第37話 言ったじゃない

「この前言ってたじゃないの」


美由紀が怒ったように言った。


「そんなこと言ったっけ」


「言ったわよ」


小田原城に連れて行くという約束をもう2年も果たしていない。


彼女も忙しかった。


「今の仕事が落ち着くまでいけないなぁ」


「だからこの前、今は大丈夫なのかって聞いたじゃない」


もう歳のせいか、すこし痴呆が入っているのか、母にそこまで言った記憶はない。


「もうあーちゃんの言うことは信用できないね」


「そこまで言わなくてもいいじゃない」


このままでは、喧嘩になりそうだった。


「だから仕事が落ち着くまでって言ってるでしょ」


「そういって何年になると思ってるのよ」


けっこう、頭はしっかりしてるじゃない。


これは、今度こそ生半可な答え方をすると、本当に喧嘩になってしまう。


「じゃあ、夏までにはきっとね」


「本当に言ったわよね、本当よ」


「出来るだけ努力します」


やっと母の顔に笑顔がみえた。


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