第12話 超ショート 一度言ったことは取り消すものさ





「僕が担当じゃなかったんですか」


宮田は、上司の渡邊に食い下がった。


東京北部の担当になることは以前から希望していたことだし、そのことを上司である渡邊に話すと、


「よし、分かった。本社に掛け合ってやる」


しばらくたってから、


「本社から承諾をもらったよ」


だから、今度の異動で必ず東京に戻れるものだと思っていた。


「本社から良い返事をもらったって言いましたよね」


「それは本当さ、でもよくよく考えたらお前にそこまでやってやる義理はないからな。

一度言ったことは取り消すものさ」


ひどい人間だと思った。


「あんまりですよ。ちゃんとあなたのいうとおり私の営業で稼いだ数字もあなたにあげたじゃないですか」


「それは感謝している。だが、君のミスを隠したのも俺だよ」


この人は、いったい何が目的なんだろう。


義理が無いっていって嘘のようなものをつくくらいなら他の地方に飛ばせが良いじゃないか。


「君のことは評価しているし、もう少しこちらで力を貸してほしいのさ」


もっと単純な人かと思っていたが、彼は心に闇を持っている人なんじゃないか。


本当は怖い人なんじゃないか。


しかし、本社の決めたことを覆す力なんて自分には無い。


どうするんだという漠然とした不安が彼の心に広がっていった。




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