新たなる受難③
(ああ、もう。今日もさっそくやっちゃった……)
ちゃんとしようと思えば思うほど、如月の前に出ると失敗してしまう。桃香は自己嫌悪に陥りながら、社内便の封筒に封をした。
(……バイトではけっこうできるほうだったんだけどな)
大学二年の頃から働いていたコンビニでは、ちょっとしたことでクレームを受けるなどそれなりにつらいこともあったが、四年になる頃には店長から頼られる存在になっていた。新人の面倒や店長の補佐的な業務もこなすようになっていて、就活のために辞めると伝えたときは、残念がられたほどだ。
(こんなにへまばかりしてなかったし……)
同年代のバイトも多く、和気あいあいと仕事をしていたあの頃が懐かしい。
******
昼休みになると、桃香は急いで外へ出た。昨日ぶつかってつぶしてしまったシュークリームの替えを買おうと、徒歩十五分程度の位置にある菓子店へ速足で向かう。
その日はよく晴れていて、十月半ばとはいえ店に着く頃には桃香は全身にしっとりと汗をかいていた。が、店が見えてくるにつれ長蛇の列ができているのが見えてきて、愕然とする。自然と足が止まり、ハンカチで額を押さえながら逡巡した。
(こんなに混んでるなんて……。買えるまでどのくらいかかるのかな)
メディアでさかんに紹介されているから、少しは並ぶだろうと思っていたのだが、その予想をはるかに上回る人気ぶりだ。
(どうしよう。これに並んでいたら、お昼を食べる時間がなくなっちゃうかも)
昼食を抜き、空腹のために集中力を欠いてまたヘマをしてしまうことのほうが恐ろしい。
(でも……)
祐太郎は残業している人に喜んでもらいたいという思いで、わざわざこの列に並んで買ったのだろう。なのに自分のドジのせいで、潰してしまった。
それにゆうべ家族と分け合って食べたシュークリームは、話題になるのも十分納得できるおいしさで、形はどうあれもらったままでは申しわけない気がする。
(エナジーバーで乗り切ればいっか。二本も食べればなんとかいけるでしょ)
そう考え、桃香は長い列の最後尾に並んだのだった。
******
晴れてシュークリームを十個ゲットした桃香は、会社近くのコンビニへと急いで向かった。
(やだ、あと二十五分しかない……)
会社に戻ったら残り十分少々。エナジーバーを二本食べて、お茶を飲んで、歯を磨いたら時間ぎりぎりだ。如月はいつも少しオーバーするから、彼女より先に席につけるとは思う。
(シュークリームを渡すのは帰りでいいかな。そうすれば今日残業してる人たちに配ってもらえるだろうし)
シュークリームは給湯室の冷蔵庫に入れておいて、仕事が終わったらすぐに渡しに行けばいい。が、祐太郎の会社が何階にあるのかまでは、まだ知らなかった。
――あとでトイレに行くふりをして、祐太郎にメッセージを送ろう。
頭の中で段取りを決めながら、桃香はさらに足を速めた。
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