第32話 不思議な記憶

 佐藤由紀子は言った。


「真彩があなたに会いたいって言ってるそうなの。」


僕は驚いた。

もちろん僕は綾香さんにも真彩にも会ったことがない。


兄が僕の存在を彼女たちに教えたのだろうか。


由紀子は話を続けた。


「そもそも綾香はあなたの存在を知らなかったの。

ミツルの本名も知らなかったくらいだし、ましてや弟がいるなんて知る術はなかった。

先日、ミツルの面会に行った時にミツルから教えてもらったんだと思ってたんだけど、、、。

真彩があなたに会いたいって言いはじめたのはミツルの面会よりも、ずっと前からだそうなの。

しかも、はっきりと言ったそうよ。

『シゲルに会いたい。』って。

綾香は『シゲル』って誰?て聞いたそうなの。

そうしたら、、、。」


僕は彼女の言葉を待った。


「『シゲルはお父さんの弟。』って言ったそうなの。」


僕は驚きで言葉が出なかった。


「私も驚いたわ。

真彩は言葉が出たのも早かったみたいだし、今も真彩の年齢にしては話すのが上手みたいなんだけど、でも何故あなたの名前を知っているのか説明がつかないのよ。」


僕は確信した。

やはり『彩』は『真彩』だったのだ。


僕は言った。


「僕も真彩に会いたいです。」


すると、彼女は僕に携帯電話の番号が書かれたメモを差し出した。


「綾香の番号よ。

是非、会いに行って。」


僕は、その番号が書かれたメモをしっかりと手帳のポケットにしまった。

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