第16話 秘密の部屋

 その白衣の女性は僕に名刺を差し出して言った。


「あなたのことは知ってるわ。本当にミツルとそっくりなのね。」


そう言う彼女から手渡された名刺の名前を確認すると、僕はそれをバックの内ポケットにしまった。


僕が何も言わずにいると、佐藤由紀子が言った。


「少し話せるかしら?」


僕が頷くと佐藤由紀子は「ついてきて。」と言って歩き出した。


100mほど歩いたところに “ 関係者以外立ち入り禁止 ” と書かれたドアがあり、佐藤由紀子はポケットから鍵を取り出すと、そのドアを開けた。そこには地下に繋がる階段があった。


彼女は手慣れた手つきで壁にある照明スイッチを入れ、内側からドアをロックした。


青白い明かりが辺りを照らす。


彼女と僕は無言で階段を降りた。


階段を降りてすぐのところに、また扉があった。

そこにも鍵がかけられていたが佐藤由紀子はすぐに解錠した。やはり手慣れていた。


彼女が中に入り照明のスイッチをつけると、そこは6畳ほどの空間だった。


僕が中に入ると彼女はやはり内側からロックした。


机や椅子などは置かれていなかったが、大きな古いポスターが壁に貼られていた。


ずいぶん古いポスターで、大御所と言われている役者の若い頃の写真がアップになったものだ。


彼女が、そのポスターを躊躇なく剥がすと小さなドアが現れた。


僕は驚愕とまではいかないが、かなり驚いた。


少し体の大きな人が入るのに苦労するような入り口だ。


彼女はそのドアの鍵もなんなく解錠して、スルリと足の方から入って行った。


彼女はすぐに照明をつけた。


僕が驚いて立ち尽くしていると、そちらの空間から「どうぞ」と声を掛けられた。


その声は反響していた。


僕は恐る恐る、彼女がしたように足から入っていった。


僕が入ってしまうと、やはり彼女は内側からロックをした。


そこは窓がないだけで、普通の応接室のように見えた。

広さは8畳ほどだろうか。

天井までの高さも、ごく普通の部屋と変わらない。


グレーのツイード生地の1人掛けソファーが木製のテーブルを挟むように向かい合って設置され、壁一面を木製の大きな書類棚が占拠している。

もちろん、その硝子扉にも鍵穴がついており当然施錠されているのだろうと思った。


果たしてこれらの家具はどのようにして、ここに運び込まれたのだろう。


僕らが入ってきたドアから搬入するのは不可能だ。


僕があぜんとしていると、佐藤由紀子が言った。


「ソファーに掛けてちょうだい。」


先程までピリピリとした空気を纏っていた彼女は、今では柔らかい笑顔を僕に向けていた。


僕がソファーに座ると彼女も向かい側に座った。


そして言った。



「これからあなたは私達と秘密を共有するのよ。」






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