申し子、改めてごあいさつ


「――――ところでユウリ。あなた、もしかして申し子かしら?」


 あまりに突然で「え、なんで?!」と思った時点で対応が遅れた。

 それを見てヴァンヌ先生とミライヤは顔を見合わせて苦笑した。


「ああ、そうでも違ってても全然構わないのよ。光の申し子を悪用するつもりもないわ。それなら基礎の基礎から教えることになるかもっていう話。申し子の特徴である黒目黒髪だし、ミライヤからいろいろ話を聞いてもしかしたらと思っただけなのよ」


「師匠、申し子の話に詳しいですよね~。光の申し子って、今どき、伝説の物語の中の人ですよぅ? 年がしれちゃいますよ~?」


「失礼ね。アタシの師匠が詳しかったのよ。師匠の時代は、まだ前の時代の光の申し子が生きていたんだから。何人もいたらしいわよ」


 ――――ああ、大昔の話だとあたしも思っていたけど……。そうよね、そんなに昔のことじゃないんだよね……。


「えーと……その……あたしは…………」


「まーったく、師匠ときたら気遣いというものが足りないんですよぅ~。知られたら何されるかわからないからバレないようにって、過保護な婚約者から言われてるに決まってるじゃないですか」


 ふたりともあたしが申し子であることを前提に話している。

 まぁ、そうよね……。聞かれた時にちゃんと対応できなかったので、わかるわよね。

 そしてなんだか、話がおかしな方にいってるような…………。


「あら、そうよ。ユウリ、婚約者がいるんだったわね?」


「師匠、近衛団の元団長ですよ。デライト子爵」


「元団長…………? ああっ! 国王陛下の獅子じゃないの?! うらやましいわ!! 遠くからしか見たことがないけど、すごかったわ! 筋肉! 近くで見るとやっぱりすごいんでしょ?! 筋肉?! アタシも触りたいわ!!」


 そんなあたしがいつも触っているような言われ方、心外なんですけど!


「いえ、あの、まだ婚約者では……」


「まだってことは、そのうち婚約者になる自覚ができたんですね?」


 ミライヤがにんまりと笑った。

 ああっ、ヤブヘビってヤツよ!

 頬を押さえたあたしに、ヴァンヌ先生が笑った。


「こちらの世界に慣れていなければわからないこともあるわよね。そのあたりも相談にのるわよ」


 これは、申し子であることを知ってもらうべき人には知ってもらって、いろいろ教えてもらう時期が来たのだと思う。

 いつまでも隠れて、この世界のお客様でいるわけにはいかない。

 あたしは心を決めた。


「――――実は、違う世界から来ました。ミライヤ、黙っていてごめんね。ヴァンヌ先生、いろいろ教えてください。よろしくお願いします」


 ぺこりとおじぎをすると、師匠とその師匠が、任せておけというふうにニッと笑った。






 それから治癒薬の調合についての説明を少しだけ聞いた。

 薬草にはそれぞれ単純な性質を持っていてそれらの組み合わせで、効果が出るのだという。

 たしかに回復液も、効果を底上げするブルムと、魔力を多く含んでいるアバーブの葉と、体の回復力を上げるレイジエの根の組み合わせで作っている。


 治癒薬も作り方自体は同じで、有名な基本的な組み合わせはあるけれども、正しい答えがないということ。

 作り手のセンスでいろいろな治癒薬が作られているらしい。

 そして、ほとんどが部分的な薬のようだった。ケガ用とか胃薬とか、効能がきちんと決まっているヤツ。


 異世界ファンタジーに夢見ていたポーション飲んで全回復! みたいなのもあるにはあるけれども、すごくお高く簡単には手に入らないのだということだった。

 それでも、憧れはあるわよね。全回復エリクサーとか。


「――――そうねぇ、やっぱりみんな、最上級治癒液とか作ってみたいと思うのよねぇ。でも、薬草の選別から組み合わせから全部繊細な仕事で、腕の良いベテランじゃないと作れないから。それまではコツコツ実用的な調合液ポーションを作っていくしかないのよね」


「上級魔法に[治癒]がありますからねぇ。どうしても調合液が必要っていう場面は、戦いの場に限られてますし。お高いこともあって需要があるものじゃないんですよ。無理に作らなくてもいいレベルで」


「そうなのね……。なんでも効く薬ってすごい便利! と思ってたのに」


「なんでもってわけにはいかないのよねぇ。上級治癒薬とかランクがある治癒薬もケガ特効なの。病気には効かないのよ。でも最上級ともなると、ケガで死ぬ寸前でも命が繋がるから、すごいものなのよ。魔法と違って失敗しないし」


 なるほど、たしかに魔法だと失敗がある。その一回の失敗で間に合わなくなって亡くなることもあるのかもしれない。

 そういうことなら調合液で九死に一生を得ることもありそう。


「だからね、ユウリ。あなたは実用的な治癒液を作るといいわ。ミライヤから聞いた話だと、効能がいいものを作るんですって?」


「ええと……ちょっと回復量が多い回復液が作れましたけど……」


「効く部分が決まっている薬の、効き目がいいものが、治癒液としては一番必要なものだと思うわ。ここからは、相談というかお願いなんだけど――――そのへんを、アタシに研究させてくれないかしら?」


「え? ヴァンヌ先生が治癒液の研究をする――――ということですか?」


「そう。ユウリに作らせる治癒液の研究ね」


 ――――!! もしやこれが申し子だと知られて能力を搾取されるってことでは?!


『クー!!(あくよう!!)』


「あら、シュカちゃんに怒られたわ。違うのよ? 困っている人たちのために研究させてもらえないかなと思って~?」


「だいじょうぶですよ、シュカ。うちの師匠は無理強いはしないですから」


 そう言って、ミライヤはあたしの肩に乗っているシュカを撫でた。

 うん、シュカも怒ってるフリしているだけで、ホントはそんなに怒ってない。毛が逆立ってないし。


 ――――治癒薬調合のとっかかりに、ちょっとやってみようかな……?


 そう思っていると、ヴァンヌ先生は盛大にニッコリと笑った。


「とりあえず、過保護な婚約者様に挨拶させてもらえるかしら? それから説明させてちょうだい。魔素が多い植物の話も聞いたわよ。その生えている現場も見たいわ」


 そんなわけで、ヴァンヌ先生とミライヤをデライト領へとお招きすることになったのだった。








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