第2話その魔法、防御不能につき

 砂塵が降る中、黒装束をはためかせる二人を私は観察した。

 此方の動きを寸分も見逃すまいと、微動だにしない相手を見て、私は背筋が薄ら寒くなった。

 片方は液体と化したガラスが体を包む繭のようになっており、透明なそれは、どくろを巻いた蛇に似ていた。ぼさぼさの気の抜けた黒髪と違い、濁った黄緑色の瞳は鉄板をぶち抜けそうな眼力が宿っている。ゆとりある服の上からでも、鍛錬されて引き締まった肉体が窺え、もう片方はガラスの男より更に筋骨隆々だ。むき出しになった両腕に銀の装飾品がジャラジャラと音を立てる。日焼けした肌には黒い刺青がたくさんあった。赤い瞳に赤茶けた髪。

 私は、二人の顔を見て、直感した。

 ある本と、ある新聞記事が同時に脳裏に蘇る。


 ―「現代犯罪史」子供を喰らい尽くす犯罪組織、ベラドンナ。学校や公共施設など子供の多い場所での無差別殺傷や、誘拐、監禁など、あらゆる犯行を重ねる巨大な犯罪組織。頂点の二名の魔術師は、国軍の特殊部隊に匹敵する戦闘能力があり、国際指名手配者でもある。

 ―「日刊占術新聞」、魔法学校今月に入り、五校閉鎖。犯罪組織による襲撃で今なお行方不明者多数。

 記事には、目撃者が撮影した写真が三枚載っていた。

 どれも画質が悪く、判別が難しかったが、確かにそれには映っていた。

 黒髪の男性と、日焼けした赤髪の男性が


 記憶と事実が混ざり合って、結論を導き出す。

 それはほとんど感覚だった。だが、その感覚が間違いではないことを私は分っている。後ろには崩れかけた校舎、所々陥没している地面、絶えない悲鳴、教室での出来事。

 これだけ材料が揃えば誰でも納得するだろう。

 私の目の前には、国際指名手配されている凶悪犯がいるということを。

 私は、二人には姿が見えていないアスに指示を出した。

 それが終わった後には、私の左腕が紫を基調とした禍々しい光を放つ模様に包まれた。植物が絡まったようにも、鎖が巻き付いているようにも、魔方陣が分解されたようにも見えるそれを見て、男性二人は強く地面を蹴った。

 大量のガラスが蠢きながら波の如く襲い掛かる。目の前が一瞬で透明な怪物の胎の中に変わった。窒息するのか、ガラスには仕掛けがあるのか、私は判断が出来ず、真っ先に人差し指からビー玉ほどの青い球体状の弾丸を一発繰り出した。

 ビー玉が荒波に向かって着弾した瞬間、波の真ん中から穴が開き、衝撃波が遅れてやってくる。再び、視界が元通りになり、吹き飛ばされた液体の残骸が、空中に残る。それを、芥子粒ほどの光の粒子が一斉に強く輝き爆ぜ、完膚なきまでに消し飛ばす。

 最初の弾丸の対象攻撃から、弾丸が消えた後も残る粒による空間攻撃の二段階式の魔法。相手を完膚無きまでに叩きのめすこれは、大勢の敵がいるときや、今回のように、物理攻撃が効かない液体のようなものが相手の時に、最大限の威力を発揮する。

 残滅魔法『星雫』だ。

 向こうにいる黄緑色の瞳が驚愕の色に染まる。

 私は、腰を落とし、彼に向かって『星雫』を放とうとした。が、死角からもう一人が拳を握って迫った。

 急なことに体がついて行かず、人体急所を無防備にさらしてしまった事を眼前に迫る男を見て気付いた私だが、どうすることもできない。


 まずい


 

 




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