申し子、衛士へ
実技の研修の後は、座学の研修だった。
レイザンブール城の警備室で、マクディ警備副隊長から城内の地図を丸暗記するところから対応の仕方やそれぞれの番の仕事などを教わる。シュカもあたしの膝の上で、真面目に話を聞いている。いっしょに働いてくれるみたいね。
「ホントなら、もうちょっと座学に時間取れたんだけど、団長が実技に時間取り過ぎるから……」
マクディ副隊長がぶつぶつと愚痴っている。
「そうなんですか? 実技の研修中も国内の地理とか、テーブルマナーも含めたマナーの勉強とか、座学的な勉強もしたから長かったのかも?」
「テーブルマナー?」
「そうなんです、ドレスコードがあるすごく高そうなお店で、デラーニ山脈の牛肉のステーキをいただいたんですよ。美味しかったなぁ……」
「……それデートだろ……絶対デート……」
「え? なんですか?」
副隊長、白目でなんかつぶやいてるけど、大丈夫かしら。
実技の研修は楽しかった。王都以外の初めての町に、レオナルド団長のご実家に、別荘みたいな領主邸。素敵だったし、驚いた。
魔法の練習もたくさんして[転移]がギリギリ使えるくらいまで上がったし。
――――それに、団長が心のこわばりをほぐしてくれた。いつからか力が入って凝っていた部分は、思えば日本にいたころからだった気がする。両親が事故で亡くなってからずっとしっかりしなきゃって気を張り詰めてた。あんな風に泣いたことなんてなかった。
思い出すと、恥ずかしいわ……。
「明日から番に就いてもらうけど、何か質問あるー?」
「早朝番に入って、4番に就くことになるんですよね?」
「そうそう、早朝4番が一番仕事が少ないから、新人はそこから始めることになってるんだわ。明日の早朝番には新人が入るのを言っておくので、時間早いけどよろしく!」
「はっ! ユウリ衛士、明日早朝4番に就く件了解!」
この国では、国軍などの戦いに討って出る職を「兵士」、自衛団や近衛団などの護って戦う職を「衛士」と呼ぶ。
なのであたしの職業はこの先しばらく「衛士」ということになる。
「……うぁぁ……立派過ぎて引くぅ……。エクレール二号……」
やろうと思えば、ちゃんとできるのよ?
嫌そうな顔のマクディ副隊長を内心でニヤニヤしながら見て、警備室を後にした。
明日からちょっと忙しくなるから、やれることはやっておかないと。
『
あとは常備菜が何種類かあると、楽よね。
青菜とポクラナッツの和え物と、根菜の炒め物と……塩味ばっかりで困る。塩、砂糖、コショウ、ワインビネガー、あとマヨネーズしかないんだもの。味付けが単調になるのは仕方がないんだけど。
『
トマトとタマネギと香辛料を煮込んで作るんだったような気がする。
山盛りトマトも売られているし。よし、トマト煮とケチャップを作ろう。
部屋に戻ってスマホでダグると、材料はトマト・タマネギ・ニンニク・塩・砂糖・コショウ・酢・ローリエで、煮込んでザルで
トマトとタマネギとニンニクは鍋に入れてから、[粉砕]の魔法を使って細かくする。おお! すごい細かくなってる! [粉砕]ってハンバーグに入れるみじん切りには向かなさそうだけど、こういうソースとかドロドロしたものにはいい感じ。
ワインビネガー以外の調味料を入れてドライのローリエをひらりと乗せたら、魔コンロで煮込む。焦がさないように時々かき混ぜながら、コトコト。
椅子に乗ったシュカは前足をテーブルに乗せて、しっぽを振っている。
(『ケチャップ? オムライスの上の赤いの?』)
「そうそう、オムライスにかかってるやつね。お米があればねぇ、オムライス食べられるんだけど」
(『ぼくね、ソーセージにつけるのもすきなの!』)
あら、いいじゃない。わかってるわねぇ。
「じゃ、夕ごはんにソーセージ焼こうか」
ハンバーグにかけてもいいし、豚肉を炒めてもいいし、肉料理と合うから活躍の機会が多いかもしれない。
そうだ、マヨネーズと混ぜればオーロラソース! クレープ生地に塗っていろいろ巻いてもいいかも。
調味料が一つ増えると、料理の幅が広がる。今度、中濃ソースにもチャレンジしてみようかな。
煮込みが終わったらワインビネガーを混ぜてできあがり。一応ザルで濾したけれども、市販のよりもざらっとしていて、トマトの味が濃い。
夜ごはんはシュカのリクエストの、[湯煮]の魔法をかけてボイルしたソーセージを、軽く[網焼]で焼き目をつけたソーセージと、夏野菜のトマト煮。どっちもパンに合って美味しかった。ワインがすっごく飲みたかったけど、明日のことを考えて我慢よ我慢……。
あと明日のお昼のお弁当も作った。お弁当箱なんてなくても、魔法鞄に入れたら大丈夫。ちょっと縁の高いオーブンウエアに入れたら、小洒落たランチプレートになった。
初出勤でちょっと緊張するから、お弁当のお楽しみを用意しておくのよ。これでがんばれるはず! いや、がんばらなきゃ!
寝る前にステータス確認をしておく。
([
◇ステータス◇===============
【名前】ユウリ・フジカワ 【年齢】26
【種族】人 【状態】正常
【職業】
【称号】申し子[白狐の
【賞罰】精勤賞
◇アビリティ◇===============
【生命】2400/2400
【魔量】50848/50848
【筋力】54 【知力】87
【敏捷】93 【器用】89
【スキル】
体術 65 棒術 91 魔法 62
料理 93 調合 86
【特殊スキル】
鑑定[食物]41 調教[神使]100
申し子の言語辞典 申し子の鞄 四大元素の種
シルフィードの羽根 シルフィードの指
サラマンダーのしっぽ
◇口座残高◇================
386500 レト
魔法は結構上がったし、他のも少しずつ上がってる。元のスキル値が低いものは上がりやすいし、高くなるとなかなか上がらない。
棒術のスキルに比べて、体術のスキルが低いのがちょっと気になるような。警備やるならやっぱり体術も上げた方がいいのかしらね。誰かに相談してみようかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。