申し子、マヨわせる


 レオナルド団長が出ている間に、ささっと料理を進める。

 なんせ日本では忙しく働いてたから、あたしの作るものは手抜き上等、すぐに作れるちゃちゃっとテキトーおつまみばっかりよ。


 あ、そういえば、気軽にごはんに誘っちゃったけど、この世界的によかったのかな。

 女の人から誘うのははしたないとかないかしら。

 それに奥様とか恋人とかに嫌がられたり? でも、ほら、もしかしたらおひとりさまの可能性もあるし、そこはなかなか聞きづらいデリケートな話よ……。

 まぁその辺は、この国の人の団長の判断におまかせするってことでいいわよね。だってわかんないもの。


 買って来た野菜の中のカブっぽいもの、っていうかどう見てもカブなんだけど、異世界だからもしかしたらよく似た違うものかも? と断言できないもどかしさよ。

 これの立派な葉は後日炒め物にするとして、白く丸い根の部分を細切りにし、白ワインビネガーに砂糖少々混ぜたものに漬けて放置。これでまず一品。箸休めのカブ(?)の甘酢漬け。


 次は、間引きした物らしいベビーリーフを洗って[乾燥アドライ]を軽くかける。ボウルの中で緑の小山がふわりと舞った。サラダスピナーがいらないとか、魔法が便利すぎるわ。


 さっき大量に作ったマヨネーズの残りの白身を薄く皿に敷いて、水なしでもできるのか疑いながらそーっと[湯煮アボイル]をかけてみると、いい感じにゆで卵っぽく固まった。

 これをざるで裏ごしすればミモザサラダの上を飾る細かい花になる。本当は黄身の黄色がミモザの花の色だけどね。


 皿に乗せたクレープ生地にベビーリーフを乗せ、マヨネーズを落とした上に、白身の花を飾れば、できあがり。

 サラダクレープミモザ風ってとこ? お客さんいるし小洒落てみたのよ。一人だったら裏ごししないでそのまんま食べるわ。


 あとは肉料理。肉の中から脂身の多そうな部分を取り出す。見た目は豚の肩ロースって感じだけど、なんの肉だろう。細切りよりも太い拍子ひょうし切りにし、塩コショウを振ってフライパンの上で小さくじっくりと[乾焼アベイク]をかけていく。


 溶け出た脂をジュウジュウとさせているところにレオナルド団長が戻ってきた。

 戻ったついでに制服も着替えてきたらしく、すっきりとした軽装でシュカを抱えている。


「……いい香りがするな」


「お肉焼いてました。座って待っててください。すぐできますので」


 肉から出た脂でカリカリッと焼けたら薄くスライスした黒パンに乗せて、今日買ってきた乾燥バジルをパラリ。チーズを乗せて[網焼アグリル]でとろけさせれば、なんちゃってパンチェッタのピザ風パン。


 それぞれお皿に乗せてテーブルへ置いていると、レオナルド団長は手に持っていた魔法鞄からワインを二本取り出した。


「ユウリ、赤と白どっちがいい?」


「白……かな。辛口だとさらに合うと思います」


「それはよかった、辛口だ」


 そう言ってコルクの栓を抜いてくれる。うれしい。辛口の白、大好物です!

 注いでもらったワイングラスを受け取り、目線を合わせてから「いただきます」と口を付けた。

 ほどよく冷え、酸味が強くキリリとした味は、大好きな甲州種のワインに似ている。


「タグを見せてもらってもいいですか?」


 ボトルの首に付けられたタグには「デライト領:マーダル:一八四七」とある。


「デライト領の……一八四七年もの……?」


「ああ。一年前の物だな。マーダルはブドウの種類だ」


「……とても美味しいです。好きな味……。ありがとうございます。マーダル覚えておきます」


 幸せ気分でナイフとフォークを手にする。

 お皿に並んでいるのは自分で作った目新しさもない料理だけど、材料がいつもとは違う。王城食材が満載よ。


 ミモザサラダのベビーリーフはいい香りで、ルッコラに似た葉はやっぱり辛くていいアクセントになっている。そして、いろいろな葉をマヨネーズがマイルドにまとめ上げていた。ナイフでクレープまで切って巻いて食べれば、優しい舌ざわりにシャキッと歯ごたえ、マヨネーズがトロリだ。


 太めに切ったパンチェッタ風の肉は噛みごたえがあり、表面のサクッとした食感も楽しい。肉、すっごい美味しいわ。脂身がさらっとして甘いの。肉の油を吸ったパンと溶けたチーズをいっしょに口に入れると、ドライバジルの香りが微かに鼻に抜ける。ヤバイ、ワインが進む……。

 こっちの料理って、素材の味が濃いなと思ってたけど、調理方法とか味付けとかじゃなく食材自体を進化させてきたのかなって思う。


 向かいではレオナルド団長が固まっていた。いや、口だけは動いている。

 その膝の上でおとなしくしていたシュカがひょこりと顔を出し、前足をテーブルに乗せた。


(『おいしそう! マヨネーズ!』)


(「シュカはマヨネーズを知ってるの?」)


(『マヨネーズ、しってるよ! カリッてやいたおあげにおしょーゆとつけると、おいしいの』)


 それ、わるくないわ。っていうか!


(「お揚げとお醤油?! どこにあるの?!」)


(『ないの?』)


 ……今のところ見てないし、ありそうな気配もないんだけど……。

 シュカは油揚げがないらしいと知って、しょんぼりとした顔になった。


(『しちみちょっとかけるとおいしいのに……。お酒といっしょに飲むとさいこーなのに』)


 本当によくわかってるわね。しかも狐のくせに呑兵衛のんべえか! あ、神の使いだから御神酒おみき飲んでたのかも?


「……シュカもマヨネーズ食べる? 葉っぱ食べれるの?」


『クゥ……』(『葉っぱあんまり好きじゃないの……』)


 また一口食べて黙りこんでいるレオナルド団長の膝から、隣の空いている椅子へシュカを移す。

 そして新しく出してきたお皿に、ミモザサラダのゆで卵白とマヨネーズを乗せてあげた。


「じゃ、卵とマヨネーズね。お肉も食べる? あ、鶏肉の方がいい?」


(『ぼくはふつうの狐じゃないから、なんでも食べれるよ!』)


 自慢げにそんなことを言うシュカの分を取り分けていると、獅子様が再起動した。


「……この、黄色のソースがマヨネーズというものか……?」


「そうです。卵で作るソースなんです」


「卵……。とろりと濃厚だけど酸味でさっぱりとまろやか……野菜がすごく美味くなるな……こんなソースは初めてだ」


「いろいろ使えるんですよ。そっちのお肉にちょっとつけても美味しいですし、焼くとまた違った味が楽しめます」


 さっそく試しているレオナルド団長は「この肉……! マヨネーズをつけると美味いが、このまま外側のカリッとした食感を楽しむのもいい……悩ましい……」と真剣な顔で皿の上を見つめている。


 舌の肥えていそうな貴族の獅子様をとりこにしてしまうとは!

 異世界でもマヨネーズは正義だった。恐るべしマヨ。


 結局、レオナルド団長はワインもさほど飲まず、じっくりと料理を味わって帰っていった。

 帰り際に「素晴らしい食事だった。ありがとう」と目をまっすぐに見て言われ、たいへん照れてしまいましたよ……。




 お腹いっぱい食べて寝ちゃったシュカを先にベッドへ入れ、片づけとシャワーと寝る準備をしてしまう。

 ベッドに入る前にステータスの確認。


([状況ステータス])


 ◇ステータス◇===============

【名前】ユウリ・フジカワ  【年齢】26

【種族】人         【状態】正常

【職業】中級警備士

【称号】申し子[ウワバミ]

【賞罰】精勤賞

 ◇アビリティ◇===============

【生命】2400/2400

【魔量】50692/50848

【筋力】54 【知力】83

【敏捷】93 【器用】89

【スキル】

 体術 63 棒術 90 魔法 48

 料理 92 調合 80

【特殊スキル】

 鑑定[食物]23 調教[神使]100

 申し子の言語辞典 申し子の鞄 四大元素の種

 シルフィードの羽根 シルフィードの指

 サラマンダーのしっぽ

 ◇口座残高◇================

 2500 レト



 ん――――?!

 なんかいろいろツッコミどころが?!

 爆上がりの魔法スキルとか、鑑定[食物]とか、調教[神使]とか、口座残高とか?!


 魔法スキルがすごい増えてる! 昨日は33だったはず。15も増えてる。

 もちろん、心当たりはあの盛大な[清浄アクリーン]しかない。

 そういえば昼間ステータス見た時、【魔量】の減りしか見てなかったっけ。

【知力】も増えてる。きっと魔法スキルと連動しているんだろう。

 もしかしてこれ、寝る前に家中[清浄アクリーン]をかけたら、魔法スキルと【知力】上げるのににいいんじゃない?


 調教[神使]は、シュカのことでしょうね……。スキル値100ってマックスですよ。完全調教なの? チョロインならぬチョロ獣なの?


 そして口座残高。

 食材を買うのに五百レト使ったから、三千レトあったってことなのか。

 日本では記帳で詳細がわかったし、もしかしたら銀行に行けばお金の出入りの記録が取れるのかも。近いうちに、行ってみよう。


 謎はいろいろ残るものの、今どうこうできるものじゃないし保留。

 スキルとアビリティアップを期待して、シュカがいるベッドルーム以外に[清浄アクリーン]をかけて寝るとしましょうか。





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