第56話  もう来るな



梨華は夕食時の支度を始める前に、郵便受けに夕刊を取りにいった。


数枚のはがきと夕刊の間に白い封筒があった。


何も書かれていない。


なかには白い紙が入っていた。


そこには一文字。


「もうかもめちゃんには来るな」と書かれてあった。


かもめちゃんとは、娘のふみが通う幼児向けのダンス教室だ。


驚くとともに、寒気が走った。


宛名もない、差出人もない、切手も貼ってないので、郵便として届けられているのではなく、直接郵便受けにいれたのであろう。


「誰がこんなことを」


幼児教室では、自分が何となく浮いてることは分かっていた。


42歳の高齢出産で産んだので、まわりのママたちとは10歳くらい離れていたし、高校のころバスケットボールの選手だったので身長も高く、体もがっしりとしていた。


それでも、こんなことされるほど自分は自己主張も強くなく、付き合いも良いほうだと思っていた。


「別の人と間違いじゃないか」


そうも考えた。


だが、やはり自分なのだろうと考え直した。


「どうしよう」




幼児教室の先生に相談しようかも考えたが、やはり夫に言うことにした。


「気にすると相手の思う壺だぞ。これから幼稚園、小学校と続くんだから」


確かにそうだと思った。何も悪いことをしていないし、騒ぎ立てると後悔することになりそうな気がした。


次の教室のときまわりのママたちの顔をまともに見ることは出来なかった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る