第40話  入っていいよ

彼女の住むマンションのエレベーターに乗りながら、


「帰ってよ。もう終わりなんだから」


そんなこと言われそうな気がしていた。


昨日、会社が終わったあと、やっと会えた。


久しぶりに入ったレストランで、


「このごろわたしたちのこと深く考えるんだ」


「何を」


「だってわたし来年は就職でしょ。そうなったら今よりもっと会えなくなるんじゃないかって」


「まだ分かんないじゃない」


「きっとそうなる気がする」


「そうかなあ」


「会えなければ、気持ちが離れるんじゃないかって」


「ちょっと待ってくれよ。そんな可能性だけの話をしたって仕方ないじゃない」


「可能性があるってことはありえる話だってことでしょ」


「それはそうだけどさ、まさかそれで分かれようなんてことまで考えてるんじゃないよね」


「少しは考えたよ」


「それはないよ」


「学生から社会人になるって大変化だもんね」


「そこを乗り切ってくれよ」


それ以上別れるのどうのこうのとは彼女の口からは出なかった。


取り留めのない話で昨日は終わった。


そして今日、心配で彼女の家まで来てしまった。


ピンポン。


「はい」


「俺だよ」


「入っていいよ」




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