帰り道

 ずっと、家までの道のりが遠く感じていた。そりゃそうだ。遅く歩いていれば、その分着くまでの時間も比例する。

 僕は、家が嫌いだったんだ。何てことない日常、何てことない家庭。その中で巻き起こる非日常。僕と父親が二人きりになった時だけ訪れる、地獄の時間。あれを思えば、ただ歩くだけの暇な時間なんて、可愛いものだった。

 でも、彼女と出会ってからは少し見方が変わったんだ。地獄の道のりが、ただの試練だと思えるようになった。まるで勇者がレアアイテムを得たいが為に、ダンジョンへ潜るように、僕は彼女と会うために家へ帰る。

 帰ってからは、なるべく気付かれないようにして支度をして、彼女と別れるのは家族が寝静まってからにするんだ。

 とても危険なことに変わりないのに、僕は何故かわくわくしている。「危険」が、「スリリング」に変わった瞬間だった。娯楽に成り下がった恐怖に、もう僕が屈する理由はどこにもない。

 そう、彼女が僕を変えたんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る