第10話 超ショート きっちりやれよ!
「きっちりやったらどうだ」
事務所の責任者が松井に怒鳴っていた。
今日の取材先でうまく話しが聞けなかったからだ。
「俺たちは話を聞けて、Vを回してなんぼなんだぞ」
Vを回すとはVTR、つまりビデオカメラを回して、オンエアの承認を取るまでが仕事だと言いたいのだ。
新聞や雑誌だったら取材し話を聞いただけでも記事は書ける。
でも、放送は違う。記者が話しを聞いただけでは放送用素材として成立しない。ちゃんとカメラに撮影し、放送しても良いのかという承諾を取らなければいけないのだ。そこが、テレビ報道の難しいところだ。
彼は、報道専門の制作会社のディレクターだ。
取材対象者は、自分を売り込もうという奴以外はたいてい取材で自分を写されることを嫌う。
話しても良いが、顔はNGということが多い。だから顔は写さないようにとか、遠くから人物はボケて写すとかの工夫をする。
しかし、それでもダメということもある。そもそも取材を断られることのほうが多いのだ。
それでも、取材に行った以上何かを持って帰らなければ仕事は成立しない。
「相手があることだから仕方ないよ」
とは絶対に言ってくれない。
「だましてでも撮って来いとは言わないが、それくらいの覚悟でやれ」
それがいつもプロデューサーから言われること。
「結局だましても良いってことですか」
と、つい言いたくなる。
でも仕方ない。自分で選んだ仕事なんだから。
嫌がる相手を拝み倒して話を聞かなくてはならない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます