染み入る

 テーマは「雨に想いを寄せて」、ライトーン自主企画への参加作品です。


      *




 眠る彼女の頬に、この雨は届くのだろうか。


 あの日、化粧をしている彼女の背中を黙って眺めていた。

 窓の外で降り出した雨が鏡に映りこんでいる。

 硝子を叩く音が次第に大きくなっていった。

 彼女の手は止まらない。

 もうすぐ、私の知らない美しい女性が現れるだろう。

 静かに彼女の肩へ両手を置くと、鏡の中で目が合った。



 背中を見せる君が目を覚ます気配はない。

 私は流し台で両手を洗う。

 もう一度、君に微笑みかけて欲しかった。

 でも安心して。

 君の優しい笑顔も私が永遠とわに切り取ったから。


 あのときの彼女の、鏡の中で見た美しい眼差しと同じように。




 不規則なBGMを傘が奏で続けるなか、重いスコップを引きずる。


 私が見下ろす靴の下にも雨は染み入る。




 眠る君の頬に、この雨は届かない。




               ― 了 ―

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