第5話超ショート ちゃんと謝ってよ


「なんで遅れたの?」



菜々美は口をとがらせていた。


「ゼミの仲間に質問されてさ。丁寧に説明してたら時間を忘れちゃって」


「だったら、ラインくらいしなさいよ」


「相手が必死だったから。今度のグループワークの責任者である俺が引っ張ってきたからどうしても熱くなっちゃって」


「それは分かるけど、うちのお母さんもあなたに会うのを楽しみに仕事を早く終わらせて待ったんだから」


公的機関で働いている母親は、娘のボーイフレンドと娘と三人で食事をすることが何よりもストレス発散になると思っているらしい。


「俺は癒し系動物かよ」


と、思ったりしたこともあった。


でも、彼女たち親子は、二卵性親子というくらい仲が良く、彼女も母親を誰よりも信頼しているのが彼には微笑ましかった。


彼も三人で食事するのは嫌いではなかった。第一、学生の身分じゃあとても行けないレストランで食事するのは楽しみでもある。


「遅れたことは悪かったけど・・・・」


「なによ」


「こちらの事情も分かってよ、と」


「分かんない。うちのおかあさんは分かるかもしれないけど、わたしは分からない」


「遊んでていたわけじゃないんだから」


菜々美が心配するのは、ここで緩めるとまた同じ理由で遅れるかも知れない。


遅れて来るのはまだしも、やって来ないこともあるかも知れない。


もしかして彼は三人で会うことが嫌になったのではないか。


だから、理由はどうあれ許してはいけない。


「ちゃんと謝ってよ」


強い口調で言ってしまった。


「ごめんなさい。今度からどうしても遅れるとかきは必ず連絡する」


菜々美の1メートル後ろからとぼとぼついていった。


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