第2話

 私と田中さんは夕飯を食べ終えた。

「じゃ、洗っとくよ」

 田中さんは私が使った食器を持っていこうとした。

「皿洗いくらい手伝いますよ」

 おいしいご飯を頂いたのだ、これくらいは最低限のマナーだと思った。

「へーー、ありがとう」

 何か含んでいる言い方だった。

「なんですか、その言い方?」

「いや、少し意外だったから」

「意外?」

「うん。一応マナーはあるんだなって」

 どうやら私はマナーも分からない奴だと思われていたらしい。

「はぁ、とりあえず自分が使った食器は洗いますよ」

 私と田中さんはキッチンへ移動し、食器を洗い始めた。

 私はここへ来ていくつか気になる点があったので、皿を洗いながら質問することにした。

「ここって田中さんの両親の家ですよね?」

「うん」

「両親は介護施設にいるんですよね。だとしたら何故電気が通ってるんですか?」

「両親は今月の始めごろに介護施設に行ったんだ。だから、掃除や片付けをするって理由で、今月いっぱいは電気を使えるようにしてもらってるの」

「分かりました。では、料理の材料は持ち込んでいたんですか?」

「野菜は持ち込み。青果コーナーから出るときに買っておいたんだ。それ以外は冷蔵庫にあったものを使ったってところかな」

 つまり、野菜以外のものは冷蔵庫に余っていたものを使ったということだ。

「余り物を使ったチャーハンってあんなに美味しいんですね」

「いや、私が作るから美味しかったんだよ」

 私は無言で、最後の茶碗を洗った。自分が使った食器は全て洗い終えたので、調理器具も洗うことにした。

「あ、フライパン洗っときますね」

「ありがとう……」

 少しへこませたみたいだった。

「そうですね。田中さんが作るから美味しかったんですね」

「当たり前よ!」

 田中さんは喜怒哀楽がしっかりしている。それに比べ、私の父はまったく感情を見せないし、表情は常に陰っている。母への仕打ちも陰惨で、ただの屑としか思えない。

「父親が陰惨で、屑?」

 気づかぬうちに声に出していたみたいだ。

「なんでもないですよ」

「ふーん、ちょっと気になるね」

「なんでもないって言ってるんですが」

 これを言及されるのは面倒だったので、少し語気を荒めた。

「まあ、そうカリカリしないで。ちょっとゲームやらない?」

「ゲーム?」

「そう。ダウトって知ってる?」

 小さい頃、友達とやった覚えがあった。

「あー、知ってますよ。でも、二人でやるのは無理でしょ」

 ダウトは最低でも三人いないとできないゲームなのだ。

「だから、カード二十枚抜いて、お互い十六枚で勝負するの」

「それなら、まあ」

「それで私が勝てば、さっきの、父親が屑で陰惨…について詳しく説明してもらう」

「田中さんが負けた場合どうするんですか」

「それはあなたが決めてくれればいいよ。あまりに無茶なのは無しで」

 一分ほど目を瞑り、下を向いて考えた。

「では、何故私をここに連れてきたのか、説明してもらうというのは」

「いいよ」

 即答だった。

「だったらその勝負乗ります」

 田中さんは笑顔で頷き、ポケットからトランプが入っているプラスチックのケースを取り出した。

「いつもトランプを携帯してるんですか」

「多分、ダウトすることになるだろうから持ってただけだよ」

 ダウトで勝負することは決めていたようだ。


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