申し子、大変なものを作り出す


 国土事象局の三日間にわたって行われた調査は終わって、前領主邸はのんびりとした雰囲気に戻った。

 ただ、魔素の数値が高いらしく、また一週間後に調査が来ることになったのだそうだ。

 あの効果がやたら高い薬草とも関係があるのだろう。

 そういう魔素と植物の研究とかってどこの機関でやっているんだろう。

 ミライヤが師匠に話を聞いてくるって言ってたから、調合師の人が研究しているのかな。

 国土事象局では、その地域の魔素や事象についてを調べる部署みたいだから、管轄が少し違うのかもしれない。

 来週もお供させてもらうことになっているし、その辺を聞いてみようかな。


 ミライヤと調合液の話をしたせいか、すっかり調合の気分になったので夕食の時間まで新しい調合液を作ってみることにした。

 まだ使ったことがないムグモの葉を取り出すと、シュカが鼻をふんふんとさせている。


『クー、ククー(この葉っぱ、緑のおもちのにおいなの)』


「緑のおもち……ああ、草餅ね!」


 草餅ってよもぎの葉よね。よもぎの葉をちゃんと見たことがないからこの葉がそうなのかわからないけど、香りはたしかに似ている気がする。


 そういえば前の職場のお姉さんたちの間で、よもぎ茶が流行ったことがあったっけ。「アンチエイジング、アンチエイジング」と呪文を唱えながら飲んでいたわね。

 あたしもいただいたけど、草餅みたいないい香りで、ちょっと苦いけどほんのり甘さもあって美味しかった。

 もしこれがよもぎなら、アンチエイジング効果があるのかも。


 スマホでダグってみると、出てきたよもぎの画像は、乾燥させる前の葉に似ていた。よく見ると葉の形がちょっと違ったけれども、裏が白いところなんかも似ている。

 ついでによもぎの効能を調べてみると、体を温める作用や血行がよくなる作用、鎮痛作用や抗酸化効果による老化予防と盛りだくさんだった。

 よもぎっていろんな効用があるのね。草餅に入って美味しいだけじゃないんだ。


 ムグモの鑑定をしてみると、役に立つような立たないような微妙な情報が半透明の画面に表示されている。


 |ムグモ

 |食用可(要加熱)

 |体の調子を整える:超大


 でも、ミライヤの言うとおり、すごく効きそうな気配はある。

 とりあえず、回復薬作ってみようかな。


『森のしずく』のレシピで普通に作る途中に、ムグモの葉を少量まぜてみる。立ち上る香りは、うん、ちょっと甘いし、緑のさわやかな感じ。


『クー(いいにおいなのー)』


「ホントね。おいしそう」


 ああ、草餅とか草団子が食べたいなぁ……。

 郷愁にかられながら、ぐーるぐーると鍋をかき混ぜて魔力を入れていく。魔力以外に募る思いも混ざっているかもしれない。


 出来上がった液をサーバーに入れて、注ぎ口から水晶のレードルに少量入れる。そして機能性能計量晶へかざすと、ヤバイ代物ができていた……。


 |魔量回復 性能:8

 |疲労回復 性能:8

 |特効:美味 体を温める(中) 鎮痛作用(中) 安眠(中) 美肌(小) 老化予防(小)


 こんな疲労回復の数値って見たことないんだけど?!

 それにこの特効の多さ! 性能が壊れてる!! 大変なものを作りだしてしまったかもしれないわ……。

 シュカも味見がしたいと言うので、お皿と小さいグラスへ注ぐ。

 大きな期待を込めて、ほんのり緑色の液体をくいっと飲んだ。


「――――うぐふっ!!」


『――――ウギュッ!!』


 マズっ!!!!!!!!

 暴力的に衝撃的にエグニガマズイんだけど!!!!!!!!

 口いっぱいに広がる苦味と青臭さがのどから鼻に抜けて得も言われぬ味わいよ!!

 特効美味の意味は?! っていうか、その特効が付いて、この味ってこと?!

 シュカがケフッケフッとむせている。


「ごめん、シュカ! お水、お水」


 お皿に[清浄アクリーン]の魔法をかけて、[創水マワター]で水を出す。

 勢いよく水を飲むシュカの背中をなでているうちに、体が温かくなってきたのがわかった。

 あれ……右の肩のコリも軽くなった……?


『クー!(ポカポカしてきたの!)』


 そう言うシュカの毛もなんだかふわっとしている。美肌……美毛効果?


「効き目はちゃんとあるのね……。しかも即効性が高いし。でもこの味は調合液ポーションとしてダメな気がする……」


『クー……』


 なまじ性能がいいだけに、悔しいなぁ。


 もう一度ダグってみると、よもぎは食用にするのなら春先の若い葉か、育ってしまったものなら葉先の柔らかいところを、蒸して使うのだそうだ。

 このムグモという植物もそうやって使えばよかったのかもしれないなぁ。

 育ったものは、お風呂などに入れるのがよいとも書いてあった。


 ――――お風呂! それやってみよう!


 ありがたいことに、あたしの部屋にはお風呂がついているから試せる。

 近衛の宿舎のシャワーでも十分だったんだけどね。日本人の血がやっぱり浴槽に浸かりたいと騒ぐのよ。


 そして夕食後のバスタイム。

 小瓶ひとつ分をお湯に混ぜて、シュカといっしょに入ってみた。

 すると、一日分の警備の疲れがすっきりと取れ、手足の先までポカポカ温かが長続きし、お肌もツルツル神獣の毛もツヤツヤの素晴らしい入浴剤だったのでございました―――――!





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