第35話 迷い

 父の手紙は10年以上も前に書かれたものだった。


父の手紙に書かれていた「酷いこと」がどんなことかは何となく想像ができた。


しかし、それは僕にとっては意外なことだった。


父はいつも穏やかで、余程のことがない限りは怒らなかった。


実際、僕は父に怒鳴られたり叩かれたりしたことが1度もなかった。


悪いことをした時も、まずは僕の話を聞いた上で冷静に諭した。


だから僕は父を尊敬していた。


でも兄にとって、父にされたことはトラウマになっているのかもしれない。


おそらく兄はこの手紙の存在を知らないだろう。


果たして僕は、この手紙を兄に渡すべきだろうか。



僕は手紙を再びアルバムに挟んで閉じた。


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