もう一度学校生活をTS逆行転生して女の子からやり直し!?(見た目は男の子の時のまんまです)
チクチクネズミ
第一部 小学生編 目覚めた青い果実
第1話 小学五年生からやり直し!?
人の体ってこんな簡単に落ちていくのだなと感慨深げに思うと、真っ黒なアスファルトが近づく。――俺死ぬのか。
手を伸ばそうにも一ミリたりとも動かない。誰かに言わなきゃなんないこととかいっぱいあるのに、その誰かがこの大事な時に思い出せない。
脳の記憶回路を必死に働かせてそいつの名前と顔を浮かべさせようとするが、黒い地面は小石の一粒が肉眼で見えるまで接近し、俺は正面からアスファルトの地面とキスをした。そして視界がどす黒い鮮血に染められてブラックアウトした。
――……で。――ひ……み
誰かが呼ぶ声が聞こえる。誰だ。
何度も呼びかけられるその音がおれを呼ぶものだと気づくが、顔に気持ちの良い冷たいものがぴったりと張り付いていて頭が上がらない。それにずんずんとこめかみに万力を加えられているように頭痛がする。それでも声は俺を呼び続ける。
「秀美、秀美」
「うるせぇなあ。頭いてえからもうちょっと待っててくれ」
寝言のように、その声をはねのけるとスパーンと叩く音が脳天響いたと同時に叩かれた痛みが届き、反動で俺は起き上がった。
「いった!」
「安住さん、始業式早々に寝てはいけませんよ。まったくほかの子の自己紹介中に寝るだなんて、教師人生で初めてだわ」
黒表紙で俺を叩いたおばさんは、眼鏡を持ち上げながらずんぐりとした太い体を揺らしながら教卓の前に戻っていった。しばかれた後頭部をさすりながら、見知らぬおばさんに文句ひとつでも言おうとした。けど、ようやく覚めた頭が体の小ささに違和感を覚えた。そして視界に入ってくるどこかで見たことがある教室。学校なのにみんな制服じゃなくカジュアルな私服で、しかもクラスの全員顔立ちがどこか幼い。それにあのおばさんたしかどっかで見たような……
すると頭の中で該当するものが転がり落ちた。ここ、俺が昔通っていた池ノ谷小学校じゃないか。それにあのおばさんは、俺の小五の担任だった口うるさい内田のババアじゃないか!
なんで俺ここにいるんだ? そもそも俺、さっきまで外にいたはずだろ? だが黒板の端に『五年二組』と白墨で書かれた文字を見て、ようやく自分が小学五年に戻っていることを自覚した。
五年二組……同じだ。組み分けも、先生も、クラスメイトもみんな。
自分が置かれた状況に頭が追い付かず困惑していると、隣から俺の肩に手が置かれた。
「秀美、お前大丈夫か」
俺の名前を呼んだ隣の席の男子は、短く切りそろえられた髪で顔立ちはまだ幼げであるが顔立ちは良い部類だった。ハッとど忘れ記憶の中にその男子が誰であるかを思い出せた。
「大枝……浬。だよな」
「ああ、秀美。生きているよな。ホントにホントに生きているんだよな。怪我とかないよな」
大枝は俺の肩をつかむと指に力が込められて肉が食い込む。生きている? 大枝の口から放たれたわずかな言葉が、冷たく汚濁された洪水のように頭の中に流れ込む。
そうだ。俺は、どこかから落ちて……死んだ。
体の関節がバラバラになりそうなほど怖かった。死ぬときの光景が、昔の白黒映画のようにセピア色になって蘇ってくる。だが、目の前の大枝が必死に俺のことを案じていること、自分の奥の底から力を踏ん張らせて、震える体を抑えた。
俺が怯えるさまを見せたら、
「平気平気。たんこぶもできてないしさ。元気、元気」
「よかった。よかった!」
大枝が必死になる姿に周りのクラスメイトが「何をオーバーな」と驚きと呆れる声で騒めき始めると、内田先生の眼鏡が光り、違反者を発見した。
「安住さん、大枝さん。ほかの子の紹介がまだですから静かにしてください!」
内田先生が俺たちの方を丸眼鏡の奥がら眼光を飛ばして注意する。先生の雷に俺と浬は一緒に小さく縮こまりながら「すみません」と謝った。
どうなってんだよ。俺たち。
始業式ということもあり、学校は午前で終わった。内田先生が教室から出る一人一人に口酸っぱく「寄り道はダメですからね」と言う声が頭に残りながら、俺は自分の家がある道を進んでいた。
浬は俺の住んでいたマンションの二階上の住民であり、帰り道も同じだったが、この学校が本当に昔と同じなのか調べるため少し残った。
町の風景は小五の時と奇妙なぐらい同じだった。小さなねじが道端にまで転がる町工場も。女の子の店みたいに赤い看板が目立つ床屋も。そして公園の遊具も、あの時と寸分違わず同じだった。家が俺の記憶にある通りに存在するか校門を出たとき案じたが、幸か不幸か街並みを見ていくごとにその心配はなくなった。
しかし、小五までの記憶は覚えているのに、それ以降の記憶は一切こない。ほとんど中身の入っていない茶色のランドセルが歩くたびにガタガタ音を立てて揺れながら、未来の記憶を探るが、もやがかかったようにはっきりと見えてこない。
他にあるとすれば――死んだ直前の記憶。顔から自分の体が壊れていく残像が霞が出るように浮かび上がると、ランドセルの金具が一つ大きく音を立てた。春なのに、その記憶が出ると俺の周囲だけ冬に戻ったかのように震えあがった。
ピンクと緑が混じる桜が咲いている公園を抜けた先の角を曲がると、俺のマンションが記憶の通り君臨している。
中に入ると先に郵便受けを確認して俺の家があるか探してみる。確か、俺の家は五〇四のはず……そしてやはり『安住』という名前が五〇四号室の郵便受けの所に存在していた。場所も確認できてエレベーターを待っている間、監視カメラに自分の姿が映ったので今の自分の体をチェックしてみた。
肩につくかつかないかぐらいまである男としては長い髪に、半袖のシャツとパンツ。体に対してフィットしているランドセルは、俺が小学生であることを如実に表している。やっぱり昔に逆行しているよな。でもなんで小五からなんだ。エレベーターに乗り込んだ後もそれについて考えるが全くといって記憶からの答えは出ず、春の花粉症のようなもどかしさが刺さってくる。
すると、お腹の底から寒気に似た尿意が襲ってきた。もうちょっと持っててくれと股間をぎゅっと閉じようとするが、力が入らない。おいおい、もうちょっと我慢してくれよ。小五で漏らすだなんていやだぜ。しかも人が見ている前でさ。とエレベーターの隅に設置されている監視カメラに視線を泳がせた。
ようやくエレベーターが五階に止まると、短距離走をするかのごとく駆けだした。距離で言えばたった十メートルにも満たないが、尿意が近づいていくごとにそこまでの道のりが遠くにあるように感じられた。家に入るや否や靴を投げ捨ててトイレの場所を探すと、『WC』と赤と青で色分けされた札が下げられたドアを見つけ飛びこんだ。
下の物を全部脱ぎ捨て、便座に座るとしょんべんが体から自動的に排出されて、全身の力が抜けていく。
「ん? なんか変な感じ」
尿の出方がおかしかった。尿が細い管から下っていくのでなく、直接落ちていく感じだ。音もしょんべんが跳ねる音でなく、直接便器の水の中に注ぐような音が聞こえてくる。便器の中を覗いてみると、今まで寸分と違っていないのが一つだけ異なっていることに肌が粟立った。
チンチンがなくなっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます