第52話 おやじのやつめ







臨は怒っていた。


「おやじのやつめ」


まったく臨の父親はどうしようもなく遊び人だった。


六本木のレストランで偶然となりのテーブルにいた女子大生に声をかけ、食事をごちそうしてやり、一緒に写真を撮り、その写真が私にメールで送られてきたのだ。


「あっ、おやじじゃない」


友人には「わたしの父親だよ」なんて言えやしない。


友人のメールには


「親切でちょっとカッコイイおじさまに食事おごられたの」と書かれていた。


父親はたしかにダンディで、50歳代には見えないスタイリッシュさであったが、そんなに女好きだったとは知らなかった。


よりによって娘の友人をナンパするとは。


家に帰ってこのことを私の口から暴露されたらどんな顔をするのだろう。


母親はそうとうに気が強い。


怒りのあまり家をたたき出すかも知れない。


家庭崩壊を防ぐためにこのことは黙っていようか、しかし、黙っていて友人と変な関係になっても困る。


だけど、父親にだけこのことを話すというのも、なんだかイヤだ。


「どうしよう、まったくおやじのやつ許せない」


怒りが爆発しそうだった。


その日は、起きている間に父親は帰って来なかった。


「パパは遅かったの?」


「そうよ朝の4時だったわよ。まだぐっすりじゃない」


その日も次の日も父親と顔は合わせなかった。


1週間後、やっとふたりきりになる時間があった。


「パパとんでもないことしてくれたわね」


父親のきょとんとした顔が印象的だった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る