攻撃を全く予想していなかった。
不意に、雷竜が背後から駆けてきた。
「あ………」
前方を色黒の男が、左右をもう一人の男のガラスが包囲しており、回避する事が出来なかった私はそれをまともに食らった。
一瞬で熱を伴った痛みが体中を駆け巡り、私はかなりの距離を飛んだ。
「うっ」
喉の奥から行き場を失った二酸化炭素が団子のようになって呻きと共に出て行った。
「隊長!副隊長!ご無事ですか!」
ぐわんぐわんと頭が打楽器になったかのように、痛む。遠くから、近付いてくる人の足音が沢山する。仲間が集まってきたのだろう。
何やら話しているが、「目ぼしいものは全て奪取しました」とか、「田舎は警備が手薄でいい」とか、計画が順調に進んでいるということを匂わせる単語が途切れ途切れに聞こえてきた。
途端に、私の意識は、あの忌まわしい屋敷の中に戻っていた。
―子供は労働力になるが、大人に比べ、金銭価値が下がる。極端な話、死亡率が高い上に管理が疎かなのはどこの国でも同じだな。
そういう伯父は、満足そうに地下三階にあった分厚い鉄ごしらえの両開き扉の中を見た。
その中には、
地元の農家や孤児院から攫った、若しくは、貰った子供が何人も瞳孔を極限まで開いて石造りの床に丸いシミを作りながら積み重ねられていた。
更に恐ろしいのは、そんな中に辛うじて息をしている子供が何人か混じっている事だ。
苦しそうに手を動かし、差し込む光に一縷の望みを抱いて、助けを求めるけなげな子供達を見て、伯父は何と言ったか……
もうすぐ楽になるさ、生贄共
確か、そんなことを言っていた。
全てはこの国を最恐にするため。
国際法で最重要決定事項の筆頭に挙がっている『悪魔の召喚及び使役の禁止』は、召喚用の魔法陣を描いただけで断頭台で五十回は首が飛ぶ程の犯罪だ。その理由は単純。精霊や死霊と違い、悪魔の持つ魔法、残虐性、頭脳、肉体、そのどれをとっても、人間が制御できる範疇を越えているからだ。加えて、下級悪魔一人を召喚する場合ですら、召喚する魔術師や、周りにいる人間が確実に死亡する。召喚と使役。どちらをとっても暴虐ばかりが軒を連ねてやって来る題名に、賢明な魔術師は興味を持たない。
賢明な魔術師なら。
だがしかし、
あの家の人間は、代々、『悪魔に関する研究を法外的に認められている』のだ。
何があの家の後ろ盾だったのかは今では定かではないが、あの子供たちは、悪魔の召喚の為に、用意されたいわば、捧げものだった。
あの子達の命も尊厳も根こそぎ毟り取って、親族がした事は今も夢に出でくる。
あの子達のように、大人のせいで未来を狂わされる子を見るのはもう………
耐えられない
校庭の遊具に激突した私の様子を確認する為に、大人数が此方に向かってくる気配がした。
私はわざと力を抜いて、ぐったりと気を失ったように見せかける。
―「アス、この学校を襲ったのは此処にいる人達で全部?」
―『ああ。そして全員が我が主を傷付けた者が如何な末路を辿るか思い知る時だな。』
頭の中で、アスが答えた。
襲撃者達が私に近付き、身体に触れてくるまで
五、四、三、二……
『我が主への蛮行、許さぬ。祈るがいい、子供を狙う罰当たりな襲撃者共。我は主のように慈悲深くない。』
私は、カッと目を見開き、伸ばされかけた大人の腕を払った。立ち上がり、服の埃を払う。
『「今まで貴方達がした攻撃を、そっくりそのままお返しします」』
突然のことに思考が追い付かない益荒男達は、驚く暇も与えられず、
吹き飛ばされた。
紫紺の猛々しい光が、私を中心に全てのものを等しく破壊した。
暴風が吹き荒れ、地面が陥没する。
色黒の男の攻撃が、豆鉄砲のように見える規模で。
私の頭上に、巨大な黒山羊が現れた。
私の左腕は、袖が焼け縮れたかのようにぼろぼろになり、露出していた。
腕全体をくまなく覆う、紫を基調とした毒々しい光を放つ模様。
異端を意味する模様を纏った子供の前に、犯罪者達は成す術もなく意識を手放していた。
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