申し子、調合師たちの秘密の会合


 ミライヤを[転移]で店まで送って行き、あたしも国土事象局の人たちより一足先に前領主邸へ戻ることにした。明日も仕事だし、その前に薬草の処理をしたいし。

 レオさんが[転移]で連れて帰ってくれるって話になって「護衛だからいっしょに戻るぞ」っていい笑顔していたけど、現地に残るアルバート補佐には「残っている仕事を片付けるんですよね? 素晴らしい心がけです。ユウリ様も見直しますね」って釘を刺されてちょっとしょんぼりしてたわ。

 あたしの名前出さないでいただきたいのですが……。別にあの、レオさんが仕事してなくてもキライにならないですよ……?

 せめてお茶の時に、領主様の好きなものを出してあげようと思う。


 そういうわけで、護衛で領主のレオさんはとなりの部屋でお仕事。

 あたしも採りたて新鮮薬草を処理してしまうことにする。

 ダイニングテーブルに種類ごとに分けて乗せて[洗浄][乾燥]とかけていくと、椅子に座っていたシュカが『(いつもより魔がこいの!)』と喜んでいた。

 今回はフレッシュで使ってもいいかなとも思ったんだけど、結局ドライにした。なんとなくドライの方がぎゅっと濃くなるような気がするのよ。

 使う分だけ残してあとは魔法鞄へ。


 ――――あっ! どうせ魔法鞄に入れるなら種類別に分けてくれるんだから、分けずにまとめて洗って乾燥しちゃえばよかったんだ。

 魔法鞄さん便利すぎてなかなか慣れないわ……。


 大鍋を用意して[創水]の魔法で出したきれいな水を入れていく。ブルムの葉はさっき採ってきたもので、アバーブの葉と薄切りにしたレイジエの根は魔法鞄から出したもの。

 それらをキッチンに用意されていたスケールできっちり量ってから、鍋へ入れる。このスケール何気に0.01まで量れるモードがあって高性能なの。

 今回は薬草が少し特殊だから、とりあえず普通の『森のしずく』を作ることにした。

 コトコトと煮込んで魔力を込めて(いまだによくわかってなくて、なんとなく力を入れてレードル握りしめているだけだけど)。し器付きの調合液ポーションサーバーへ移していく。


 ここへ来てから道具はすごくいいものに変わった。時短できるおかげで、衛士をしながら調合師の仕事もできている。道具ってホント大事。

 そして「うちの領の大事な調合師だから」って用意してくれたレオさんに感謝!


 |魔量回復 性能:8

 |疲労回復 性能:3

 |特効:美味


 サーバーから少量出して機能性能計量晶へかざすと、驚きの結果というかまぁそうなるでしょうねという数値が出た。

 魔力を回復するための調合液が回復液だもの。魔素を多く含んだ薬草なら回復力も上がるのもうなずける。

 この性能は魔素とか魔量とか、シュカが言うところの魔の気に左右されるということね。

 魔量が多いあたしが作れば性能は上がるし、魔素をたっぷり含んだ薬草で作ればやっぱり上がる。単純なことだった。


 こうも性能が違うと、これまでと同じ名前では売れないわよね。『森のしずくプレミアム』とでも名前を付けたいところだけど――――。

 あたしは数瞬考えて『豊穣森のしずく』という名を付け、ちょっとだけ豪華な封をしたのだった。






 次の日。

 地獄の忙しさの朝の納品口に立っているとミライヤが訪ねてきた。

 来るんじゃないかと思ってたんだ。もし来なかったら帰りに店に寄ろうと思っていたからちょうどよかった。で、お昼をいっしょに食べる約束をした。

 今日も休みだったらよかったんだけどな。一日中、調合液ポーション作りまくってミライヤともいろいろ話ができたのに。ままならないものよ。



「――――ユウリはもうアレやりました?」


 昼休みに外の休憩所に現れたミライヤは、となりに座るやいなや口を開いた。

 なるべく人がいないところを選んで座ったけど、いないわけじゃないからひそひそと。


「――――もちろん。すごかったわよ。ミライヤも?」


「ええ……。もう、すっごかったです……」


 うっとりとした調合師が二人、大変いかがわしい雰囲気の会話を繰り広げているけど、仕方がないことだ。

 予想通り、ミライヤの方も性能がよかったみたい。

 膝の上に乗っているお手柄の神獣は、聞いてもいないようで卵焼きに夢中になっている。

 本日の卵焼きはマヨネーズを少量入れたので、ちょっとだけ柔らかふんわり。

 あたしが持ってきた卵焼きと根菜多めポトフに、ミライヤが持ってきた木の実入りのパンとエビのサラダ(しっかりとマヨネーズがかかっている)を分け合うように広げれば、秋の味覚が楽しいテーブルのできあがり。


「――――で、アレなんですけど、ダンジョンができるような場所の薬草は、あんな感じなんですかねぇ」


「そうよね……地中に魔素は溜まっているってことでしょ。それを含んだ植物ってことよね」


 シュカ曰く魔の気を含んだ葉って話だから本当に魔素が多いんだろうけど、そこは言えないから遠回しにね。


「ということはですよ? あちこちのダンジョンの付近の薬草もああなりそうじゃないですか?」


「――――たしかに。そういう可能性はあるわよね」


「でも、そういう話は聞いたことがないんですよねぇ……」


 え、そうなの?

 素材の産地にもこだわるミライヤが言うならそうなのかもしれない。

 同じ素材でもいくつかの産地のものを揃えている『銀の鍋』の品揃えはすごいのよ。


「でも、気にしてなかっただけで、実際は差があるのかもしれませんね。ちょっと調べてみないと」


「研究熱心ね。あたしが手伝えることある?」


「ええ、そのうち出てくると思います。とりあえず、乱獲や違法採取の心配がありますのでここだけの話にしておいた方がいいと思います」


「わかった。レオさんにも伝えておく」


「はい。ワタシの方も、この情報の扱いを師匠と相談してきますねぇ」


 しばらくの間は仕事帰りに『銀の鍋』に寄ることにして、あたしたちはテーブルを彩るステキランチへと集中した。





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