第27話 未来
僕は裏切り者だろうか。
塗り絵に地図が浮かび上がった時に思ったのだ。
僕一人では何も出来ないと。
僕が1人で迷っている間に兄は死んでしまうのではないか、その恐怖がシゲルの決意を固めた。
シゲルは警察に全てを打ち明けたのだ。
今まで見聞きした全てを。
もちろん「彩」のことは自分の心の中だけにしまっておいた。
これからもそのつもりだ。
僕の告白によって、まるでドミノ倒しのように次々と秘密が暴かれていった。
兄は逮捕された。
産婦人科医の佐藤由紀子と闇医者の野木も逮捕され、彼女たちがかくまっていた妊婦と親子の存在は世間に知れ渡ることとなった。
もちろん、その中に綾香もいた。
ニュースやSNSは、その話題で持ちきりになり、協明私立病院は閉鎖を余儀なくされた。
一時は人々の好奇心の餌食となったこの事件だが時が経つにつれ、それも落ち着いた。
また、この事件をきっかけに様々な動きが見られた。
若年層の妊娠出産について。
人工中絶手術のあり方について。
性教育の見直しについて。
女性の人権について。
子供の人権について。
虐待について。
薬物について。
全ての人が尊重される社会へ向けての取り組みについて。
そして、命について。
社会全体があらゆる角度から考え、見直そうと動き出したのである。
もちろん事件の風化に伴い、人々の意識も再び低下していくだろう。
しかし、全ては無駄ではなかったはずだ。
あれから兄ちゃんとは、まだ会っていない。
果たして、僕は兄ちゃんに会ってもらえるのだろうか。
そして、今日も僕は塗り絵をする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます