第54話 やるべきことをやれ
やはりそこにいたのは先輩の広見だった。
彼は、記者として5年先輩だったが、文章が抜群に上手く、普通の記事を書く以外にも、連載を持つなど、政治部のなかでも将来を嘱望される若手のホープだ。
適わないのは、文章力だけでなく、取材力も格段の違いがある。
小さい地方新聞であるうちの新聞社は、地域密着を標榜しているので、取材対象である地方議員たちの動向、国政選挙の立候補状況など、政治ネタは重要だった。
広見は、たぶん東京の大新聞に行ってもやり手で通用する資質を持つ記者だった。
当然、平凡な記者である私にとって憧れ以外のなにものでもない。
そんな彼から会議室に呼び出されたときは、動揺が激しかった。
「菅原先生に直接当たるなんて、十年早いぞ。今はやるべきことをやれ」
菅原参議院議員は、うちの地域選出の議員だ。
中央である問題に関わったとして、全国的にも話題になっていた。
私は、地元に帰ってきた菅原議員に取材をかけることで、ちょっと自分の腕試しをしたかっただけだ。デスクにも了承はもらっていた。
「菅原先生が何か言ってきたのですか」
「別に文句なんか言ってないよ。そんなこと言うわけないだろ。あまり知らない記者が話しを聞きにくること自体だめなんだよ」
つまり政治部記者とは、いかに政治家に認知されるかで評価されるのかと思った。
広見先輩は、取材力というより、政治家に食い込む力があるのだと分かった。
人に好意を持ってもらい、本音を引き出すのは取材力のひとつでもある。
しかし、小さいながらもジャーナリズムの片隅で頑張っているうちの新聞社の政治記者がそれでいいのかという考えも頭をよぎっていた。
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